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悪役令嬢なのにロボに乗って戦うってどういうことですの!?

作者: 八房 冥

「って、何ですのコレはあああああああ!?」


 篠島エリカ、17歳。ちょっと腐った女子高生である私は両手で何やらレバー的なモノを握っていた。あ、いやらしい意味じゃなくてね。割と座り心地の良い椅子に座っている私の体はベルトで拘束されている。周りはなんかメカメカしていて、至る所がチカチカと光っている。極めつけは、目の前にあるモニターには全身が白の鎧騎士? がいて、こちらに向かって飛んでくる。


「いやああああああああ!」


 突然、私の体を衝撃が襲う。私が今いる部屋? はグラグラと揺れて、そこら中からビービーと警告音っぽい音がやかましく鳴る。


『大丈夫ですか、お嬢様』

「ひゃあ!?」


 急に後ろから聞こえた声に間抜けな声を上げてしまう。その声には聞き覚えがあった。私が最近ハマっている乙女ゲーム『四聖貴公子の迷宮ラビリンス』、通称『四ラビ』に登場する敵キャラクターのメイドであるノーナ・ペパーミントのものである。ノーナを演じた声優さんは色々なアニメとかゲームに出演している人気声優なんだけど、この口調は完全にノーナだ。最近『四ラビ』漬けの私がそう思うんだから間違いない。


「の、ノーナ?」

『どうかしましたか?』

「今の状況を教えなさい」


 あれ、そう言えば私のしゃべる時の口調がなんか変なんだけど? 私は今「今の状況を教えて」って言うつもりだったのに偉そうな言葉遣いになっちゃってる!? だが、そんな私の口調に疑問をもってない様子のノーナの声が返ってきた。


『お嬢様、御冗談は……』

「冗談じゃないのよ! ここはどこ? わたくしは誰? 今の状況を出来るだけ詳しく教えなさい!」


 そう。私は今の状況を何一つ理解していない。私が覚えている限りの記憶では、日本のとある町にある一軒家の自分の部屋で夜遅くまで『四ラビ』をプレイしていて……眠くて頭がよく回っていなかった中で全ルートコンプリートした……ような気がする。ちなみに『四ラビ』はごく普通のTVゲームだ。決してバーチャルリアリティ形式の近未来型ゲームではない。そんな私が、こんないかにも未来って感じの場所にいるのはおかしい。私の言葉を聞いてどう思ったのかノーナはおくびにも出さずに答える。


『お嬢様……貴女はユリーカ・アイファンス。名門貴族アイファンス家の長女であるお方で――――』

「きゃあ!」


 ノーナの説明の途中で、またも部屋? が揺れる。いや、何となくここがどこなのか察してはいるけど、答えを聞くまでは知らない事にしておく。現実逃避だと言われればそれまでだけど。すると、新たな声が聞こえてきた。


「これ以上あなたの好きにはさせないわ、ユリーカ!」

「あなたは誰よ!?」

「えっ」


 聞き覚えの無い声に思わず質問すると、今度は間抜けな声が返ってきた。


「あなたは誰って、このわたくしが聞いてますのよ? 答えなさい!」

「ふざけているの? ……私はモニカ・ランチェスター! あなたのたくらみを止める者よ!」


 モニカ・ランチェスター、という名前を私は知っている。『四ラビ』の主人公のデフォルトネームだ。ついでに言うとユリーカ・アイファンスっていう名前も私は知っていて、同ゲームのライバルキャラである。つまり私は『四ラビ』の世界にユリーカとして迷い込んでしまった事になる。だが、私の知ってる『四ラビ』で、こんな状況は見たことない。


「わたくしは何をたくらんでいまして?」

「そうやってあなたは人をバカにして……! あなたが捕えていたミカエル君達を私が助けたら、『こんな世界なくなっちゃえば良い!』なんて言いだして、その『アクヤクオー』っていうロボットでジョーネイル王国を滅ぼそうとしてるんでしょ!」

