第2話【少女と甘味と追憶】2
目の前で黙々とホットケーキを食べる少女、小鳥遊 紫苑。
それを気持ちが悪いほどの笑顔で見つめる青年、宮本 信二。
心の中でそんなナレーションが流れる。どうしてこんな美少女と、変態の塊のような僕が一緒にいられるのか?
彼女が我が家を始めて訪ねて来て、既に一週間。今まであったことを、赤裸々に報告しよう。
まず一日目。
つまりは、彼女がうちを訪れ「泊まらせてくれ」と言って来た日である。
『小鳥遊 紫苑』と名乗った少女は、その後何かを語るでもなく静かに僕に寄り添っていた。鼻水と涙で顔面をテカらせた僕は無言で下を向いている。そんな情けない男に一枚の紙が差し出された。
〈流れ星〉
その一単語に顔を上げる。窓の外を見ると、沢山の光が空を流れ落ちていた。
「今日は双子座流星群が来る日だったんだっけ」
そう呟くと、少女が首を傾げていた。
「三大流星群の一つだよ。毎年この季節になると見えるんだ」
ふーん、とでも言うように、彼女の口が尖り顎が上向きになる。
「ペルセウス流星群って知ってるだろ?」
うんうん、と頷く少女。
「ペルセウス流星群の方が有名だけど、見られる星の数は双子座流星群の方が圧倒的に多いんだよ。ペルセウスは六十個くらいで、双子座は百個近く見れるんだ」
「百個」という言葉に驚いた顔をして、食い入るように見つめる少女。その視線の先で星が絶え間無く流れている。少女の瞳にも、星が写り込んでは消えていた。
一言で言い表すなら、美しかった。
でもそんな言葉では言い表せないくらい……なんと言えばいいんだろう。その横顔は神秘的で人間味がなくて、そして生気がなかった。だけど、興奮して朱が差した頬。星を写し込んだ瞳。そして白い息を吐き出す彼女の唇からは、確かに生きているという確信を与えられる。生と死の狭間で生きている美しい何か。彼女にはそんな曖昧な言葉が一番ふさわしかった。
不意に袖を引かれる。一枚の紙が差し出された。
〈そんなに見られると、緊張する〉
見ると少女が笑っていた。 今まで顔面に張り付いていた笑顔ではなくて。自然に溢れてくる笑顔。
「……ごめんごめん」
僕も笑ってごまかす。すると、少女がまた紙にさらさらと何かを書き連ねて見せた。
そこには〈やっと笑った〉と一言書いてあった。僕が再度、彼女を抱きしめたのは言うまでもない。
双子座流星群を堪能した僕らは、各々寝ることにした。僕は少女に自分の部屋のベッドを譲り、自分は事務所にある古びたソファで眠った。夜中に一度、少女が起きて来て僕の側に立ったことは知っている。が、あえて目をつむって寝たままでいた。
じっと見つめる視線を感じる。僕の額を汗が流れ落ちる。緊張の汗だった。それを拭き取るように少女の手が触れて。
冷たい指先に心が落ち着いたのか、僕は眠りへと誘われて行った。