19話 それによって出来ることで、更に利益の拡大を
自動車が走るのにガソリンがいるように、何かを動かすには燃料が必要になる。
この世界においてそれは魔物の核が担っている。
これを大量に集めれば、様々な機械を動かす事が出来るようになる。
その恩恵は大きい。
単純に、光を放って明るい場所を確保するだけでも大きい。
これにより、作業時間を長くとる事が出来るようになる。
また、魔術師が魔術を用いる回数を増やす事も出来る。
ヒロタカが世話になってる魔力付与もそうだが、こういった事がもっと広く活用される土台を作る事が出来る。
魔術によってもたらされる便利さは大きく、それが今以上に活用されるようになれば、作業効率の上昇が見込める。
その為にも、まずは核を各週出来る人間を確保しなくてはならなかった。
当然ながらこの事はたいていの人間には分かってる。
しかし、どうやって成長させるかという部分を解決する目処がなかなか立っていなかった。
「それを、俺がやってる方法で少しでも解決出来ればと思いまして」
「なるほどな。
確かに、確かに。
上手くいけば確かに有効な手段ではあるな。
短期間で必要な技術をもった人間を安上がりに作る事が出来る」
「ええ。
たった銀貨千枚。
それで、モンスターを倒してくる事が出来る人間を作る事が出来ます。
しかも二ヶ月ほどで。
もちろん、魔術師がいた場合に限りますけど」
「魔術師を育てる目処は付いてないのか?」
「確実な事は何も。
どうやったら魔術に目覚めるかがまだ判明してませんから。
ある程度考えはまとめてはいますけど」
「今のところは無理という事か」
「余裕が出来たら試してみたいとは思います。
ですが、まだその段階には達してません。
俺のレベルすらまだ上がってないわけですし」
「それもそうだったな。
先走り過ぎたようだ」
「でも、先々はそれを踏まえていくつもりです。
その為にも、目先の問題をどうにかしないと」
「それもそうだな。
だが、二ヶ月と一千銀貨で人が作れるなら安い投資だ。
安定して核が取れるなら、十分に回収の目処が立つ」
「その手法を他に真似されたくありません。
いずれ誰かが思いつく事だとは思いますが。
既にもう思いついて実行してる者もいるかもしれません。
でも、この近隣ではおそらく俺くらいだと思います、考えたのは。
だから、この優位性をもう少し確保しておきたいんです」
「分かった」
父はヒロタカの言いたい事を理解した。
「なら、核はこちらで買い取ろう。
それなら問題はないだろう」
「いいんですか?」
「かまわんさ。
言ってはなんだが、そのくらいの量なら誤魔化しはきく。
うちから世の中に売り飛ばしてもそう簡単にばれる事は無い。
いずればれるにしても、大分先の事になるだろう。
うちで使っても良いんだしな」
「助かります」
「その代わり、早く手法を確立してくれ。
こちらも核を回収出来る人間が大勢いれば商売としてやっていける。
市場を独占出来るかもしれん」
それは大げさだが、影響は受けにくくなる。
人員確保がはかどればその分優位性を保つ事が出来る。
自前で揃える事が出来るというのは何かと便利なものだ。
かかる手間がどれだけになるかにもよるが。
だが、今の所金銭と時間の負担はそれ程でもない。
父もヒロタカの示した展望に大きな機会を感じ取っていた。
(これで少しは猶予が出来たか)
核の売却・換金先が確保出来た事で多少は安心をする。
それでもまだ油断は出来なかった。
例え換金しても出費に対して稼ぎが少ない。
レベルが上がって魔力の付与が必要なくなるまではこの状態が続くだろう。
早くミサキが魔術レベルを上げてくれるよう願うしかなかった。
何よりヒロタカ自身がレベルをあげていくしかない。
(あと八日、いいや七日くらいかな)
手に入れた経験値から考えると、それくらいでレベルアップが出来るはずだった。
まずはそこまで辿りつきたいものだった。
そして、この手法を確立し、より多くの人間を育ていきたかった。
先ほど父に言ったように、核を集める効率を上げる為に。
それだけが理由ではない。
(少しでも安全圏を確保しないと)
個人が担うにはいささか重い問題ではあるが、それも考えていた。
モンスターに奪われた安全圏を、生活圏を取り戻せるようにと。
モンスターを倒せる人間が増えれば、それだけ対抗する力もついてくる。
そうなれば、モンスターによって壊滅させられた村や町を取り戻す事も出来る。
縮小した人類の版図を少しでも取り戻す事が出来る。
仮に村が一つ復活するだけでも、そこを中心とした田畑が機能するようになる。
それだけで収穫が期待出来るようになる。