「なんて事を考えているのかしら! それにしても、センスの無い名前ですわね」

「他人事みたいに!」


 正直な感想を漏らすと、モニカはブチ切れる。そしてモニタに映る白い鎧は拳をぶつけてきた。そして私は浮遊感に襲われたと思ったら、背中を思いっきり打った。


「きゃああああ! どうしてわたくしがこんな目にぃぃぃ!」

『お嬢様、早く起き上がってください』

「えーっと……こうかしら?」


 適当にレバーをガチャガチャ動かすと、ゆっくりと起き上がる感覚がした。……どんな仕組みなんだろ? それはともかく、これからどうすればいいんだろ。心情としては、自分の分身だったモニカとは戦いたくない。それなら、選択肢は一つ。


「話せば分かりますわ! わたくしが悪かったですわ。これからは仲良くしましょう?」

「ユリーカ……」

「ダメだよモニカ。ユリーカの言葉に耳を傾けちゃ!」


 私の説得にグラつきかけたモニカに、新たな声が掛けられる。やっぱり聞き覚えのある声だ。とろけてしまうほど甘いその声は『四ラビ』の攻略対象の一人、ミカエルのものだ。それと同時に、モニタには緑色のロボットが映る。いや、他にも赤と青と黄色のロボットが現れた。


「ミカエルの言う通りだぜ、モニカ!」

「その女の言う事は全部デタラメだ。忘れたのか?」

「ユリーカは悪い人なんだよ? おねえちゃん」


 暑苦しいウリエル、クールでさわやかなガブリエル、舌足らずでほっとけないラファエルの声が続々と聞こえる。ミカエルを含めた彼ら四人は『四聖貴公子』と呼ばれ、ゲームではこの四人を攻略できる。私は彼らを全員攻略し、お互いに愛しあう関係になった。関係になったのだが、今は何故か私の敵として立ちはだかっている。


「そうだね。ありがとみんな! 私は、ユリーカを倒す!」


 貴公子たちの説得を受けてモニカは覚悟を決めたように言う。赤い機体は一本の大きな、青い機体は二本の小さな剣を構え、緑の機体は翼を広げて空を飛び、黄色の機体は大きな盾を持ってモニカの白い機体の前に出ている。


 どうしてこうなった。この前までみんな私のことを好きって言ってくれたのに。私を守ってくれるって言ってくれたのに。私だけの王子様だって言ってくれたのに。


「よくも……」


 なんだかもう、何もかもがどうでもよく思えてきた。私の分身と王子様たちがこぞって私と戦おうとしている。なによりムカつくのは、ゲームにおけるユリーカがやってきたことを考えれば、こう言われ放題なのも仕方ないという事だ。でも……。


「よくもわたくしを裏切りましたわねえええええええええ!」


 もう、相手が誰だろうと関係ない。いや、相手が相手だからこそ、私は敵対する者をブッ潰す事を決めた。


「何が『裏切った』だ! クソ女が!」

「女狐が。一度貴様にも地獄を見せてやるか」

「モニカを散々苦しめてきた君を許すわけにはいかない。君は僕が終わらせる!」

「ばーか!」


 口々に罵倒してくる貴公子たち。こういうのもなかなか悪くない。……じゃなくて!


「ノーナ! わたくしは戦いますわ! 武装はどのようなものがあって?」

惡厄アクヤク砲がございます。お嬢様がお握りになられているレバーを内側に90度回転させて下さい』

「またいかにもな名前ですわね。分かりましたわ」


 言われた通りに、左手のレバーを時計回りに、右手のレバーを反時計回りに回す。すると、アクヤクオーの両拳が胸の真ん中にある球体を両脇から挟むような恰好になる。


「やりましたわ、次はどうすればよくて?」

『只今よりエネルギーをチャージします』

「えええええええ!?」


 エネルギーチャージに入ったアクヤクオーは動けなくなる。そうしている間に青ロボが目にも止まらぬ速さで走ってきては剣でラッシュをしてくるし、緑ロボは空からミサイル的なものを撃ってくる。少し遅れて赤ロボが大きい剣をブンブン振ってきて、その後ろでは私を殴ろうとしてる白ロボを黄ロボが援護している。


「5対1なんて卑怯ですわよぉぉぉぉぉ!」

「勘違いしないで、私達は1の力を5分割して戦ってるだけよ! それに、あなたには人を卑怯とか言う資格なんてない!」

「こっちは動けないと言いますのに!」

「そんなのはあなたの勝手でしょ!」


 そんなこんなで5機のロボットが私を囲う。そして容赦のない攻撃の嵐にさらされる。アクヤクオーの機体はいろんな向きにグラングランと揺れる。機体内部のビービーという警告音もより一層大きくなる。


