イカロスとチョコ(大陽家?)《近距離恋愛シリーズ》
『伸ばした手のチョット先のお月様』 の番外編となります。
その為に、コチラを読んでいないとチョット状況は分かり辛いかもしれません。
太陽に憧れたイカロスは羽を蝋で固めた翼を付け空へと羽ばたいた。しかし憧れの太陽に近づくにつれ、太陽の熱は激しくなり翼の蝋が溶かしていく。結果イカロスは羽を失い落ちてしまった。
もしイカロスが焦がれたのが月だったのなら良かったのに。イカロスの羽は溶ける事もなく月へと辿り着いていたかもしれない。
俺は太陽に挑む事も、月に向かって羽ばたくこともしなかった。
地上から、月が星を振り切り太陽と大激突という、良く分からない天体ショーを眺めていただけ。
本当にそんな事が起これば地球は無事では済まないだろう。しかしその恐ろしい天体現象は俺だけに深い衝撃を与えた。
俺はそのとんでもない事態を防がんと映画のヒーローのように行動する事もなく、傍観していただけ。
イカロスの何十分の一の勇気を持って行動していたらと今更のように思う。
例えイカロスと同じ運命だったとしても、この今の苦しみから後悔という思いは減っていたのかもしれない。
心の中で燻らせた想いは、燻っているだけに俺の中でなかなか消えてくれなかった。逆に彼女のウェディング姿を見て、本当に彼女が好きだったんだという事を再確認しただけ。
営業先から戻ってきたらもう十二時を越えていた。先にお昼を食べる事にする。俺は弁当の入ったレジ袋下をげて会議室に行くと、会社の若手メンバーがお昼をすでに食べていた。
別に一緒にお弁当を食べる約束をしているわけではない。なんとなくそこでザックリと集まりご飯を食べるのが習慣になっている。遅かったこともあり、みな食べ終わっていて、雑談に入っているようだった。
「黒くんお疲れ様! お帰りなさい」
俺が入ってきたのに気が付いた月ちゃんが、振り返ってニッコリ笑いかけてくる。正面に座っていた西川もニッコリ笑って頭を下げる。
月ちゃんが結婚してもう半年程たった。髪の毛も伸ばした事もあり女らしくなって綺麗になったと思う。それ以上に幸せなんだろう、結婚前よりも笑顔がますます溌剌として明るくなった。その笑顔を見ると心がチクリと痛い。
未練がましいと思う。俺は笑顔で『ただいま』と言いながら、椅子を引き寄せて、たまたま空いていた月ちゃんの隣に座る。
どうやら、隣に座っていた松ちゃんが早く食事をして仕事に戻ったから空いていたようだ。
皆が何やらタッパーをのぞき込んで楽しげに話をしている。
「何? それ?」
俺が聞くと、同じ課の西河実和がニッコリ笑ってそのタッパーをコチラにちらりと見せる。
「月さんが、チョコをもってきたんですよ」
中をみるとチョコが入っている。その形はダースベーダーとか、ストーントルーパーの顔。スターウォーズをモチーフにしたものとなっていた。こんなの売っているんだと、俺はそれをしげしげと見入ってしまう。
そういえば二月に入ったところでバレンタインシーズンな事を今更のように思い出す。こういうのも売っていたようだ。
「凄いじゃん! コレ! 貰っていい?」
月ちゃんは、ニッコリ笑って頷く。何故か顔が誇らしげだ。
「凄いわよね! ソレ手作りなのよ」
宮崎と名前が変わった河瀬夏美が俺に話しかけてくる。月ちゃんを挟んで反対側に座っている彼女は、ニコニコと笑って俺をみている。
珍しい、彼女が俺に親し気に話しかけてくるなんて。
最近攻撃してくることはなくなった。だがあえて接触もしてこないのが普通だったから、ちょっと不思議に思う。彼女も結婚して柔らかくなったという事なのかもしれない。
月ちゃんの手作りチョコか、俺はダースベーダーを一個つまみ口に入れる。当たり前だけど甘い。そして美味しい。
今現在彼女のいない俺。今年は社内の女性がみんなでお金を出し合って配られる義理チョコしか貰えなさそうだ。それだけに、このチョコはチョット嬉しい。
「確かに凄いね! 売り物みたい!」
宮崎さんにではなく、月ちゃんに向かってそういう言葉を返す。
嬉しそうにフフフフと笑う月ちゃん。このチョコは結局家で旦那に作ったものの残り物なんだろう。とはいえ好きな人の手作りのモノは食べたいもの。
「やっぱ~黒くんにはコレ喜んでくれると想った!
