31話 こなす事が出来れば、得られる利点も大きくなると予想はしている
「そんなわけですので、当面はモンスター退治に勤しんでもらいたいと思います。
最低でもレベル3の戦闘技術を身につけるまでは。
そこまでいけば、モンスターに襲われてもどうにか切り抜けられるでしょうし」
「お前に同行する事になるからな。
それくらいは出来ないと困るか」
「それに、今後屋外で活動するなら、モンスターの襲撃を切り抜けねばなりません。
町や村の間の移動においてもこれはあてはまります。
商品輸送にも、それなりの人員は必要ですよね。
なので、そういった事が出来る人間を増やす事にもつながります」
「確かにな。
最低限の戦闘が出来るなら、護衛に高い金を払う必要がない」
多少なりとも文明的な生活をしようと思ったら、必要な物資を輸送する必要がある。
全ての資源が一カ所で、必要なだけ採取出来るなら良いが、世の中そういう風には出来てない。
農作物や牧畜にしても、育成するのに適切な環境がある。
鉱物資源においては、採掘場所がどうしても限られる。
制作された部品や製品にしても、それを作った場所から運ばねばならない。
自給自足など、どうあがいても不可能である。
その為、生活水準を多少なりとも高い位置で保つためには、物資の輸送が必要になる。
モンスターに分断されたこの世界では危険な行為であった。
その為に護衛は絶対に欠かす事が出来ない。
だが、その護衛の質は常に問題になる。
かなりの確率で遭遇する事になる犬頭であってもレベル3程度の技術は必要になる。
そこまで到達してる者はそれほど多くはない。
軍隊で訓練を受けるか、個人的に道場などに通って腕を上げない限りはそこまで行かない。
冒険者でもそこまで行ってる者はなかなかいない。
それを雇うとなると結構な金額となる。
自分達でそういった人材を抱える事が出来るなら、願ってもない事だった。
人数の節約にもなる。
作業員と別に護衛を雇う必要性が薄れる。
「そうなるかは分からないですけどね。
でも、これから育成していく者達にはそういった方向も示していこうと思います」
「そうしてくれるとこちらも助かる」
父の事業においても、物資輸送は必ずからんでくる。
その為の人員は常に必要とされていた。
「とりあえず必要な人間を揃えるためにも、モンスター退治は続けようと思います。
ただ、人が育つまでは技術者を入れないといけません。
その手配をお願いします」
「人使い、いや、親使いの荒い息子だな」
そう言いつつも父は笑顔であった。
「そうでなくても心許ない。
いや、よくまあそれだけ見事に育ってくれたものだ」
「日頃の教育の賜です」
親を立てる事も忘れない。
「では、御者をまずは取り立ててやってください。
求める能力に達していないかもしれませんが」
「分かった、早速話をしておこう。
本人にはお前が直接面談してもらう事になるだろうが」
「分かりました。
出来るだけ日程を合わせるようにします」
「そうしてくれ」
話し合いは概ね終わった。
これで問題解消に動いていける。
ただ、問題が解決するかどうかはこれからの動きによってくる。
それが気の重いことだった。
「そういうわけで、お孫さんと会いたい。
まずは父さんから話があると思うけど、その後でね」
「分かりました。
わざわざお知らせしてくれてありがとうございます」
御者は深々と頭を下げた。
「何もこんな所までお越しいただかなくてもよろしかったのに」
「いや、話は早いほうがいいと思ってね。
格式や身分なんかでそれをふいにしたくもないし」
そもそも成り上がりの春日家において、格式や身分なぞ持ち出す方がおかしいのである。
なのだが、一応雇用主と使用人の間でそれなりの差は生じる。
指揮系統というか、命令を出す側とそれを受けて作業を行う者ではどうしてもある程度の差が生じる。
そこまで立場を水平化するわけにはいかない。
それは公平や公正とは違う。
平等ではあるだろうが、そんな平等は不要にして無用どころか害悪でしかない。
仕事をする上においては指揮系統が必要になる。
なんでも対等の立場でものを言えば良いというわけではない。
それがなくても、他人に対する敬意などは示さねばならない。
まっとうな人間相手ならそれなりの礼儀を示した方が良い。
人間関係が円滑になる。
よほど偏屈でもないかぎり、悪口雑言より褒め言葉をもらった方が嬉しい。
相手をおだてて調子にのらせ、意のままに操ろうというのでもなければ。
長幼の序などとは言わないが、自分以外の誰かへの丁寧な接し方くらいは心得ておきたいものだった。
ちょっとした会釈をする、少しだけ言葉使いを気を遣う。
その程度で良いのだから。
ただ、それらで相手との間に仕切りや壁を作るなら本末転倒である。
今回もその一つだった。
わざわざ言伝しにいくだけである。
それも一言二言。
そのためにわざわざ使用人を掴まえ、用事として言いつけ、相手に伝える、などという手間をかける必要性がない。
直接出向いて用件を伝えた方が手間がかからない。
こういう部分でヒロタカはざっくばらんだった。
彼だけではなく、春日家の人間は概ねそんな調子であるので、特別というわけでもない。
「そんなわけでよろしく」
そう言って御者のいる小屋を出ていこうとする。
馬小屋の近くにあるこの小屋は、御者の仕事場であると同時に彼の住処でもあった。
本来の家は別にあるのだが、仕事に便利だからと泊まり込んでいる。
自宅が家族全員で住むには手狭だからというのも理由のようだった。
おかげで馬などの面倒を見る者が常時いてくれて助かる。
そこから家に戻り、部屋へと向かっていく。
明日もあるのでさっさと寝てしまおうと思っていた。
更新中はこちら。
「転生したけどウダツの上がらない冒険者は、奴隷を買う事にした」
http://ncode.syosetu.com/n9583dq/
ちょっとお休み中はこちら。
「クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-」
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