星と太陽を乗せて汽車は行く(星野家)《近距離恋愛シリーズ》《みんな欠けているシリーズ》
①自分のオリキャラに喋らせること
②質問は自分で考えること
③最低一人にはバトンを回すこと
以前、このルールのバトンを頂きました。しかし私のキャラを、ただ喋らせてみても、その人物が誰なのか分からない方も多いと思い、小説形式で掲載させて頂きました。
活動報告においていた物を少し改稿してコチラに転載させて頂いております。
『アダブティッドチャイルドは荒野を目指す』の主人公「星野秀明」と『三十五センチ下の○○点』の主人公「大陽渚」二人が作り出す世界を楽しんで頂けたら嬉しいです。
東北新幹線の二人がけのシートで、二人の男か何ともモヤモヤした気持ちで隣合わせで座っていた。
窓際の方の男は小柄で細身。見るからに控えめで穏やかそうで、コレといって特徴を挙げるのが難しい。あえて挙げれば眼鏡をかけているというのが特徴といえるそんな青年。対する通路側の男は身長も二メートルはあるのではないかというくらい大きくガッシリとした身体をしていた。顔にしても太い眉に大きいギョロ目に太い唇と全てのパーツにインパクトがあり似顔絵も描きやすいであろう人物。
東京駅始発からたまたま隣り合わせで乗り合わせた二人は、時折隣を気にしつつも互いに声をかけることも躊躇ったままシートに座っている。
「あ、あの」
新幹線が大宮を過ぎた辺りで、通路側の大男が、小柄の男に声をかけてくる。小柄の男がドキマギしながら返事をする。
「は、はい」
首を傾げ大男を見上げてくる小柄の男を、大柄の男は改めて正面からジッと見下ろす。
「どこかで、お会いした事ありませんでしたっけ?」
小柄の男は、おそらく日本中のどの団体の中にもこんな感じの男性がいるのではないか。というよくある顔立ちをしている。だから誰かに似ていても不思議ではない。でも小柄の男性は、初対面であるこの大男の顔には見覚えがあった。というのは彼の友人が最近、大量に送りつけてきた写真に散々写っていた顔だからだ。友人との共通の知り合いの結婚式の花婿を勤めた男がまさにこんな顔をしていた。
「いえ、初対面です。でも、間違えていたら申し訳ありません。もしかして貴方は大陽さんではないですか? 私は星野秀明と申します。百合子さんの……」
その後どういう言葉を続けるべきか、星野と名乗った男は悩む。大男は頷いて、そして星野という名前に『ああ!』と声をあげる。その反応で星野はやはり相手は大湯渚という人物で、相手も自分の顔を知っていたらしいという事を察する。同時に星野の頭に一つの疑問が浮かぶ。
(この男はどの程度、僕の事を知っているのだろうか?)
「薫さんから、お噂は色々伺っています。それに結婚式の時に、お祝いメッセージを頂きありがとうございます」
友人の名をあげ明るい笑顔でそういう言葉を言ってくる大陽の様子に、星野は感じる必要のない疚しさを覚える。自分が彼の妻に宛てて喋った結婚祝いのメッセージ動画をこの男も見たという事に焦りも感じる。そして星野がチョッピリ切ない気持ちで語ったお祝いを、大陽という男は無邪気に聞き喜んでいるという所にも複雑な思いを感じざる得ない。太陽の妻と星野との恋愛はとっくに終わっている。心を残しているわけでもなく、恋愛感情はもうない。でも愛しいという気持ちは、依然星野の心から消えることはない。
「いえ、あんな事しか出来なくて」
ゴニョゴニョと言い訳のように話す星野に、人懐っこい笑みを大陽は向けてくる。
「そういえば、同じ週に結婚されたとか、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
星野は穏やかな笑みを返しながら、大陽が自分と彼の妻が昔付き合っていた事なんて知らないのだろうなと考えていた。でなければ大陽はこんなに無邪気に星野のお祝いを聞いてないだろうし、こんな明るい笑顔で星野のお祝いの言葉も言ってくるはずがないからだ。そもそも話しかけてもこなかっただろう。
かなり微妙な関係にある二人で何を話せばよいのか? どうしたものかと考えている星野に、大陽の方からニコニコと話かけてくる。
「今日はお仕事で、東京に?」
大陽の質問に、星野は頷く。
「はい、業者との打ち合わせとか、旅行雑誌の編集社に挨拶とかして、バタバタしていました。いわゆる日帰り出張ですね」
『成る程』と大陽は頷く。
「そうなんですか、大変ですね。でも、どうせ東京でてこられたなら、一泊してお友達とも会うなり楽しまれたらいいのに」
その大陽の言葉に苦笑してしまう。友人の薫からも同じような事言われ、散々文句を言われた後だからだ。
「家族経営の旅館だと、流石に東京で一泊してのんびり出張なんて事はなかなか。大陽さんもお仕事で?」
大陽はニコニコと星野の言葉を聞いていたが、最後の質問で思いっきり顔を顰め、大きく溜息をつく。