「ノーナ! アクヤクオーは大丈夫ですの!?」

『お嬢様が御考案なされた機体です。そうそう簡単にやられはしません。ゴキブリのようにしぶといはずです。何せお嬢様が御考案なされたのですから』

「まるでわたくしを虫ケラみたいに……! そういうあなたは今、どこにいますの?」

『私はアイファンス城地下のオペレータールームにて、お嬢様を先ほどからサポートしています。……お嬢様、チャージが完了したようです。レバー上部のボタンを押してください』

「分かりましたわ!」


 言われた通りに私は、両手のレバーのボタンを同時に押す。すると、ゴゴゴゴゴゴ……と唸るような音が響く。


「惡厄砲、行きますわよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 その時、アクヤクオーの全体が輝き出す。その輝きは、胸部の球体状のパーツに向かって流れ、やがて収束する。


「何……?」

「分からないけど、何かしてくる前に倒さないと」

「遅いですわよ……発射ですわ!」


 戸惑いの声を出すモニカにミカエルが言う。そこで私はボタンをもう一度押す。すると、胸部からは禍々しい黒と紫が混ざったような色のビームが発射された。ラッパのように、前に進む毎に広がっていくビームは、貴公子たちやモニカが驚く間もなく敵の機体を呑み込んだ。


「何だよ……コレは!」

「逃げられねぇ……!」

「まずい……」

「おねえちゃん……」


 脳筋な赤ロボや鈍重な黄ロボのみならず、スピードが自慢の青ロボも空を飛べる緑ロボでさえも容赦なく餌食にする。何だか楽しい気分になってきた。


「おーほっほっほっほっほ! おーほっほっほっほっほっほっほ!」

『お嬢様が楽しそうで何よりです』


 ノーナが何か言っているようだけど、私の耳には届かない。やがてビームは出し尽くし、視界が晴れる。敵のロボット達は全部まとめてボロボロ……いや、違う。ラファエルの黄ロボがモニカの白ロボの壁になり、守っていた。


「ラファエル君!?」

「おねえ……ちゃん……」


 白ロボを除いた4機は、機体の装甲がドロドロに熔けていた。特に緑ロボは落っこちて地面に思いっきりぶつかった事もあって被害は大きそうだ。ガチャガチャとレバーを操作して動かそうとしているようだが、動かない。


「クソッ、動け!」


 ウリエルのイライラした声がよく聞こえる。愉悦に浸る私の耳にノーナの声が届く。


『お嬢様、モニカ様にとどめを』

「そうですわね。ノーナ、他に武装は何かあったかしら?」

『でしたら、ジャークミサイルを使用する事を進言します。私の言う通りにレバーを操作してください』

「邪悪……って、またいかにもな名前ですわね。分かりましたわ」


 ノーナは細かい指示を出してくる。するとモニカの白ロボがガシンガシンと走ってくる。武器も持たず、ただ殴ろうとしてくる。


「よくも、みんなを!」

「ジャークミサイル、全弾発射ですわ!」


 アクヤクオーの肩のハッチがパカッと開き、ミサイルの嵐が戦場を襲う。白ロボだけではなく、貴公子たちの4ロボにも容赦ない。


「くっ……負けるもんかあああああああああ!」


 ジャークミサイルに押されながらも、気合の声を上げながら白ロボはアクヤクオーの眼前に来る。その拳が振るわれようとした時、ウリエルの声が上がった。


「やめろおおおおおおおおおおおお!」

「ウリエル君!?」


 その叫びの理由は簡単。彼の操る赤ロボがアクヤクオーと白ロボの間に立ち塞がり、有ろうことか白ロボに剣を振り下ろしたからだ。ウリエルがどんなに操作しようと動かなかった赤ロボがだ。


