第0話【しいちゃん】続
幼稚園の時、同じクラスのタツヤくんが嫌いだった。
いっつも僕を虐めてくる。そのくせ先生はみんながみんな、タツヤくんの味方だった。
だから僕は大嫌いだった。
父さんは毎日、身体中に増えていく傷を優しく撫でてくれた。
「しーちゃんは悪くないよ。しーちゃんはなんにも悪くない」
そう言いながら僕を優しく抱きしめてくれた。震える父さんの背中を抱きながら「泣かないで」と何度も繰り返していたのを今でも覚えている。父さんの言葉は呪文のように耳を伝って僕の心に染み渡って。
そうか、僕は悪くないんだ。全部、タツヤ君が悪いんだ。死神様が無くしてくれれば、どれだけいいことか。
そう思って、毎晩ぬいぐるみの熊を抱きしめながら眠った。
四歳の誕生日、父さんが僕に百枚ほどの紙の束を渡して囁いた。
「この紙になんでもお願い書いてごらん。
それでお家のポストに入れてご覧。きっと叶うから」
僕は〈たつやくんがいなくなりますように〉とだけ書いた。それがそのときの僕の一番の願いだった。
別に痛いことされるからじゃない。先生たちが依怙贔屓するからでもない。ただ単に、父さんを悲しませる自分の傷がなくなるには、この方法しかないと思ったのだ。
そしたら本当に、次の週からタツヤくんは幼稚園に来なくなった。
父さんは「これで安心だね」と僕の頭を撫でた。