第一話 『試験開始』
遅くなりました……。
地震などあり、バタバタしてましたが、一段落ついたので、これから更新頑張っていきます!
それでは、本編どうぞ!
クレアルス学園。
それが今回、ユウキが入試を受ける学園の名だ。
大陸一の難関校と言われるその学園は毎年受験者が多いため、実技と筆記。その二つに試験が分けられている。
最初の実技。
これで人数が半分まで減らされ、次の筆記へ。
そして、筆記で合格定員まで減らされる。
そこまでしないと、人数が多すぎて選抜できないのだ。
さらに、この学園は三つの練。
剣術練。
魔法練。
特別練。
に分けられ、それぞれで入試内容が異なる。
ユウキが今回受ける特別練の入試は、剣術と魔法両方の実技試験があり、次に筆記まで。
しかも合格者は五名だけと、かなり厳しい。
それでもこの学園への志望人数が多いのは、この学園を出ることができれば――将来は安泰だと言われているからだ。
『卒業した者の中で、希望する者は無条件で軍への入隊が決まる』
三つの国が占めるこの大陸では、それぞれの国が他国を牽制するためにより強い軍隊の存在を必要とする。
そんな世界の中では、クレアルス学園のような実力のある者が多く存在する場所から、戦力を多く集めたがるのは、普通のことだ。
よって、クレアルス学園と三つの国は先ほどの制約を結んだのだ。
突然だが、この学園の存在する大陸には三つの国が存在する。
オルフェディア王国。
ラングリット王国。
アスタ王国。
の三つだ。
クレアルス学園は、その三つの国の中心に位置しており、それぞれの国から受験者がやってくる。その中には、それぞれの国の王族たちの姿も。
王族たちがこの学園に入る理由。
それはこの学園は完全に独立しており、どの国からの干渉も受けないからだ。
要するに、王族からすれば――この学園が一番安全な場所なのだ。
そんな場所に各国の王が、将来を任せる自分の子を入学させるのは、当然のことと言ってもいい。
自分の身を守る術を学ぶことができ、しかもその間は他国からの干渉を受けない。
これほど良い条件はないのだから。
*****
「うげぇ……やっぱり人多い……」
思わず口から出た声を最小限に抑え、人混みの中を抜けようと試みる。
はぁ、と。
ユウキがため息を零してしまうのも無理はない。それほどまでに人が多いのだ。
剣を腰に携える者、杖を持っている者、どちらも持っている者、どちらも持っていない者。
視線の先には、少しキチッとした服装に自身の得物を携える様々な人達がたくさんいた。
「あれが皆ライバル、か……」
やっとの事で、人混みを抜け近くのベンチに腰を下ろす。
受付もすませたし、腰の剣にも異常はない。体調も悪くないし、緊張しすぎているわけでもない。
……今日は悪くないな。
自分の状態確認を終え、一息つく。
いくらあのバカみたいに強い師匠に教えてもらっていたとはいえ、練習と本番は違う。
そんなふうに考えていると、ふと。
「ははっ……」
――師匠の顔が頭に浮かんだ。
それも普段は見せないような真剣な顔が、だ。
あんな風に、バカみたいに真っ直ぐ信頼されると合格しないわけにはいかないだろう。
師匠の信頼を裏切るわけにはいかない。
一緒にいなくても、俺にプレッシャーかけてくるんですか……。
思わず笑ってしまったユウキは悪くない。
ふぅ、と。
師匠になんとなく感謝しながら、息を吐く。
今日合格すれば、新たな生活の第一歩だ!
自分を激励し、気持ちに整理がついたところで、改めて人混みを眺めていると。
「きゃっ!?……あっ!すみません……」
一人の少女が人混みから飛ばされて、尻餅をついていた。
腰には、先の細い剣。
剣術練志望の少女だろうか?
「あの、大丈夫か?」
ユウキはその少女に駆け寄り、立たせるために手を差し出す。
目はまだ合わない。
彼女はその好意をしっかり受け取ったのか、差し出した手を握って立ち上がった。
汚れたスカートをはたく少女。
その少女を見て、俺は驚いた。
物凄くスタイルがいい。スカートからスラッと伸びる白く細い足、綺麗なピンク色のおさげ髪、そして極め付けは、その存在を大きく主張する女の象徴。
師匠にも引けを取らないほどの少女に一瞬目を奪われてしまう。
しかし、やはりまだ目は合わない。
「あっはい、ありが……と…………う?」
とうとう目が合った。
顔を見て目を見て、今度こそ俺は完全に目を奪われてしまった。
真っ青に澄んだ、まるでサファイアのような瞳。整った顔立ち。驚きに目を丸くする表情さえ、綺麗に見えるほどの美少女。
……ん?