「ウリエル、何をしている!?」

「違う、コイツが勝手に……」

「何、これ……。イヤだ……!」


 赤ロボの奇行にガブリエルが怒鳴る。その一方で、今度は黄ロボが動きだし、白ロボに向けて突進する。


「ラファエル、何を!」

「イヤだ……。ボクはおねえちゃんをやりたくない……!」

「おーっほっほっほっほ! やってしまいなさい!」


 嗜虐心をくすぐってくるラファエルに声に、私は興奮を覚える。ジャークミサイルは敵の機体を操るミサイルだ。ジャークミサイルが一定数以上命中した機械を乗っ取り、思い通りに動かす事が出来る。まだコックピットからの操作が可能な白ロボこそ無理であるものの、他の機体の操作は完全に私の手の内にある。やがて緑ロボも青ロボも私の手に落ちた。緑ロボの翼を無理矢理はばたかせて、空に浮かせる。前から、右から、左から、そして上からの攻撃が白ロボを襲う。


「ふざけんなあああああああ!」

「くっ……この卑怯者が!」

「やめろ、やめるんだウィンド……!」

「うっ、うぅっ……」


 ああ、ラファエルが泣いちゃった。というか緑ロボってウィンドって名前だったのね。4機の猛攻は白ロボの装甲をガリガリと削る。


「あぁ、あぁぁぁぁぁぁぁ!」


 各方向から来る衝撃に、モニカは悲鳴を上げる。


「それにしても、随分と残酷な兵器ですわね、ジャークミサイルは。貴公子たちはみなさんモニカに惹かれていたはずですのに、そんな愛する女性を殿方4人がかりでいたぶることを強いるだなんて」

『これもお嬢様が考案されたものです。もっとも、実際に設計して製造したのは私ですが』

「本当にあなたはハイスペックですわね」

『メイドとして最低限の知識を身に付けているまでです』


 へぇ、今どきのメイドってすごいのね。今どきじゃないメイドをリアルで見たことは無いけれども。


「もうやめて!」


 モニカの泣き叫ぶ声が聞こえた。


「ほら、貴公子様方? あなた方の愛しのモニカさんがやめてと言ってましてよ? それなのに、どうしてそのような酷い事をなさるのです?」

「違う、これはあなたがやらせているんでしょ、ユリーカ! みんなを傷つけるのはもうやめて!」


 とぼけた事を言ってみると、モニカは反論してきた。本当に良い子。どうして私はこの子じゃなくて悪役のユリーカなんかになってるんだろう。そもそもなんでこんなロボに乗ってるんだろう。『四ラビ』はロボットゲーじゃないはずなのに。


『四ラビ』では、落ち目の貴族、アイファンス家の長女ユリーカが、国の中でもトップクラスの名家の息子である貴公子と知り合い、婚約して家を救う為に学園に入学する。しかし、貴公子たちは同じく入学してきた平民の主人公モニカと惹かれあう。ユリーカはあらゆる手段を使ってモニカと貴公子との仲を裂こうとしてくるが、それを回避して目当ての貴公子と恋人になり、最終的に婚約する、というのが大まかなストーリーの流れだ。モニカが攻略対象を一人に絞った時は、ユリーカは第二志望だった貴公子とくっつき、結果的に家は救われるというENDなのだが、逆ハーレムENDの場合は結局誰ともくっつく事が出来ずに全てを失い、メイドのノーナも彼女の元を去る、という後味の悪いENDだった。もっとも、そうなっても仕方ないと思えるようなことをユリーカはしてきた訳である。だけどそのツケを、モニカだったはずの私が払わされそうになっているのはどういう事なんだろう。


「ノーナ」

『何でしょう』

「ウチの財政状況はどのようになっていて?」


 ふと思った疑問をノーナに聞いてみる。すると、衝撃的な答えが返ってきた。


『このアクヤクオーこそが、アイファンス家の唯一の財産です』

「えぇっ!?」

『失礼しました。私自身も財産の一部ですね』


 開いた口が塞がらない。


「どういう事ですの!? アイファンス家は没落寸前のはずでしてよ! どうしてこのようなロボットを造っているのでして?」

『全てはお嬢様の指示でございます。私をはじめとした使用人達はやめるべきであると進言したのですが、モニカ様への復讐心に燃えるお嬢様は聞き入れてくださいませんでした。結果として私以外の使用人達は自主的にアイファンス家を出て行きました。私はお嬢様のリクエストを基にアクヤクオーを一人で設計し、製造いたしました。その為に先祖代々受け継がれたアイファンス家の金銀財宝どころか、屋敷をも売り払いました』


