34話 考え方や立場が変われば欠点も利点も変わっていく事も
「ともかく、これから増えていく者達が寝泊まり出来る所が必要です」
最も懸念するべき事を口にしていく。
「今も新人達を住まわせる場所の確保が大変になってきてます。
早めに対処しておいた方がよろしいかと」
「なるほど」
これは結構重要な問題になっていく。
人を確保する以上、生活の場所は絶対に必要になる。
それらをどこで確保するかは重要な問題だった。
これが冒険者なら周旋屋で寝泊まりしていれば良いが、ヒロタカの場合そうも言ってられない。
一応周旋屋に登録はしているが、基本的にはヒロタカの下で働いてもらう事になる。
他の作業などに引っ張られるわけにはいかなかった。
となると、可能な限り近くに置いておかないといけない。
その為にも宿舎の確保を急がねばならなかった。
何せ、建築に何ヶ月もかかるという世界である。
今のうちにどうにかしないと全てが手遅れになりかねない。
「まあ、土地は余ってるから良いとして。
すぐに着工できるでしょうか?」
「もちろん出来るぞ」
事もなげに父は頷く。
「家の周りの土地も正式に購入してある。
小屋みたいなものだが、既に建築の手配もとってある」
「用意が良いですね」
「人を集めると聞いた時からこうなるとは思っていたからな」
「さすがです」
商売人として、経営者としての年季が違う。
様々な体験や経験が智慧となって活きてるのだろう。
「ここも賑やかになりますね」
「そうだな」
父も同調する。
「町の外れにあるこっちの方が発展するかもな」
成り上がりが居場所を確保するのが意外と大変である。
町の中は既に入ってる者達であふれてるので入り込むのも苦労する。
既存の支配層や富裕層も、自分らをおびやかしかねない新入りへの警戒がある。
そういった事もあって、町の外れの方へと自然と追い出されてしまう。
これは成り上がりだけではなく、他の町や村から流れて来た者達全体にあてはまる。
町にもともといた者達からすれば、自分達の居場所を分け与える道理がない。
その為、町の外側に集落が出来る傾向がある。
これらは田畑の作業をしている者達の集まりとも違う。
町を取り囲む田畑の更に外側、モンスターから町を守る為の柵や堀の外に追い出されてしまう。
利便性を考えてか、町から外に伸びる街道の周りにそれらは出来る傾向にある。
誰が言い出したか分からないが、どこに言ってもそれらは同様の名称で呼ばれるようになる。
雑居街。
貧民街。
貧民掘。
そこにいるのは住む場所をおわれた、モンスターによって壊滅させられた者達が多い。
行く場所を失い、それでもどうにか生き延びてきた者達がそこに屯する。
また、町の中に居場所が見つけられなかった者達も、そういった外周部に居を構える事が多い。
春日家も例外ではなかった。
それが本来は摩擦の種になり、不満の原材料になる。
しかしここに来てこれが好材料に変わろうとしていた。
何せ周りの土地は買い手が付かないほど安い。
そして、他に人もいない。
モンスターに遭遇する確率が高い町の外だから当然だが、拠点を作ろうとしたらこれほど便利な所はない。
有り余る土地を好きなように使える。
そして、他の誰かに見られる心配がほとんどない。
何かを密やかに進めるには好都合だった。
「今にしてみれば、ここに追い出されたのは正解だったな」
父もご満悦である。
「すぐにでも作業に取りかかる。
二ヶ月か三ヶ月もすればいくつかの小屋が出来上がってるだろう」
「それまでにこちらも人を育てておきます」
「期待しているぞ」
「頑張ります。
少しでも先に行くために」
自分達の勢力拡大のために、やらねばならない事は多い。
その為にも、ここで足踏みしてるわけにはいかなかった。
「それとですね。
今後に向けてもう一つやっておきたい事があります」
「なんだ?」
「周旋屋の買収です」
更新中はこちら。
「転生したけどウダツの上がらない冒険者は、奴隷を買う事にした」
http://ncode.syosetu.com/n9583dq/
ちょっとお休み中はこちら。
「クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-」
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