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第0話【しいちゃん】
「しいちゃんの側には、いつも『死神様』がいるからね。
しいちゃんが我慢することなんて、何にもないんだよ?
辛い時は、いつでも死神様に助けてって言ってごらん。
絶対に『死神様』は、しいちゃんを助けてくれるから」
父さんはそう言って、僕の髪をくしゃりと撫でる。
ボクと父さんの毎日の決まり事だ。この決まり事が無いと、怖くて学校にも行けなかった。何より、父さんに髪を撫でられる感覚が大好きで心地よかった。
ボクが安心するための唯一の方法と言っても過言では無かっただろう。
物心着いた頃には母さんは居なかったから、両親の愛情というものをボクは知らない。ただ代わりに、父さんからの愛情はいっぱい受けて来たつもりだ。
だからだろうか。
「ととは、しいちゃんの、みかた?」
ボクは聞く。
「ととも、『死神様』も、しいちゃんの強ーい味方だよ」
父さんは笑って答える。
今となっちゃ「ありえない」と笑い飛ばせる『死神様』という存在ですら、ボクは信じていた。
それくらい、父さんの言葉は絶対で、その存在こそがボクの中での絶対だったのだ。