33話 新人を今まで通りの手順にはめこんでいく
「というわけで、新しい人が増える」
「よろしくお願いしまーす」
元気よく言って頭を下げて、新人は名前を名乗っていく。
「畠山ミズキです。
馬やロバの世話をする事になります」
「そういう事だ。
これから一緒にやっていくから頼むぞ」
そういってヒロタカは締めくくった。
出発前の朝礼のようなものを終えて、出発の準備に入っていく。
新たに入ったミズキであるが、馬車の準備は手慣れたものだった。
隣の御者が手順を見ているが、特に口を挟む事もない。
念のために確認をしてるというのが見てとてる。
これは本当にありがたいと思いながら、二台に増えた荷馬車の一つに乗り込む。
荷物などは二台に分散してるので、中は広々としていた。
これで一台の負担がかなり減る。
それだけでもミズキを入れた甲斐があると感じた。
(やっぱり人を早く増やしていかないと駄目だな)
この先モンスター退治の人間を増やしていくなら、それ以外の作業に従事する者も増やしていかねばならない。
実際に増やしてみて、そのありがたみを感じた事で思いは強くなっていった。
それ以外の作業はいつも通りに進んでいった。
集まってるモンスターに襲いかかり、一気に蹴散らしていく。
人手が増えたのでクロスボウも増やし、ミズキにも射撃をさせていった。
さすがに戸惑っていたが、それほど難しくもないので意外と当たる。
それがモンスターの数を更に減らすものだから、戦闘は更に楽になった。
戦闘終了後の核の切り取りも短時間で終わる。
連れて行くロバも四頭になったので運搬能力は高い。
それでもおびき寄せの場所を全部巡るのには時間がかかる。
移動距離と速度の限界があるからこれはやむを得ない。
ロバなどにまたがって移動出来れば多少は早くなるかもしれないが、それだと騎乗用の動物をより多く連れてくる事になる。
さすがにそれはあまり現実的ではない。
いずれはそういった事も考えていかねばならないのかもしれなかったが、まだそんな段階ではない。
とにかく地道に行くしかなかった。
それでも日が経つ毎に成果は目に見えてくる。
新人達の最初のレベルアップが起こり、その十日後あたりに更にもう一回レベルアップが起こる。
一ヶ月で二つもレベルが上がった事で、手間が減って効率が上がっていく。
この頃には新人達も自信を持つようになり、モンスター相手に臆す事も無くなってきていた。
それが傲慢や過信にならないよう注意はしなければならないが、まずは自分は出来るんだと言う確信を抱かなければいけない。
出来ると思わなければ行動にうつらないし、行動しなければ結果は出てこない。
それが失敗に終わるか、成功を飾るかは本人の実力と努力と運と、周りの状況によっていくだろう。
それでも、何かやり始めなければどうしようもない。
そこはヒロタカは大事にしておきたかった。
仮に失敗したら、それが彼等の責任であるならどうしようもない。
自ら招いた結果を自ら受け取るだけなのだから。
モンスターを相手にする以上、しくじりは死に直結するという事を身をもってしる事になる。
もし死を逃れたなら、それが経験となって今後に活きていくだろう。
そうでなければ、あの世で後悔と反省をする事になるだろう。
それだけの事、と割り切るしかなかった。
「まあ、それならそれで仕方あるまい」
帰宅後、執務室でそういった話をした後の父の言葉である。
「どれほど嫌がっても結果を受け入れるしかない。
それが他の誰かによって貶められたものでないなら、自分自身の事として認めるだけだ」
「さすが、分かってらっしゃる」
「それが出来ないで失敗を繰り返す者を見てきたからな。
ああはなるまいと何度も思ったものだ」
「参考になります」
「うむ。
こんな小言でいいならどんどん吸収していってくれ。
そしていつかこの父を超えてみよ」
真顔になって言う父に、ヒロタカは冷ややかな笑顔を向ける。
こういう時の父は、胸の中で「さあ、褒めるがよい!」などと言ってるものなのだ。
役立つ意見や智慧を口にしてくれるのは確かだが、その実子供達に褒めてもらいたい、というような願望が見え隠れする。
それが親としての欲求なのかもしれないが、そういう部分に今一つついていけない。
「まあ、それはともかくとしてですね」
「え、他に何か言うことないの?」
「仕事の話なんですが」
「いや、ちょっと待ってよ」
途端に慌てる父のお茶目な所がヒロタカは好きだった。
だが、今は仕事の話をするしかない。
「人が増えて来てるので、やはり事前に手を打っておかねばなりません」
「本当に何も言ってくれないの?」
「…………ありません」
「でも、ちょっとくらいは…………」
「ありません」
「なあ、ヒロタカ。
たまには父親を評価してくれてもいいんじゃないの?」
「ありませんから」
父の願望をはねつけ、ヒロタカは話を進めようとする。
泣きそうな顔を作る父にため息を吐きたくなる。
そこに威厳らしいものを見つける事は不可能であった。
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