「はい、もうメールや電話のやりとりでは埒が明かないということで、俺が動く事になって面倒くさいというか」
体格のわりに、子供っぽい顔でごねている大陽に様子が星野には微笑ましくみえて笑ってしまう。
「いえ、それぞれの仕事にはそれぞれの大変さがあるんだなと思って。新婚のこの時期に出張なんて特に」
星野の言葉に大陽は『ウーン』と考えるような顔をする。そして、悪戯っ子のように笑う。
「それは、えっと、あ、貴方もでは?」
星野は、相手の男が自分の名前を忘れたような様子なので、もう一度「星野です」と名乗る。つまらない意地だ。星野は、大陽渚という存在をこんなにも意識しているのに、相手にとっては存在すら意識されてになかった。せめて名前くらいは認識してもらいたかった。
「ウチは、商売しているので流石に新婚気分を楽しむ訳には」
結婚してすぐに旅館の仕事という状態なので、夫婦らしい時間を楽しめる機会は少ない。しかし二四時間共に旅館の仕事を一緒に楽しみながらやっていることで、家族という関係を深めているというべきなのだろう。
大陽は、星野がそんなに楽しい事を話しているとは思えないのに楽しげな目で聞いている。大陽が楽しんでいるというよりか、元々そういう顔なようだ。
「大陽さんこそ新婚ホヤホヤでの出張で寂しいのではないですか?」
逆に星野は聞いてみたくなりそんな言葉を続けた。そう星野がかつて望んだ普通のサラリーマンをして、自分が好きだった女性との結婚生活を手に入れた男の話を。大陽は照れたように顔をクシャっと緩ませ、顔を横にふる。
「出張は面倒くさいというほうが強いですかね。それに妻も、今日は、ほら薫さん。星野さんもご存じですよね? 彼女とデートするんだと気ままにしているみたいです」
星野は自分の友人の名前に頷きながら、大陽が優しい顔で、嬉しそうに彼の妻の話をするのをジッと見つめていた。ちょっと出張で離れたから寂しくなるなんて感じる事ないくらい、二人は想いあってているし幸せなのだろう。
その後は、大陽の惚気話を聞きながら、星野は当たり障りのないかつての恋人であり可愛い後輩の思い出話をしながら一時間チョットの時間を楽しんでいたら、大陽の携帯が鳴る。大陽は星野に断りながら携帯を開いて、顔を綻ばせる。
「カエルメールみたいです」
流石に星野にそのメールを見せてくるなんて事はしない。しかし嬉しげに携帯をいじくり返信してから星野を見てヘラっと笑う。つられて星野もニコニコとしてしまう。陽気で人なつっこい笑みを浮かべる大陽に星野は好感をもつと同時に、なんか幸せそうな夫婦の様子に満たされた気持ちになってくる。
「ラブラブですね」
星野の冷やかしの言葉に、大陽は恥ずかしそうにしながらも頷く。車内のアナウンスが仙台にまもなく到着する事を伝え大陽がそれに反応を示す。二人の別れの時が近づいたようだ。
「良かったら花巻までいらした時は、ウチの旅館にいらして下さいね」
星野は百パーセント本気の歓迎の気持ちを込めて、そんな言葉を投げかける。今日で綺麗に吹っ切れた。もうかつての恋人とも冷静に向き合えるような気がした。大陽は嬉しそうに頷く。
「是非! どうせなら薫さんとかとも一緒に行くのも楽しそうですね! では、お気を付けて楽しかったです」
大陽は太陽のような明るい笑顔で挨拶をして降りていった。残された星野はポツンと空いた隣の席を見つめ溜息をつく。通路にやってきた車内販売の人に声かける。
「すいません、ビール頂けますか?」
星野はビールのプルトップをあけ、乾杯するかのように掲げてから口をつける。心地よい炭酸と苦みが口内に広がる。一人のふて飲みではなく、星野なりの祝い酒である。大陽の結婚式が星野の結婚式と同じ週だった為に、ゆっくり彼女の結婚を祝うだけの心の余裕がなかったからだ。人って大切な人、愛する人が幸せでこそ、自分も幸せと感じられるものなんだと星野は実感する。満たされ幸せな気持ちのまま新花巻の駅で降りた。星野は携帯を取り出して通話ボタンを押す。
「あ、僕だけど今新花巻についた」
「お帰りなさい。お疲れさま!」
星野の妻の明るい声が聞こえる。その声に星野は自分の場所に帰ってきたのだという心地よい安堵感を覚える。
「ただいま!」
なんでもないこの言葉が、この時の星野にはとても素敵な言葉に感じられた。電話をしながらタクシー乗り場に足早に向かう。愛しい我が家に早く帰るために。
コチラの作品は、『短距離恋愛』シリーズではなく、『みんな欠けている』シリーズの続編のような内容ですが、向こうのシリーズとして置くとネタバレになることと、ある意味『零距離』の物語なのでコチラに収録させて頂きました。
コチラは「もしも」という想定という内容で、作者の私としてはこの二人は顔を合わせさせるつもりは全くありません。パラレルな世界と思って読んでください。