26話 さすが抜かりはない、先の事を読んでいらっしゃる
「それで、話とは?」
食後、執務室に入ったところで、父は経営者として聞いてくる。
「以前話していた、事業拡張の事です」
「村を取り戻すとか、回復させるとか、そういった事だな?」
「はい。
やり方は概ねこれで良いと分かったので、それらを目指していこうと思います」
「なるほど。
となると、人を集めねばならないな」
「はい」
何をするにしても人間は必要になる。
モンスターとの戦闘もそうだが、それ以外の雑用などをこなす者も欲しい。
まして、人間の生活圏を取り戻そうというのだ。
ちょっとした軍隊並の規模で人間が必要になる。
それも恒久的に。
一時的に冒険者を雇うというわけにはいかない。
しっかりした組織としてやっていける集団を作らねばならない。
上手く統率していかねばならないが、それも含めてまずは人である。
「早速ですが、募集をかけてもらえないでしょうか?
あちこちの村で冷や飯を食ってるのを引き抜いてもらえると助かります」
「何人だ?」
「とりあえず三人ほど。
それをまずはレベル3に上げます。
多少効率はおちるでしょうが、二ヶ月もあればどうにかなるでしょう。
それが出来たら今度は六人。
レベルの上がった者達に引率をさせて、これを育てていきます。
これもそう簡単にはいかないでしょうが、半年で三十人ほどレベル3以上の人間を揃える事が出来れば」
「分かった」
父はすぐに頷いた。
机から書類の束を出しながら。
「この中から適当なのを選んでいけ」
「はい?」
「この近隣の村には声をかけてある。
うちで働く使用人が必要だと言ってな」
実に手回しが良い。
ヒロタカから話を聞いてすぐにとりかかったのだろう。
「助かります」
こういった所の迅速さにヒロタカは頭が下がった。
「それでは妥当な人間を選ばせてもらいたい。
出来るだけ素直に言う事を聞く奴がいいんですけどね」
「それも所見として書き込んである。
まあ、こればかりは実際にやらせてみないと見えてこないがな」
「確かに。
人間の考えや思いほど読めないものはありません」
魔術でそういったものを読み取る事が出来れば良いのかもしれないが、そんな便利なものをヒロタカは身につけてない。
「それでは早速この中から。
すぐにでも働ける者がいればありがたいです」
「何人かはもうこっちに呼んである。
今はこっちの仕事を手伝わせてるところだ」
「……おそれいります」
こういったあたりが、まだまだ父に及ばないところであった。
渡された資料を読んでいって、妥当な者を見繕っていく。
とにかく所見欄に素直と書かれてる者、それに該当する事が書かれてる者をあたっていく。
才能があってもひねくれてる者や、強情な者などはいらない。
例えどれだけ優秀であっても、やってもらいたい事をやらないような奴は不要だった。
利益にならないどころか損害を引き起こす可能性もある。
なので、指示や命令に従う者が欲しかった。
そうであるならば、時間をかければ使える人間になっていく。
この一ヶ月半ほどやってきて分かった。
これだけの時間をかければ、確実にレベルが上がる。
そうなれば必要な作業は出来るようになる。
言う事を聞いてくれていれば。
なので、出来るだけ素直に人間を選びたかった。
従順と言ってもよい。
余計な面倒はいらない。
多少癖のある人間は、そういった者達が育ってから使っていっても良いのだから。
その基準で選んだ者達について、更に聞き込みをしていく。
父の仕事の手伝いをさせてるという事で、実際に業務を既に行っている。
長いものでまだ二週間程度という事だが、それくらいあれば大まかな人物評は聞ける。
概ね所見に書いてある事と相違はなく、言う事を聞く者やそうでない奴がはっきりとしていく。
加えて、言う事は聞くが、言わなければ何もしない者。
言われて何かするも、不器用で上手く仕事がこなせない者もはっきりする。
そういった困った所についてはどうするか考えていかねばならないが、とりあえずは従順な者を見繕っていく。
その分作業現場から人を引き抜くことになるが、作業効率が落ちる事はほとんどない。
連れてきた新たな者達は、とりあえず手習い程度に身を置かせていただけである。
実際の作業は、既に働いてる者達だけでも十分に回る。
むしろ、余計な新人が居る事で手間が増えてしまってるくらいだ。
引き抜く事で、むしろありがたがられるくらいである。
新人達に不満や文句があるわけではないが、余計な手間や面倒を抱えていたせいであろう。
理由はともあれ、気兼ねしないでいられるのはありがたい事だった。




