#1 突
『戦争をしましょう。』
彼女のいつもとは違う無機質な声が響きわたる。
さっきまで放課後の教室だったはずの空間は気のせいかどこかナツメ色に褪せていた。
「・・・は?」
俺は思わず困惑の声を漏らす。当然である。
「・・あら、聞こえなかったかしら?」
「それじゃあもう一度言うわ。」
「『戦争』をしましょう、真黒君。」
「・・!?」
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、お前はどこの戦場ヶ原さんだよ!!!!
違うだろ!?お前は千原〈チハラ〉だろ!?千原実里〈チハラミリ〉だろ!!!?
思わず心の中でツッコむ。
だいだいどうしてこうなった!?俺、知らず知らずのうちに何かやらかしたのか!?
それとも些細なことでチハラの地雷踏んじまったとかか?
つーか俺チハラとそんなに話したことないし!!
だいたい、
チッ
「相変わらずうるさい」
千原は何かをつぶやくと同時に手に持っているこれまた何かを振り下ろしてきた。
俺は訳も分からず全力で避ける!!そして逃げる!!
ブンッ
夢中で避けつつ見えたものから察するにどうやら凶器は木刀のようだ。
ブンッ!ブンッ!
やたらめったらに振り回すのではなく一撃一撃が仕留めにきている。
木刀とはいえ当たり所によっては・・・と、身の危険というより命の危険を感じる。
そんな振りだ。
武道の心得のない俺にはギリギリでかわして反撃!というようなことはできるわけもなく、
あちらへこちらへと無様に転げまわるばかりだ。
『全力で』というのはそういうことだ。
ガンッ!!
カラン
空振った木刀がコンクリの柱に当たり、チハラの手を痺れさせた!
「チャンス!!」
反撃!!!・・ではなく当然逃げる断然逃げる。
そこから俺は脱兎のごとく逃げた。蜘蛛の子もといまっくろくろすけを散らすように逃げた。
『女の子は殴れない!』的なフェミニズムに目覚めた訳ではなく、ただ単にあの異様なチハラから
逃れたい一心だった。二心は無い。
幸い教室の扉は固定されて開かないといったようなことも無かった。
俺にMっ気のひとつでもあればどうにか・・・ならないな、死ぬ。
そんなことを思いながら夢中で階段を駆け下りていると、少しして困ったことが起きた。
先程懸念した、『扉が固定されて開かない』が学校の玄関で起こっていた。