持ってきた甲斐があるよ! そうそうカーボンフリーズされたハン・ソロもあるんだよ!」
月ちゃんはそう行って奧から、四角いチョコも出してきて、俺に渡してくれる。
月ちゃんが結婚していなかったら嬉しいシチュエーションなのだが……。たしかに四角い中に半分埋もれカーボンフリーズされた状態の人間のチョコ。たしかにあのシーンのハン・ソロだ。
「みんな、このチョコは、気持ちわるいっていうんだよね。なんか地面に中途半端に埋められた死体みたいって」
その言葉に、宮崎さんは苦笑した。正面にすわっていた西川達も困った顔をする。
悲しそうに言う月ちゃん。たしかにスターウォーズのあのシーンを知らなければそう思っても当然なデザインである。
「コレ、どうやって作ったの?」
それにしても、これらのチョコのクォリティーが高すぎる。俺は素直に感動し褒めてそう聞いてみる。
「こういうシリコン製の製氷皿があるの。 それにチョコを流し込んで作ったの……」
なるほど、最近は色々そういう面白いアイテムがあるんだと俺が頷こうとする。そのタイミングで月ちゃんが想いもしなかった言葉を続ける。
「うちの旦那様が」
「へ?」
ヘヘンと、月ちゃんは威張ったような顔をする。
「このチョコ、作ったのなんと主人なの♪」
「……」
口の中のチョコは変わってない筈。なのに甘くて美味しかったはずのチョコが甘ったるくて不快なモノに思えてきた。
「レンジで溶かして簡単に出来るモノを見つけてから、チョコ造りに凝っちゃって。元々はこれ製氷皿なんだけど水だと細かい細工が見えにくいでしょ? それで、『チョコだったら見えやすくなるのでは?』とかいって――」
楽しそうに説明する月ちゃんの言葉、何故かすごく遠くに聞こえた。
太陽に焦がれたイカロスは太陽によって羽の蝋を溶かされて地上に落ちた。月に焦がれた俺は太陽が溶かしたチョコによって落ちる、精神的に。
太陽への愛しさを言葉にしながら笑う月ちゃんの笑顔が今の俺にはキツすぎる。俺は力のない笑顔を彼女に返す事しかできなかった。
※ ※ ※
<太陽風バレンタインチョコの作り方>
チョコレート造りって、簡単なようで意外と面倒です。温度管理の必要なテンパリングという作業もあって以外に面倒なもの。
若干味は落ちてしまいますが、レンジで溶かすタイプのチョコを使うと簡単に可愛いものが出来ます。
最近シリコンの型でも可愛いモノが色々ありますよ。
それを使うと可愛いものからカッコいいものまで自在に作れます。しかも簡単に型から外せて楽ですよ!
<材料>
お気に入りのシリコン型
レンジで溶かすタイプのチョコ
もし凝りたいなら、チョコペンとかトッピングシュガー
<作り方>
1 飾りをつけたい場合は先に型にチョコペンでトッピングシュガーで飾りつけをする。
2 チョコのパッケージの作り方を参考にレンジでチョコを溶かす。
(湯銭の方がキッチリ溶かせて楽かもしれません)
3 型にチョコを流し込む。
(あまり分厚くしない方がそれだけ数を多く出来ますし、食べやす
いです)
4 チョコが固まったら、型から外す。
チョット頑張りたいなら、チョコもこだわって見て下さい。
温度計などの道具も揃えてテンパリングして作ってみるのも確かに楽しいです。逆に温度さえしっかり把握して作ればそこまで難しいモノではありませんので。
あとテンパリングで作る場合は、普通のチョコからビターの方が扱いが楽です。
特に『初めてチョコ作るぞ!』という方はホワイトチョコやストロベリーチョコは止めたほうが良いかもしれません。
注・イカロスの物語は、塔からダイダロスと共に脱出するために空飛んだとされる物語ではない方の内容で書いています。