どのくらいそうしていただろう。五分……いや、十秒程度だったかもしれない。
そこでやっと気づいた。
彼女が全く微動だにしていないことに。
どうしたんだろう?なんか固まって――
「……き」
「き?」
「きゃぁあああああ!!!」
ピューン――。
と、いう効果音が聞こえるくらいの速さで逃げられた。その様子、まさに脱兎の如く。
「え、えー……なんで……」
「ちょっとアンタ!」
驚きが収まらないままの俺に新しくかけられる声。それはまたしても、少女のものだった。
しかしそれは、さっきの少女と比べると明らかに好戦的なもので。
「今度はな――ゴフッ」
「アンタ、シーに何してんのよっっ!!最っ底!!」
振り向きざまの俺の顔に、少女の右ストレートが炸裂。……続けての怒声。そして、罵倒。
……もはや踏んだり蹴ったりである。
そのまま、通り魔――少女は最後にあっかんべーを残して離れていった。
頭の後ろで一つに結ばれた黒髪を揺らしながら離れて行く、通り魔の背中を見ながら一言。
「……俺、何かしたかな?」
そんな何とも虚しげな少年の声は、人混みの賑やかな音にかき消された。
*****
「次!受験番号――」
「――はい!」
試験官――おそらく、教師の一人であろう男性の声に次の受験生の少年が返事をする。
「それでは、始め!」
特別練受験志願者は、約100人。
それを試験官5名で担当する。
試験内容は単純な戦闘。時間的には、約5分。教師を倒せば、もちろん即合格だ。
普通に考えて試験官一人が20人の受験生と戦闘を行うことになるから、後半の番号の方が有利のはずなのだが……そうはならない。
なぜなら治癒魔法専門の教師もこの学園には存在するからだ。
治癒魔法の中には、魔力回復系のものもある……と師匠が言っていた。
現に今試験官は12人目と戦闘を行っているが、魔力切れを起こすこともなく、息切れもしていない。
単なる実力差ということもあるかもしれないけど、単純計算でもう1時間戦っているので、何かしらの衰えがあってもいいはずだ。
しかし、それが一切見られない。やはり治癒魔法の専門家がいるんだろう。
「次!受験番号63、シエル・クレアルス!」
「は、はい!」
そんなことを考えていると、なんとなく聞き覚えのある声が隣から聞こえてきた。
先ほどの少女だ。……悲鳴あげて逃げた方の。
「へぇ、あの子も特別練志望なのか。合格したら、色々と大変そうだな……」
改めてそちらを見てみると、ピンク髪の少女の後ろには、彼女に激励をおくっている少女がいた。……お次はいきなりぶん殴り、怒声を浴びせ、罵倒してきた子だ。
「……なるほど。俺、呪われてるのか」
頭の中で、師匠という名の悪魔が高笑いしてる気がする……。
はぁ……。
抑えきれないため息をこぼす。
早くもシーラに会いたくなってきた……癒しが欲しい。
「次!受験番号76、ユウキ・フォーサイス!」
「はい」
――今はため息をついている場合じゃなかった。
色々考えてる間に、順番が回ってきたみたいだ。気合を入れなおそう。
「あっ!さっきの最低男!」
「ひぃっ!?」
一歩踏み出したところで、少女二人の声が聞こえてきた。どうやらピンク髪――クレアルスさんは無事試験を終えたようだ。
……というか、盛大に出鼻を挫かないでほしい。危うく転びかけたぞ。全く縁起の悪い。
俺は心の中で、そう、心の中で!少女二人を睨みつけ、試験に向かう。
……なんかポニーテールを揺らしながら、ガヤガヤ文句を言っている黒髪がいるが、今は無視だ。集中集中。
目の前にある扉に手をかけ、ゆっくり押す。
すると、視界に入ってきたのは――広いドーム上の空間だった。
「……なんだここ?」
一見普通の競技場だが、入った瞬間に感じた少しの違和感といい、このありえないほどの広さといい……。
これは――。
「魔法で作られた空間?」
「ご名答です」
不意に返ってきた声に少し驚きながらも、声のした方向――真後ろに振り向く。
そこに立っていたのは、黒めのキチッとした服装で、背中まである茶髪を揺らしながら、笑顔を浮かべる女性だった。
まだ20歳にも満たないだろう彼女からは、何故かどこか師匠と同じような雰囲気を感じる。
そのせいだろうか。
