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ミモザの日には……(清酒家)《君の名は? 別冊 シリーズ》

『今日は食べて帰らない? 金曜だし何か旨いモン喰いに行こう』

 正秀さんから午前中なのに、もうそんなメールが来た。私は頭の中に冷蔵庫の中にあるものが何だったかを思い出し、足の早そうな食材が無いことを確認してから『賛成~♪ 仕事終わったらメールするね~♪』と返信する。親しい人程、メールは文章が短くなるものだ。普段の散々会話しているからかもしれない。

 今日は企画書作成など頭使う作業ばかりなので、夕飯の事考えなくていいのは、楽で助かる。正秀さんも企画が一つ終わったばかりだから、一息つき開放的になっているのかもしれない。


 夕方になり少しだけ残業して待ち合わせ場所の喫茶店で、タブレットで作業していると、近づいてくる影に気が付く。確認するまでもなくフワリと漂うコロンの香りで、待ち人がきた事を知りソチラに顔を向ける。何でだろうか、夫婦だからこそこういう外での待ち合わせが楽くて、自然に笑顔が溢れるのを感じた。正秀さんはそんな私を、何故か面白そうなモノを見たかのように笑う。

 私は、夫が朝別れた時持ってなかった紙袋を下げているので、つい注目してしまう。それに正秀さんは苦笑する。私の前に向かい合うように腰かけてから、紙袋から花束を取りだし私にさしだしてくる。

「コレ後で君に渡そうと思っていたけど、ま、今でも同じか」

 手渡され中を覗くと、サッカーボールくらいのサイズの黄色い花束が入っていた。

「え、なんで?」

 誕生日でも、結婚記念日でもない。ホワイトデーには六日程早い。嬉しいけれど戸惑う私に正秀さんは笑う。

「君がそれを言うか! 今日はミモザの日だろ?」

 先日、『ミモザの日』についての記事を書いていた私は改めて今日がその日だったのを思い出す。ミモザの日というのは南欧で大切な女性に男性がミモザの花を贈る日なのだ。大切なというのがミソで恋人、奥さんだけでなく、友達、母親、祖母、と誰にでも贈ってもよく、この日は女性を敬い楽しんでもらおうという日なのだ。その記事を紹介した私がその日の事をすっかりと忘れていた。

 雑誌の編集の仕事をしていると、季節感に敏感になりそうなものだけど、逆にズレまくってしまうものだから。というのは半年先の企画を立てながら、一月先の企画の為の打ち合わせをして、二週間先の時間のネタを今編集している。ミモザの日は私にとっては二週間程前のネタとなってしまっていたからだ。

 そういう状態だから、この花束の存在は私に衝撃に近いサプライズとなった。驚きと喜びにより呼吸をするのを忘れる。瞬間に私の耳にヨーロッパの教会の鐘が華やかに鳴り響き、私がドレス着て花畑の中にいる妄想をしてしまう。

「わかば?」

 いきなり黙りこみ固まった私を不審に思ったのだろう。正秀さんが呼びかけてくる。私は、その声で我に返る。

「ゴメンナサイ。嬉し過ぎてブレーカーが落ちていたみたい」

  正秀さんはクククと笑う。

「契約アンペア上げなよ、こらくらいで飛んじゃうなんて」

 こういうアンペアは何処にお願いすれば上がるものなのだろうか? と思いながら私は首を横にふる。

「違うよ、それだけマサさんの気持ちが嬉しくて、感動したの。自分で記事書きながらも、こんな事をスマートに出来る男性日本にいないよ! でも不器用ながらも感謝を示す男性がいたらなと思っていたら。まさか自分が南欧の女性のように、この素敵なイベントを味わえるなんて幸せ過ぎる」

 私はしみじみと語り、花束を改めて見つめる。花束はミモザは入っていないけれど、黄色のチューリップを中心に纏められていて凄く可愛い。

「俺も嬉しいよ。そんなに喜んでくれて。照れ臭いけどやって良かった」

「いやいや、こう言うのを旦那様からされて喜ばない女性はいないよ!」

 外で食事というのも、『今日は家事を休んで』という意思表示なのだろう。とはいえ我が家は共稼ぎである事もあり、正秀さんも手伝ってくれているので、元々私は家事を完璧にやっている訳でもない。でもこう言う事されると、今後は頑張らないといけないなと反省する。

「何? 惚れ直した?」

 冗談っぽく笑う正秀さんだけど、私は大真面目に頷く。

「好きな気持ちが倍増したよ!」

 私の本気の言葉になのに正秀さんは吹き出す。

「元々の値が二割程度なんて事はないよな?」

 私はその言葉を慌てて否定する。

「そんなの元から十割に決まっているでしょ!

 それが倍増してサイズが二倍になっただけ」

 自分で言っていて、言っている意味がよく分からないが、多分思いの丈は伝わったと思う。正秀さんは相変わらず可笑しそうに笑っている。元のサイズをツッこんでくる事はなかった。元々、からかうように茶化した質問してくるのが正秀さんのコミュニケーションの取り方である。

「ところで、今日は何を喰う?」

 何がツボだったのか、まだ笑ったまま正秀さんはそう聴いてくる。

「うーん。イタリアンがいいかな! あの店のピザをなんか食べたくなった」

 私は少し考えてそう答える。ミモザの日だし、料理をシェアして食べるイタリアンがこの日に相応しい気がした。

「いいね、じゃ行くか!」

 二人で喫茶店を後にする。

「花束、紙袋に戻せば、俺が持つよ」

 正秀さんの言葉に私は首を横に振る。この貰った花束を自分で持って歩きたかったから。こんな素敵な旦那様と一緒にミモザの日を楽しんでいる自分を世間に見せびらかしたかったからかもしれない。

 私は隣を歩く夫の腕に自分の腕を絡ませる。「ん?」と見下ろしてきたけれどフフと笑ってそのまま二人でイタリアンのお店を目指して歩き出した。



 ※   ※   ※


 ミモザの日はイタリアやスペインの方の風習だったようですが、1975年に国際連合によって国際女性デーと定められた事も加わり、女性全般に感謝する日になったようです。

 日本ではあまり馴染みのない習慣ですが、ホテルや商業施設においてお得に様々なモノが楽しめるイベントもありますので良かったら、色々調べて遊んでみては如何でしょうか?


 あとホワイトデーよりも歴史も深いだけに、ホワイトデーでなく、今日バレンタインのお返しをするのも素敵かもしれません。


 この風習素敵なのですが、一つ気をつけなければならないのはミモザの花はアレルギーの原因となる事もあります。鼻炎とか呼吸器系が弱い方には、贈る花を考え方がよいと思います。

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