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年越し蕎麦・リベンジ (清酒家)《君の名は? 別冊 シリーズ》

シリーズ 別冊 君の名は? (煙草と清酒のいる風景) にて連載中の『私はコレで煙草を辞めました?』 に登場する『煙草わかば』さんと『清酒正秀』さんの結婚後の物語となっています。

大晦日に思いついてサッと書いたものです。間に合わず年明けての公開になってしまいました。

 パソコンで来年早々に提出しなければならない企画書を作成していた。しかし台所の方が気になって仕方がない。

 対面式キッチンというのは、同じ空間を共有している一体感を楽しめるのは良い。しかし奮闘しているという感じで始めてのお節作りに挑んでいるわかばの姿が丸見え。

 かなりテンパっている様子でもあるので『手伝おうか?』と聞いても『大丈夫! 大丈夫!』という言葉を返し俺が手を出すのを頑なに拒む。

 お節も作りもなんとか終了したようで、俺はひとまずホッとした。『お疲れさま』と言おうとしたら、『そろそろおそばを食べる?』と聞いてくる。


「少し休んだら? 蕎麦くらいなら俺でも作れるから」


 そう言っても首をブルブルと横にふってからニッコリと笑う。


「ゆでるだけだから、大丈夫!」


 お湯をいれた大きめの鍋をコンロに置き火をかける。

 乾燥蕎麦のパッケージを繁々と見つめ、タイマーをセットしお湯が沸くのを嬉しそうに待っている。


(本当にどんな事であっても、一生懸命頑張る子だよな)


 俺がジッとその様子を見ていると、わかばは『ん?』と顔をコチラに向けてくる。


「いや、可愛いなと思って」


 俺がそう言うと、顔を赤くして慌てたように目を鍋に戻す。パックに入っていためんつゆをもう一つの鍋に入れて暖める。

 この蕎麦は俺の母親の京都土産。年越し蕎麦にどうぞと送ってきてくれたものである。乾燥タイプの蕎麦麺とつゆとニシンがセットになったもの。


 ピピピピ


 タイマーの音がして、わかばが麺を試食して首を傾げる。


「ねえ、コレ、少しまだ芯があるよね?」


 わかばが箸に一本だけ蕎麦を絡ませ俺の方に示してくる。

 食べてみると確かに少しモソっとした食感が気になったので頷く。もう少し煮ることにしたようだが、そのモソモソ感がとれることはない。

 あまり茹で過ぎるのも駄目だと思い、ある程度のところで妥協して食べる事にした。

 蕎麦の入っていたパッケージを俺も読んでみたけれど、ゆで時間などは間違えていない。何故こんな残念な結果になったのか分からなかった。


 二人で向かいあって蕎麦を食べていてもなんか盛り上がらない。

 わかばは感情がモロに顔に出る。イマイチのモノを食べていても楽しそうな顔になる筈もない。

 折角のお土産の蕎麦を微妙なモノにしてしまった事に責任を感じているのかもしれない。


「お土産用の蕎麦だったし、乾麺だとこういうものでは?」


 俺の言葉を聞いて悲しげな顔で見上げてくる。あまり会話も弾まないまま年越し蕎麦のイベントは終了した。俺は立って、二つの器をさっさと下げる事にする。


「お節作りとか、色々頑張ったから疲れただろ? これくらいの片付けは俺がするよ。それに珈琲飲む? 淹れるよ」


 わかばは、口角をクイと上げ笑みを作りコクリと頷く。俺が淹れた珈琲を二人で飲んでいるときにはわかばの機嫌も治ってきたようだ。

 明日は、二人でお節を楽しんで、午後には近所を散歩しながら初詣をしようなど予定を立てる。

 そんな他愛ない会話をして初めて二人で過ごす年明けを楽む。それで俺はこの出来事を忘れてしまっていた。


 年が明けて、会社も始まり一週間程経った。会社で仕事をしていると妻からメールが届く。


『ねえ、今夜のご飯は蕎麦でも大丈夫?』


 共稼ぎであることもあるし、元々奥様にキッチリとした家事を求めている訳ではない。だから俺は『いいよ!』と返事を返す。

 その日は仕事の谷間であった事もあり、残業もそんなになく早く帰れる事になりそうだ。そこで『待ち合わせて外食ですまさない?』とメールしてみたけれど。『もう買い物は済ませたから、お家で食べよう!』と返事がきた。


 家に帰り玄関をあけると、出汁と肉を煮ている香りがした。そしてわかばがパタパタと嬉しそうに出迎えてくれる。


「お帰りなさい、寒かったでしょ! さ、早く! 早く! 中に!」


 リビングのテーブルには、既にサラダなどの副菜が置かれている。

 チラリとキッチンの方を見ると、一つの鍋に肉が浮かんだ蕎麦つゆらしきものがあった。

 白髪ネギが皿で用意されている。今夜の蕎麦は肉蕎麦のようだ。わかばは大晦日と同じように茹だった大きな鍋を見つめている。

 

 ピピピピと音がした。わかばは蕎麦の茹で具合を確認して一人で頷く。

 蕎麦をザルにあけ軽く水で洗ってからどんぶりに盛りつけた。熱々のつゆをそれにかけネギを上に盛りつけて満足気な笑みを浮かべテーブルに持ってくる。


 今日は家で食べると息巻いていただけに、なんだかわかばのテンションが高い。コチラを期待に満ちた目で見つめている

 蕎麦をみてみると肉の味がしみ出したつゆの香りもあり美味しそうではある。俺は『頂きます』と一言いって蕎麦を食べてみるとツルっとした麺で味も美味しかった。


「旨い!」


 俺の言葉に、わかばの顔はパァ~と輝く。


「でしょ、この蕎麦、お義母さんから頂いた残りの一箱なの! 実は」


 わかばは誇らしげにそんな事を言ってくる。


「え? アレと同じなの?」


 大きく頷き、わかばはドヤ顔でニヤリとする。


「乾燥蕎麦を茹でるにはコツがあってね。予め乾燥麺を水に浸しておいて生麺に近づけてから茹でるとツルツル感を取り戻せる秘技を知ってね、試してみたの」


 そう言った後に、自分でも蕎麦を食べ満足そうにニコニコする。

 たかが蕎麦。そこにココまで頑張れるわかばって凄いな。と改めて感心してしまった。



 ※   ※   ※


 結構、乾燥の蕎麦を年末に茹でてイマイチだと思った方は多いのではないでしょうか?

 生蕎麦と違ってどうしてもポソポソした感触になってしまうのは仕方がない事ではあります。それも予め五分程乾燥蕎麦を水に浸してから茹でる事でかなり改善されます。皆様も良かったらお試し下さい。


2013年1月1日 23時にこの同じカップルの物語を、この『零距離恋愛』において『元気が出るマグロ』というサブタイトルで公開いたします。

少しR15の内容となっていますが、それでも大丈夫な方のみ良かったらどうぞ。

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