11話 本番のモンスター退治ですが、これもまだ序の口
「じゃあ、やるか」
馬車から材料をおろして準備を進めていく。
一旦地面に道具をおろし、それからあらためて準備に入っていく。
持っていくのはロープと肉。
もっとも単純なおびき寄せの罠だ。
事前に集めた情報から、これでモンスターを引き寄せる事にしていた。
それを、森の中の方に設置していく。
モンスターとの遭遇はそうそうある事では無い。
そこらに潜んでるのは確かだが、毎日どこかで出会うというわけではない。
それを探していくのも面倒である。
だからこそ、様々な手段でのおびき寄せ方法が考えられていた。
不思議なもので、そうやって仕向けると驚くほど多くのモンスターが出て来る。
いったいどこから、と思う程の数があちこちからあらわれる。
それだけ危険が潜伏してるという事でもあるし、事前に狩り出しておかねば危険は増大する。
冒険者のモンスター退治は、核を手に入れる事による生計手段である。
目的はそれしかないが、身を隠してるモンスターをあぶり出す効果も伴っている。
当然ヒロタカは世の為人の為などと考えてはいない。
モンスターを倒して手に入る核と経験値しか興味がなかった。
適当な所に適当に罠を仕掛け、相手が出てくるのを待つ。
その間に、調達した道具の使い方をミサキとアオイに伝えていく。
「それと────」
ミサキの方を見て尋ねていく。
「回復の魔術の事だけど」
「うん、それが?」
それについての詳しい事をミサキから聞き出していく。
事前に調べた事ではあるが、あらためて本人からも聞いておきたかった。
罠を仕掛けて三十分。
鳴子が鳴ってモンスターが来たのを知る。
「行こうか」
二人に声をけて立ち上がる。
それから馬車を操る御者にも声をかける。
「俺らが戻ってこなかったり、モンスターがこっちに来たらすぐに逃げてくれ」
「分かりやした」
御者は頷く。
彼には何か合った場合に町に戻って事の次第を伝えてもらわねばならない。
そうでなければ、救援が来る可能性すらなくなる。
話を聞いた父なら、即座に誰かを送り込んでくると思われた。
(いや、ここはビジネスライクに切り捨てるかな)
最近、そこが読めなくなってきている。
家庭においては馬鹿みたいに甘い親だとは思っていたが、仕事では冷徹に物事を判断する。
そういう人だと思っていた。
しかし、ヒロタカが冒険者として稼ぎを出していく、と言い出したあたりからはそのあたりがゆらいでいる。
他ではどうか分からないが、ヒロタカには妙に甘い所が見える。
(まさかなあ……)
そうではないと思うのだが、さてどうなのだろうとも思う。
何が正解なのかは今は分からなかった。
家族や家庭における問題や疑問はさておき、今は目の前のモンスターである。
木々の間に吊した餌に、犬頭のモンスターが五体ほど群がっている。
事前に聞いていた通りのモンスターであり数である。
(情報に嘘はないか)
中には出鱈目を吹聴する輩もいる。
それだけに聞かせれてくれた事を鵜呑みにする事も出来なかった。
世の中、相手を陥れる事を楽しむ輩もいる。
もしかしたら、という危惧は常に抱いていた。
(あとは、連中の強さが話通りであればいいけど)
このあたりにいる化け物の強さも聞いてはいる。
その情報もどこまで正確なのかは分からない。
特徴が全く食い違う事もあれば、全員がほぼ共通して口にする事もある。
それらから嘘と実を選別しなければならない。
その中で最も気になったのが、モンスターの強さである。
(レベル3もあれば倒せるようになるって言ってたけど)
これは誰もがほぼ同じようにいっていた事だった。
だが、楽に倒すにはもう二つくらいレベルが高い方が良いとも聞いている。
何が正しいのかは分からないが、レベルが高い方が有利なのは事実だろう。
最低でもレベル3、余裕を持つならレベル5といったところか。
(まあ、今の状態ならどうにかなるだろうけど)
魔術による強化を施してもらってるので簡単にやられる事はないはずである。
また、勝ちを確実にするためにも、それなりのものを用意してきている。
「じゃあ、やるぞ」
小声で二人に声をかける。
すぐ隣にいるミサキとアオイは無言で頷いた。
それぞれの手にはクロスボウが構えられている。
腕前の方は期待出来ないが、同じ場所に留まっている犬頭相手なら問題は無いはずだった。
そのクロスボウを、合計六台持ち込んでいる。
まずはこれでモンスターに傷を与える事にする。
「撃て」
言いながらヒロタカも矢を放つ。
アオイ、ミサキとそれに続いた。
三本の矢は狙い通りに犬頭に当たる。
致命傷ではないが、体を射貫いていた。
続いてヒロタカは置いてあった装填済みのクロスボウをとる。
即座に矢が放たれ、残ってるものに当たる。
二人も多少遅れたがそれに続く。
犬頭はまだ生きてはいるが、突然の攻撃に驚き、なおかつ射貫かれてる事もあって動きが鈍っている。
そこにヒロタカが突っ込んでいく。
剣と盾をもって切り込み、最も近くにいる犬頭に斬りかかる。
魔力による強化もあって見事に相手を断ち切っていく。
他のものも同様に切り倒していく。
術も何もあったものではない、最も基本的な動作によって。
すなわち、振り上げて、振りおろす。
ただそれだけで五体の犬頭が倒された。
思ったよりはるかに楽に出来た。
動きが鈍っていた事も助けになってたのだろう。
(これならいけるな)
確信が持てた。
上手くやっていけば、これでかなりの成果をあげられると思った。
核を切り取り、モンスターが消えていくのを見ながらその場を離れる。
別の連中があらわれるかもしれないから、長居は出来ない。
離れてクロスボウを回収し、再び弦を張っていく。
それから他の場所を巡ってモンスターが来てないかを確かめる。
その繰り返しでモンスターを次々に倒していく。
町に帰る時間になるまでに、合わせて五十体を倒した。
駆け出しの冒険者としては上々である。
(これなら、いけるか)
まだ結論を出すには早いと思ったが、手応えは掴んだ。
明日と明後日も同じようにやてみて、それで更なる検証をする。
それが終わってから次の段階に行くかどうかを決めようと思った。
20:00に続きを公開
それと、他の話も更新してるので、そちらもよろしく。
更新中はこちら。
「転生したけどウダツの上がらない冒険者は、奴隷を買う事にした」
http://ncode.syosetu.com/n9583dq/
ちょっとお休み中はこちら。
「クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-」
http://ncode.syosetu.com/n7595dj/