 想像以上にノーナはハイスペックだった。そして想像以上にユリーカはバカだった。確かユリーカの母親は物語開始時点で既に亡くなっていて、逆ハールートのラストでの当主である父親は失踪していたはずだ。そんな事を思い出していると、ウリエル達の声が聞こえる。


「クソ……言う事聞けよ、フレイム!」

「俺達はモニカを守るんだ。それなのに、何故モニカを傷つける、アクア!」

「ウィンド……僕達の敵はモニカじゃない、ユリーカだよ」

「ランド……」


 貴公子たちは自分の乗機に呼び掛ける。


「おーっほっほっほっほっほ! 無駄ですわよ。あなた達のコックピットは既に制御不能! 仮にジャークミサイルの効果が無かったとしても、愛しのお姫様を救う為に動かす事は出来なくてよ!」

「ふざ……けないで!」


 モニカがそう言うと、白ロボは青ロボを殴り飛ばす。青ロボは派手に地面に倒れる。


「ゴメンね、ガブリエル君」

「ぐっ……いや、感謝する」

「何をしてまして!?」


 驚く私に構わずに、赤ロボと黄ロボを次々に殴り倒していく。


「本当に何をしていますの! 仲間を殴るだなんて、それが人間のやる事ですの!?」

「勘違いしないで、ユリーカ! 私はもう、あなたを倒す為ならなりふり構わないのよ!」


 しまった! モニカの行動に動揺して、つい緑ロボのコントロールを解除しちゃった。緑ロボは落下を始める。地面にぶつかれば、搭乗者の命は無いだろう。


「ミカエル君!?」

「あら、私を倒す為にはなりふり構わないんじゃなくて?」


 一瞬で自分の言った事を否定する行動をとったモニカにほくそ笑む。


「甘いですわ、ジャークミサイル……って!」

『ジャークミサイルの残弾量はゼロです。先程全弾撃ち尽くしたでしょう?』

「なんですって……!」


 自分の行動を後悔する。結局私の妨害を受けることなく、白ロボは緑ロボをキャッチした。だが、緑ロボの重さは、激戦によりボロボロだった白ロボにより支える事など出来ず、崩れ落ちた。