自分の中で緊張が少し大きくなったのがわかった。
「初めまして。ユウキ・フォーサイスです。よろしくお願いします」
「はい!私は特別練教員のラクス・レシアークと申します。よろしくお願いしますね!それでは、早速ですがルールの確認を行います」
しかし話してみると、師匠とは全然違う。
あの人は『ルールの確認』なんてしない。
言うとしたら、
『ルール?もちろん、わかってるわよね?――それじゃあ、始めるわよ!』
こんな感じだろう。……いや、もっとひどいかもしれない。そして、突然斬りかかってくるのだ。もはや常識など通用しない人だ。
「まず最初に特別練の試験では、剣と魔法どちらの使用も認められています。
敵は教師……試験官ですね。遠慮せずにどんどん攻撃してください。いざという場合には、保健の先生もいますので気にせずにどうぞ。うちの保健の先生はとても優秀ですから」
やっぱり治癒魔法の専門家はいたみたいだ。
「はい、わかりました」
……もし、一撃で死んでしまったら――いや、野暮な質問はよそう。
「制限時間は5分です。その間はどんな攻撃をしてもらっても構いません。最後に、教師を戦闘不能に追い込めば、即合格です。……ルールは大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
「そうですか。それでは、準備をしてください」
「いえ、もう準備はできてるので、始めてもらって構いませんよ?」
師匠に言われた通り、最初から『氷結地獄』でいこう。うん、それがいい。
師匠の言うことが正しいなら、間違いなく防がれる。……が、防がれたら剣で攻めればいい。
大丈夫、あの師匠に教えてもらったのだ。慢心は捨てて、実力に自信を持て!
「え?杖……はないですよね?剣、構えなくていいんですか?」
「大丈夫です」
「えーと……ほ、本当に?」
「大丈夫ですって」
「……本当に本当に大丈夫なんですか?」
「だから、大丈夫ですって」
「そ、そうですか。すいません、何度も。……それでは、行きますよ――」
――試験、開始――。
「『氷結地獄』」
俺は呪文を唱える。
開始直後。
魔法で作られた空間――試験場は、一瞬にして銀世界へと変貌した。
*****
「ユウキ、大丈夫かな?」
「ま、参りました……」
根性ないなー、と。
艶のある黒髪に水色の目を持つ少女は、その水色を少し心配の色へと曇らせる。
足元で息を切らしている少年など、まるで気にしないように、邪魔な髪を耳にかけ、出てきそうなため息を何とか飲み込んだ。
何処となく退屈そうな彼女は、試験中だというのに場違いなジャージ姿だった。
「はい、次!」
それでも、キリッとした目をさらに厳しくし、次の受験生と向き合う。
本当、疲れるなー……。
ずっと、こんな厳しい顔してたら、表情筋もたないよ……。
はぁ……。
今度は、心の中でため息を吐く。
そんな考えをしてる間も、受験生と戦っているのだから、彼女は相当な実力があるんだろう。
……ユウキよりかなり遅い。
彼女が受験生と戦うたびに思うのは、そればかりだった。
もう12人も相手にしているというのに、全員が全員ユウキよりも遅い。
……大丈夫か、受験生。
「試験終了だ」
「は、はい。ありがとうございました」
ユウキ、大丈夫かな?
考えるのは、また自分の弟子のこと。
……ダメだダメだ。ちゃんと試験に集中しないと。
そう改めて気を引き締め、12人目の受験生の相手を終え、次の受験生を呼ぼうとした時。
――っ!?
――溢れんばかりの冷気が隣の部屋から流れ込んできた。壁がちゃんとあるのに、そして中は魔法で作られた空間――魔空間なのに、だ。
そしてさらに、彼女はその冷気に見覚えがあった。
……ユウキ、やるじゃない!
それは己の弟子のそれだったのだ。
そして隣の試験場といえば、試験官は……。
……ラクス、ドンマイ。葬いはしてあげるから、安らかに――南無南無。
先ほどまでとは違い、満面の笑みを浮かべる彼女を見ているものは誰もいない。
そして、彼女は自分の後輩へ。
盛大に手を合わせて、冥福を祈ったのだった。
「なんか先輩に死んだことにされてる気がする……!」
……隣の試験場の試験官はどうやら勘がいいらしい。