第1話【少女と便利屋と遺失物】2
彼女は一体、何がしたいんだろう?
その思いだけが頭の中をグルグルと駆け回って落ち着かない。
とりあえず、と僕は思った。状況の整理は鉄則だ。まずは、基本中の基本『5W1H』をチェックしようでは無いか。
When? 今この瞬間だ。一時間程前から今までの長い間。
Where? 今この場所でだ。僕の家……兼、事務所とでも言っておこう。
Who? 彼女と僕。人形みたいに美しい姫とただの人間。
What? 名前を。
Why? 教えてくれないので。五回は聞いたのに、ずっと無視。
How? 僕はもう挫けてしまいそうです、先生。
思わず心の中に現れた、白い髭を生い茂らせた見るからに柔ら……優しそうな眼鏡のおじさんに泣きつく。助けてください、先生。僕、もう、無視され続けて。心が折れそうなんです。なのに彼女、終始笑顔なんです。意味がわからないんですよ、もう。
すると、心の中の先生が背中をドンと押した。
それはまるで「諦めたらそこで終了ですよ」と囁いているようだった。
その一押しに覚悟を決める。なにが、無視され続けて心が折れそう、だ。それでも男か。自分。
「……おっ……おおお、お嬢さん」
僕はなけなしの勇気を払って、少女に語りかける。相変わらず少女の目は僕の姿を反射しているだけだったし、笑顔は崩れなかったし、声も出さなかったが。
「ぼ、ぼぼ、僕にも仕事がありゅんでしよ」
僕は続けた。盛大に噛んで、顔から火が出そうだったが。
ここで諦める訳にはいかない。
「だからね……あの……うん」
これ以上ここにいられても困るんだよ! という本音は言わないでおくことにした。決して泣かれるのが怖いからではない。彼女の事を尊重しての配慮だ。決して女の涙にトラウマがあるわけではない。決して。
「それに親御さんも、心配しますよ。もう、帰った方が、いいんじゃないかな?」
そう言って、今までの伏せていた顔を上げる。ゆっくりと。それはさながら、有名ハリウッドスターが映画の中でやる仕草に似ていた、と自負している。
だが、彼女は見ていなかった。
ぼんやりとした目で、窓の外に広がりだした朱色に染まった雲を見つめている。
ああ。さっき頬を染めたと思ったのは、この夕日のせいか。……なんだかなあ。そんな思いで、僕も空を見つめる。
なんだかなあ。彼女も僕も。
正直、これからどうしたらいいのか、全くと言っていい程わからなかった。
警察に行こうにも名前がわからない、喋らないんじゃ話にならないだろう。僕が誘拐犯として逮捕されないとも限らない。だが、通報しないとしないで、家出少女を監禁していたと言われたってしかたがないだろう。普段から良い行いばかりしていればよかったなあ、と後悔の念が後を絶たない。先週の幼女連れ去り未遂事件だけで、もうこりごりだ。……いや、実際はそんなことしようとはしてなかったけどな。住人の勘違いだったけどな。だけど、僕が子どもといるってことは、そう疑われてしまっても仕方ないことなのだろう。悲しいことに。