「何やってるんだモニカ! 僕の事なんて気にしないでユリーカを!」

「それは嫌! ミカエル君が死んじゃったら、私……!」

「君が戦えなくなったら、結局この国のみんなの終わりなんだ! 僕の命なんて、それに比べれば……!」


 何だかんだで、敵のロボットは全て動けなくなった。これで私の勝利は確定だ。


「モニカ、他に武器は無くて?」

『ならば、ボツラクソードはいかがでしょうか』

「また分かりやすい名前ですわね。では、それを使わせて頂きますわ」

『では、アクヤクオーの右手を胸の前にお願いします』


 言われた通り、アクヤクオーは胸の球体の前に右手を持ってくる。すると球体の中からは、禍々しい黒の剣が取り出せた。


「モニカ、そして貴公子の皆様! このボツラクソードでいたぶって差し上げますわ!」

「くっ、バカにして……!」


 ボツラクソードを振り上げ、私は白ロボへと迫る。跳躍し、落下と同時に剣を振り下ろす。


「はぁぁぁぁぁぁっ!」


 その一閃は、動けない白ロボの右腕を斬り落とした。それによるバランスの崩れがモニカを襲う。


「きゃぁぁぁぁぁぁ!」

「モニカちゃん!」


 モニカの悲鳴にミカエルが声を出す。しかし私は止まらない。左腕、右脚、左脚を斬り落とし、宣言通りにモニカをいたぶる。


「クソ女がぁぁぁ! モニカをやるなら俺をやれ!」


 ウリエルがそんな事を言っている。それを無視して私は言う。


「ねぇ、どうかしら? こうやって惨めにやられる気持ちは。人の男を寝取ったモニカさん?」

「黙って! あなたなんかに何かを言われる筋合いなんてない!」

「おやぁ? そのような生意気な口を利いてよろしくて? 大人しく負けをお認めにならなければ、この剣は貴公子にお向けしましてよ?」

「やめ……」

「嫌なのでしたら、貴公子達をお譲り下さいませ。私も眉目秀麗な殿方を傷つけたくはありませんの」


 そう言いつつ、ボツラクソードの矛先を緑ロボに向ける。


「やめて! その剣は私に……」

「いや、これでいい! やれるものならやってみろ!」

「ダメ……!」


 モニカは泣きそうになりながら叫ぶ。


「そう言われると、やりたくなりましてよ!」

「やめてえええええええええ!」


 ボツラクソードが振り下ろされるのとモニカの絶叫は同時だった。その時、白ロボはまばゆい白の光を放ち出した。


「なっ……」


 それと同時に赤ロボ、青ロボ、緑ロボ、黄ロボがそれぞれの機体の色の光に包まれる。


「これは何? ゼンニンオー」

「これは何ですの?」


 モニカと私は同時に疑問の声を出す。っていうかあの白ロボの名前ってゼンニンオーって言うのね。なんか知らないけどほっといたらヤバい気がする。今のうちに……! なんて思っていると、なにやらアップテンポな曲が流れてきた。モニターを見ると『姫公合体ゼンニンオー 唄:マーマレード計画』などと書いてある。


「ノーナ、これは一体……?」

『申し訳ございません。私にも何が何やら』


 そう言うノーナの態度はいつも通りの平坦なものだ。マーマレード計画、というのは私の世界では有名なアニソン歌手グループで、主にロボットアニメやロボットゲームの他にカードゲームアニメや特撮などの主題歌を歌っている、熱い人たちである。それは良いんだけど、どうしてママプロの歌がこんな所で? 私の知ってる『四ラビ』にこんな曲はなかったはずだけど。まさか、この世界に来てるの? 


「おっしゃあ! やってやろうぜ、フレイム」

「俺達はまだ諦めるわけにはいかない。いくぞ、アクア」

「そうだね。この国を、そしてモニカちゃんを守るために、僕達は行かなくちゃいけない。そうだね、ウィンド」

「みんなでおねえちゃんを守ろうね、ランド」


 四つの光は白ロボのもとに集まっていく。曲はサビっぽい所に入る。主人公機の名前を叫ぶのはいかにもロボットアニメの主題歌っぽい。


「姫公合体!」


 モニカが叫ぶ。


「悪を切り裂く炎の剣!」


 赤い光は剣になる。


「希望を掴む水の四肢!」


 青い光は脚と腕になる。


「世界を癒す風の翼!」


 緑の光は大きな翼になる。


「全てを守る大地の鎧!」


 黄色の光は鎧になる。


 それらは四肢を失った白ロボへと集まる。全身を鎧が覆い、腕と脚がくっつき、背中に翼を生やすと共に頭に兜を被り、そして剣を握りしめる。


「「「「「グレートゼンニンオー!」」」」」


 五人の叫びと同時に曲の一番が終わり、剣道の構えの様に赤い剣を持つ。剣がやたらと大きく見えるのは気のせい? ポーズを決めてる背後に爆発を幻視した。


「ユリーカ、これ以上あなたの好きにはさせない!」


 そんな決め台詞を言うモニカ。だが、私には余裕があった。


「おーほっほっほっほっほっほ!」

「何がおかしいの!」

「これは笑わずにいられませんの。あなた達が合体している間、私は惡厄砲を撃つ為のエネルギーをチャージしていましてよ! たとえ合体しようとも、これは絶対に耐えられませんわ」


 そう、私だってただ指をくわえて合体を見てた訳じゃない。4機の(ぶっちゃけどれくらい強いのかは今一分からない)ロボットを戦闘不能に追い込んだ惡厄砲は、間違いなく合体ロボを葬れる。


「惡厄砲、発射ですわ!」

「くっ……」


 禍々しい闇のエネルギーが合体ロボを呑み込む。これは確実にクリーンヒットした。爆煙が合体ロボを包む。


「やりましたの!?」


 私は叫び、そこで気付く。たった今、『姫公合体ゼンニンオー』は2番のサビに入った事に。爆煙が晴れて、そこには無傷の合体ロボが仁王立ちしていた。ラファエルが得意げに言う。


