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3話 ここは真っ当に話していきましょう

「それで話なんですが」

「うむ」

「まずは、学校を休む事。

 これはどうしようもありません。

 休学の手続きをとらないといけません。

 父さんの了承が必要です」

「まあ、仕方ないな」



 父は承諾しかねるといった顔をしていたが、先ほど家族と使用人達の前での事もあって頷いた。

 ここは全く問題がない。

 むしろ当たり前の流れであるから楽に進んでいく。

 問題はここからだった。



「それで、これから何ですが、父さんからの出資をお願いします」

「出資?」

「はい、出資です。

 無利子・無期限・無担保で」

「おい、それはいくら何でも……」

「確かにこれは無茶を言ってます。

 ですが、出資と言ってる以上、俺もそれなりの見返りを考えてます」

「ふむ……」

 父の顔が商売人のものになった。



 ヒロタカが言った『出資』という言葉を考えてるのだろう。

 そうなるように言葉を選んだ。

 これからの話は、子供が親にねだる無心ではない。

 一人の人間が将来の利益の為に求める支援であると。

 投資であり、出資であると。

 そういう事をまずは考えてもらいたかった。



「まず、冒険者ですが、基本的にモンスター退治です。

 それによってモンスターを倒して得る核を売りさばきます」

「そうだな」

 これはこの世界における共通認識である。

 一般的な知識や情報と言ってよい。



 モンスターは核と呼ばれる生命の土台をもっており、それを体から切り離されると消える。

 そして核は、魔力と呼ばれるエネルギーを内包しており、これを用いて様々な動力に用いる事が出来る。

 冒険者はこれを手に入れてくる業者なのだ。

 一般的に流布している核は、ほとんどが冒険者の手によるものである。



「この核を大量に短時間で手に入れるために、出資して欲しいんです」

「なるほど。

 だが、どうやって?」

「人を使います」

「どんな?」

「魔術師です」

 父の眉がピクリと動いた。



「魔術師は滅多にいませんが、いる所にはいます。

 俺の通わせてもらってる学校にもいます」

「だろうな。

 貴族などの師弟が通う所だ。

 そういう者がいてもおかしくはないだろう」

「ええ、そうです。

 そんな学校に通わせてくれてるんだから、感謝に堪えません」

「世辞はいい」

 ヒロタカの言葉を父は遮る。



「商売の話に、そんなものを持ち出すな。

 下手なおべっかは相手を不快にさせるだけだ」

「失礼しました」

 商売人としての先輩に頭を下げる。

 また、こういう事を言ってくれるのが身内だからこそだという事にも礼をする。



「そんな学校だから、魔術師としての素質や素養を持ってる者もいます。

 それらを連れていこうと思います」

「どうやって?」

「彼等は特殊な能力を持ってますが、全てが恵まれてるわけではありません。

 調べてみた所、家の調子があまりよろしくない所が何軒かあります。

 控えめに言って、身分の割に貧しい」

「まあな、貴族も末端なら村の庄屋以下の生活という者もいる。

 富裕層の庶民なら、景気一つで簡単に傾く」

 余程の特権を持ってないかぎりはそんなものである。



「なので、そういう所の人間を使います。

 適度な金で転ぶ程度の人間を」

「借金の形に手に入れるというのは?」

「一番無難というか、やりやすいかもしれません。

 でも、必要な資金が莫大になります。

 金で買うというのも体面が悪い。

 それよりは、程よく金に困っていて、適度な金で満足出来るあたりが丁度良いかと」

「そんな都合の良い人間がいるならな」

「候補として一人います。

 どこまで困ってるか分かりませんが、多少の金を融通すればどうにかなるかと。

 それが駄目だった場合の保険として、家が傾いてるのを二人ばかり候補に加えてます」

「…………なかなか手際がいいな」

「まあ、噂話はあちこちから聞こえてきますから」

 深い付き合いはしてないまでも、適度な会話が出来る程度の人間関係は作ってある。

 それが目的の学校でもある。



 少なくともヒロタカはそれ以外にさして興味はない。

 成績も落第しない程度であればと考えている。

 卒業後の就職を考えねばならない一部の生徒とは違うのだ。

 貴族に富裕層が通う所である、大半が卒業後の生活もほぼ確定済みだ。

 だからこそ、焦る必要などが全く無い。



「ですので、その者をまずは引き込みたいと。

 幸い、それなりに魔術は使えるようなので」

「だが、それだけで良いのか?」

「あとは使用人を一人貸していただければ。

 細かい作業をしてもらいたいので」

「分かった、使える者をみつくろっていけ」

「いえ、入ったばかりの者でかまいません。

 技術など無くても大丈夫です。

 素直に言う事を聞いてくれるならそれで」

「ほう?」

「使用人にはそれほど面倒な作業をさせるつもりはありませんから。

 変に才気走ってつっぱったりするような奴など願い下げです。

 言う事を聞いて、言われた通りに動けるなら十分かと。

 家の事もありますし、使える者を引き抜いたら今後に差し障ります」

「なるほどな」



 実際、引き抜いて仕事に影響が出ると面倒になる。

 使用人達を敵に回しかねない。

 不平不満は、たまると後の障りになる。

 そんな面倒は避けたかった。

 それに、危険な所に連れていく事になる。

 生命の危機もあり得る。

 万が一死んでしまったら、それこそ目も当てられない。

 非情な言い方になるが、損害は可能な限り小さな方が良い。



「人に関してはそう考えてます」

「分かった。

 それで、幾らぐらい必要だ?」

「使用人については、今まで通り使用人としての賃金だけで良いかと。

 何かしら手間賃を出すなら、これから稼ぐ分から出す事にしたいと思うので」

「魔術師は?」

「相手にもよりますが、もし最も出費が少ない場合で、一日十銀貨」

「ふむ?」

「無理矢理引っ張り出すのだから、それくらいでないと威力がありません。

 一ヶ月に二十日稼働として、二百銀貨。

 これが経費になります」

「かなり高いぞ」

「その分モンスターで取り戻します」

 力強く答えた。

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