2話 親のすねをかじってますが、それで何が悪いのでしょうか
「だから父さん。
俺にも機会をくれ」
「いや、しかし」
「学校までやってくれてこんな事を言うのは申し訳ない。
でも、俺も自分で何が出来るか、どこまで出来るか試してみたいんだ」
嘘ではない。
どこまでレベルが上げられるか、どんなモンスターまで倒せるようになるか。
それを試してみたいという気持ちはある。
「学校の方は一度休む事になる。
でも、それでも見てきたいんだ。
父さんが見てきたものを。
そのほんの一部でもいいから」
これも嘘ではない。
自分の生まれた村や町から遠出する事の少ない状況である。
移動手段がせいぜい馬車、ほとんどが徒歩であるだけに、遠出する事は難しい。
そうでなくても人里から離れればモンスターが出てくる。
村や町の移動は常に危険がつきまとう。
そんな世相のおかげで外の世界というのはなかなか見れるものではない。
これは学校に通う為に町から離れていたヒロタカとて同じだ。
基本、町と学校、その二カ所くらいしか知らない。
転生前の世界、かつて日本などがあった場所とはそこが違う。
旅行などおいそれと行けるものではない。
そんなのは、本当の特権階級や桁外れの富裕層でしか出来ない贅沢である。
男のロマンとして、世界中を旅して回るというのは、誰もが抱く切実な夢でもあった。
「だからお父さん、俺にも機会を与えて欲しいんだ」
「しかし……」
「もの凄く無駄な遠回りになるかもしれないけど、今のうちに見る事が出来る色々なものをみてみたいんだ」
「ううむ……」
父もその言葉に腕を組んで唸る。
彼も伊達や酔狂で荒事をこなしてきたわけではない。
理由の大半が欲望と栄達への願望であったとしてもだ。
そこには、今の所に留まりたくない、もっと上を目指したいという欲求がある。
だからこそ、無茶をしてでも今の地位を築いた。
ヒロタカの言葉を無碍に否定出来なかった。
そのあたりの心情をある程度ヒロタカも読んでいた。
息子がこんな事を言い出せば、多少は心動かすだろうと。
かつての自分のようになりたいと言えば、親心として嬉しくなるだろうと。
そういう計算がある。
あるいは父はそういったヒロタカの心情を読んでるかもしれない。
そうであるならなおの事言葉を重ねていくしかない。
自分の息子が自分のように冷徹に計算をしているという事を伝えるためにも。
それは二代目ともくしてる(であろう)子供に十分な資質がある事を示す事になるからだ。
何より父が子供達にはメチャクチャに甘い事を。
非情な努力をしてのしあがった反動であろうか、手に入れた家族を本当に溺愛している。
それを踏まえての懇願である。
「……分かった」
予想通り父は折れてくれた。
「お前がそう思ってるなら仕方ない。
好きにしろ」
「ありがとう、父さん」
まずは第一関門を突破した。
続いて次の段階に入っていく。
「それで父さん、早速だけど今後の事で話をしたいんだ。
学校の事もあるし。
俺一人だけで全部を決めるわけにはいかないでしょう」
「そうだな。
うん、そうだな。
分かった、後で部屋に行こう」
これで次の段取りが決まった。
このまま裸一貫で外に放り出されては困る。
出るのは元々の予定通りであるが、何も無一文で、とは言ってないし思ってもいない。
(出来るだけ出資を出させないと)
それが大前提だった。
冒険に出る、モンスターを倒す、世界を旅して回る────これらは確かに望んでいる。
しかし、全てを何もない所からなどという無茶をするつもりはない。
(可能な限り準備はしていかないと)
これが貧乏暇無しであれば裸一貫からの努力をするしかないだろう。
しかし、今世においてヒロタカは金持ちに生まれた。
桁違いとは行かなくても、町で一番、この近隣でも最大規模、町や村の様々な物流を左右する商売人の子供である。
引き出せるだけの財力を徹底的に引き出すつもりだった。
もちろん簡単ではない。
いくら子供に甘い親だとはいえ、商売や金が絡めばそこは話が違ってくる。
何かしら呈示出来る利益がないと話が終わる。
こじれた場合、本当に放り出される可能性があった。
下手すれば、死体にして放り出すかもしれない。
それくらいはやる男である。
また、そうであるからこそ一代でここまでのし上がれたのだろう。
(さて、どうなるやら)
今までの人生で一番の、それこそ前世を含めても最大級の山場を迎えようとしていた。