なにか、あの時、生まれたらしい (大陽家)《近距離恋愛シリーズ》
いわゆる、隠し子騒動
この平和な日本に住んでいても、二十何年か生きていると古傷の一つや二つはあるものだ。
俺の額の生え際にも、高校の時雪ですっころんで切って縫った後がうっすらあるように、喧嘩なんてしてこなくても身体のアチコチに消えない傷が残っている。
女性であるはずの百合ちゃんは、足には中学の時階段から落ちてついた傷とか、小学校の時彫刻刀でスパッと切ってしまった左手の親指の傷とか、聞くだけで青ざめるような古傷がある。
そういうモノも理由も分かっていれば納得出来るものの、俺の身体には原因が良く分からない傷がお腹にある。
しかも数本。生まれてこの方大きな病気になった事もないし、手術したこともない。
その事を話し、上着を上げ俺はソファーに座った状態でその謎の傷痕を晒す。それを床に座った百合ちゃんが俺の膝に腕をおき寄りかかり、しげしげと見つめている。端から見たら滑稽な状況かもしれないが、自宅リビングでだれも他にいない状況だし、二人とも真面目な顔で会話していた。
百合ちゃんは、ハッと何か気が付いた様子で俺の顔を見上げる。
「渚左右衛門さん、まさか!」
唇の端がヒクっとして何故か一瞬笑った後、顔を引き締め、謎な言葉を発してきた。
「もしかして隠し子とかいる? 怒らないから正直に言って!」
そして如何にも演技という感じで、ヨヨと泣く振りをして流れてもない涙を拭う。
「は~?」
何の悪ふざけか解らず、俺は間抜けな声を返す。
嘘泣きを止めた百合ちゃんはフフフフと笑いながら、俺の腹の傷痕を指でなぞる。
「コレ、傷ではないよ!」
思わせぶりに、そこで、言葉を切り俺の顔を見上げてニヤニヤする。そして衝撃的な言葉を俺に投げてきた。
「これはね……妊娠線!」
この言葉にどうリアクションすればいいのだろうか?
俺は今でこそ八十キロでまあ普通の体型? だが、大学時代デブだった。身長百九十に体重は百十キロあり周りからは威圧感ありすぎると文句を言われていた程である。とはいえ百十キロとはいえ身長もあるので、TVのデブタレントのように横広く太っていたとは思ってないが……。
「妊娠して、何生んだの? ねえ、ねえ」
百合ちゃんはからかうように、ニコニコと俺を見上げ聞いてくる。俺は上着を戻し、若干のショックを感じながら付きまとってくる百合ちゃんから逃げるようにトイレへと逃げ込んだ。そしてそっとお腹を見る。言われてみるとこれは傷跡というより細胞が内側で裂けたように見える。男なのに、妊娠線をこしらえた俺っていったい……。
※ ※ ※
大陽くんがいかにして三十キロ痩せたか?
ダイエットは実は体重のある人ほど、簡単にある程度は痩せられます。というのは、減り代が人よりたっぷりあるからです。なのである程度は面白いように落ちていきます。しかしダイエットされた方は覚えありますが、あるラインから下げ止まるゾーンがくるというのがダイエットの難しい所だったりもするのですが……。
大陽くんは元々カロリーの高い食べ物が好きなのもありますが、自宅暮らしであった事と、好き嫌いの激しい妹がいた事があり、日常的に1.5人分の食料を食べていた事で太り続けていまいた。
しかし働くようになってSEで深夜残業が続く生活を続けているうちに、帰りが遅く疲れているので夜ご飯を抜き、それを朝食べるという生活を続けていたら、気が付いたら三十キロ痩せていたという訳です。
ただ、彼の場合はダイエットするつもりでやったわけでもありませんし、コレがお薦めという方法でもありません。
朝しっかり食べて、昼間もバランスの良い食事を選び、夜は軽めで身体に優しいものを食べるというのが理想なのでしょうね。
実は、結婚して大陽くんの体重は増加傾向にあります。あまりにも嬉しそうに食べてくれるから、月ちゃんが多めの食事を作ってしまっている事が原因です。どうか大陽くんが0.1t超えない事を祈るばかりです。
幸せ太りというのも微笑ましいですが、なんでも程々が一番ですね。