12話 それは大げさすぎます、いくらんなんでも
「おかえり!」
家に戻ったヒロタカ達を、盛大な出迎えが待っていた。
家(というより館)の門が開くと、使用人一同が玄関まで並んでいる。
その向こうでは、両手を広げた父と「あらあら」と笑顔を浮かべている母が待っていた。
「よく無事に帰ってきた」
父は涙を流さんばかりに喜んでいる。
「さあ、早く家の中に。
今日はご馳走だぞ」
「…………はあ、そうなんだ」
気の抜けた顔と声で返事をするのがやっとだった。
ご馳走というだけあって食卓は華やかだった。
いつも以上に気合いの入ってる料理が並ぶ。
何故かご満悦の父に、いつもどおり柔和な笑みを浮かべてる母。
家にいる弟・妹達は呆れているが、特に文句を言うことはない。
顔をひきつらせているのは、この場に同席させられているミサキとアオイだ。
「私、何かしましたっけ?」
「ボク、使用人なんですけど……」
二人とも、ここにいていいのか、と思っていた。
しかもヒロタカとならんで主賓扱いである。
席の端っこならともかく、なんでここに、と思うしかなかった。
「何にせよ今日は本格的なモンスター退治。
そこから無事に帰ってきたのだ。
こんなに目出度い事は無い」
「そうですねえ」
「明日もあるだろうし、今日はこの食事で英気を養ってくれ」
「そうですよお」
父と母の言葉が他の者達の耳に入る。
しかし、どうにも盛り上がらない。
「気持ちは嬉しいけど……」
そこまで盛大に喜ぶ事なのか、とヒロタカは思ってしまう。
弟妹もそこは同じように思ってるようで、
「父さんは大げさすぎるよ」
「やりすぎよ」
などと呟いている。
それでも腹が減っているヒロタカは目の前のものを口にしていく。
美味いは美味い。
料理人が気合いを入れてくれたのだろう。
それでも、何となく食が進まない。
(ま、気にしても仕方ないか)
やけに盛り上がってる父の高笑いを聞きながら、ヒロタカは少しずつ食をとっていった。
「それでは、ミサキ君。
君の部屋も用意してあるから、遠慮無く使ってくれたまえ」
食事の締めくくりにそんな事を言う父。
ヒロタカは目を丸くする。
「え、なんで?」
「何でとは何だ。
彼女をどこに放り出すつもりだったのだ?
一緒に仕事をしてもらう相手なら、これくらいは当然だろう」
事も無げに父は言い放つ。
それはそうなのだが、そんな話は全く聞いてなかったので驚く。
「そういうわけだから、彼女は我が家の客人として遇する」
そういって使用人の一人に案内をさせていく。
「あと、アオイだったかな」
「は、はい!」
「今日から君も部屋を変わりたまえ。
これからはヒロタカと同じ仕事をしていく事になるからな」
「えええええええ!」
驚きの声が響き渡る。
しかし父は動じない。
「命がけの仕事だからな、相応の扱いは心がけよう。
これからもよろしく頼むぞ」
「ははははははっはははっはっはっ、はいいいいいいいい!」
素っ頓狂な声で返事をすると、アオイは家政婦に連れられて食堂をあとにした。
それをヒロタカは呆然と見送る。
「さて、ヒロタカ」
「あ、はい」
「今日の成果について聞いておきたい。
あとで部屋へ」
「はい」
何故か直立不動になってしまう。
それだけの威厳が父の声に感じられた。
それを見て母は、
「あらあら」
と声をもらす。
どうしたのかしら、と表情が言っていた。