モンスター出現以来、厳しくなってるという食糧事情も多少は改善されるだろう。
そうなれば人口の維持と増加が見込める。
それは新たな消費者の拡大にも繋がる。
商売の観点からも、モンスターに対抗できる人間が増えるのは好ましいものだった。
そんな風になるのは大分先ではある。
仮に村なり町なりを取り戻しても、機能を回復させるまで時間がかかる。
人が増えるのも。
一人の人間が生まれて育って大人になるまでの時間がかかるのだ。
新たな子供が生まれるようになるまで、十五年から二十年はかかる。
人口の増加など最低でも五年十年といった長い期間をみて考えていかねばならない。
だが、その為の一歩を誰かがどこかで踏んでいかねばならない。
それに必要なのが人材の確保で、人材を短期間で揃える手法になる。
当初はそこまで考えていなかったヒロタカであるが、その可能性に気づいた時に更に大きな展望も持ち得た。
(これを足がかりに、更なる繁栄が出来るかも)
人類や国家が、ではない。
あくまで春日家が、という事である。
村を取り戻す、町を取り戻すとなれば、それなりの権益を確保出来るはずである。
それらの町や村との独占的な商売を始める事が出来るかもしれない。
得られる利益は大きい。
それをみすみす逃すわけにはいかなかった。
他の誰よりも先に手をつけ、そのまま首位を独走したかった。
元々は、
「ゲームみたいな世界にいるんだから、ゲームみたいにモンスターを蹴散らしてみたい」
という所から始まった。
しかし、それによって得られるものと、成せる事を考えていった時にそこに気づいた。
個人としての楽しみもさる事ながら、事業としての利益も確保出来る事に。
世に与える影響の大きさも含まれる。
それはこの世界における慢性的な問題を多少は緩和する事にも繋がるかもしれなかった。
モンスターによって住む場所を奪われた者達の都市部への流入。
同時に起こる生産力の低下。
田畑を奪われた事による農産物の減少が非情に分かりやすい問題である。
それだけに留まらず、鉱物資源の採掘地の放棄。
物資運搬・輸送路の断絶もある。
それらによってこの世界は、慢性的に貧困層を抱える事となっている。
それらをモンスターに対抗する戦力にする事が出来れば、状況は変わるかもしれなかった。
これらを為したのが自分達だとなれば、影響力は強まるだろう。
短時間でその為の土台を作れる可能性が、いま目の前にある。
まあ、それが善意であるとは言い難い。
というか、言えない。
どこまでいっても、「俺が楽しめればいい」というのはあるし「俺が楽しみたい」というのが基本だ。
世の中への影響力についても、
「そうしておけば利益になる」
「他の連中に先を越されて利益を取られたくない」
というのがある。
世の為人の為になるとはいえ、全ては自分の利益を確率した上でという事だ。
ヒロタカは折角この世で手に入れた財産と資産を目減りさせたくはなかった。
裕福で贅沢が出来る環境を失いたくはなかった。
あくまでその利益を拡張するために人類の版図を取り戻す必要があるというだけである。
それが自分達の勢力拡大に通じるのだからやらない理由がない────それだけの事であった。
ただ、それでもやれば他の多くへの波及効果はあるだろう。
失地回復にはなる。
それによる名声や評判・評価も含めて、大きな利益になると踏んでいた。
(まあ、まずは俺のレベルを上げないとな)
何はなくともそれが先である。
目先の問題を解決出来なくては先々の事に手をつけられない。
今はとにかく日々の作業をこなしてレベルをあげるのが先だった。
といった所で終了。
こちらは続きをいつ掲載するのか目途が立ってません。
毎日投稿出来ればいいけど、他の連載もあるので。
こちらはのんびりやっていこうかと。
思いついたら書くという事で。
とりあえず、今度の火曜の20:00あたりに続きを出そうとは思ってますが。
その次はどうなの、となるともう見当がつかない。
続きを出す場合は、他の連載の後書きなどでお知らせするか、活動報告でお伝えするか、ツイッターで何かを書くかもしれない。
ブログもあるけど、最近使ってないから期待しない方がよいかも。
何はともあれ、更新してる他の話もよろしく。
更新中はこちら。
「転生したけどウダツの上がらない冒険者は、奴隷を買う事にした」
http://ncode.syosetu.com/n9583dq/
ちょっとお休み中はこちら。
「クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-」
http://ncode.syosetu.com/n7595dj/