「えへへっ、そんな攻撃で今のゼンニンオーは倒せないよ!」

「何ですって……!?」

「では、今度はこちらの番と行こうか」


 ガブリエルがそう言うと、合体ロボは剣を構える。


「ゼンニン……ブレェェェェェェェド!」

「ボツラク……ソォォォォォォォォド!」


 ウリエルの叫びに、私は思わず呼応して剣を構える。


「加速する!」


 ミカエルがそう言うと合体ロボは翼をバサバサと羽ばたかせ、空中を高速で移動する。


「動きが見え見えですわ!」


 馬鹿正直にまっすぐ飛んでくる相手に、タイミングよく剣を振り下ろす。その斬撃はあっさりと斬り払われた。曲は最後の大サビに差し掛かる。


「なっ……!」

「隙あり!」


 合体ロボは一度振り下ろした剣を切り返す。


「ウリエル君を、ガブリエル君を、ミカエル君を、ラファエル君を……みんなを傷つけたあなたを、私は絶対に許さない!」

「やっちまえ、モニカ!」

「遠慮などいらないぞ」

「見せてやろうよ、僕達の力を」

「大丈夫、おねえちゃんなら出来るよ!」


 曲が最後のサビに突入する中、貴公子たちのモニカへ言葉が送られる。それをわざわざこっちにも聞かせる事は無いんじゃないかと思う。合体ロボは空高く跳躍した。そして、剣が振り上げられる。


「禅・忍・斬りぃぃぃぃぃぃっ!」


 すごい勢いで落下すると同時に、剣は一気に振り下ろされる。


「負ける訳には……行きませんのぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 私は負けじとボツラクソードで、敵の攻撃を受け止める。だが、それはバラバラに砕け散る。


「ちょっ……」


 呆気にとられる私に構わず、剣はアクヤクオーへと容赦なく振り下ろされた。その刃は私のいるコックピットに辿り着く。


「きゃあああああああああああああ――――――――」



 ○



「――――――――ああああああああああああああああああ!」


 篠島エリカ、17歳。自分の上げた大声にびっくりして目覚めると、目の前のテレビには『四聖貴公子の迷宮』のスタート画面が映っていた。どうやら寝落ちしていたらしい。時計を確認してみると、今は午前4時。起きるにはまだ早い時間だ。ゲーム機とテレビの電源を切り、部屋の明かりを消してベッドに向かう。


「夢オチって、そんなベタな……」


 試しに声を出してみると、変なお嬢様言葉ではなく普通の言葉が出た。布団に入り目を閉じるも、先程の夢の高揚感が残っているせいか眠れない。ふと私は、スマートフォンをおもむろに取り出して、『四ラビ』の攻略サイトを検索する。ゲームの攻略情報は出来るだけ見ない主義である私だが、今回ばかりはどうしても気になった。調べた結果、全てのルートを攻略した上で逆ハーエンドを改めてクリアすると、おまけムービー『姫公合体ゼンニンオー』を見る事が出来るとの事だった。数多くのロボットアニメを手掛けてきたスタッフが製作したそれは、乙女ゲーなんてやらないような往年のロボットアニメファンをも唸らせるクオリティらしく、そのムービーを見たいが為に『四ラビ』を買う層も多いとの事だ。主題歌を担当するのは夢と同じく、マーマレード計画だった。


「ムービーを見てる間に寝落ちして、その中に入った夢を見たって感じ? それにしてもなんでユリーカになってたんだろう」


 まあ、夢に理由なんて求めるものじゃないか。私はネット小説の『悪役令嬢もの』というジャンルのものをよく読んでいる。大好きなジャンルではあるのだが、あれは「ゲームの結末を知っている主人公がバッドエンドを回避するためにがんばる」という話だったはずだ。私の場合「既に結末が決まった状態で、知らない世界に放り込まれた」というどうしようもない状況だ。そんな話が投稿されたら、感想欄は大荒れ必至だ。もしくは誰にも読まれず、空気のまま終わるか。


「悪役令嬢になるにしても、せめてどうにか出来る時系列からスタートさせてよ……」


 そんな愚痴を吐きつつ眠りにつく。




 そして、次に私が目覚めたのは――――――――

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