上手な着ぐるみマスコットとの付き合い方(鈴木(賢治・香織)家)《みんな欠けているシリーズ》
良い子は、この薫の言う方法で、アプローチはしないで下さい。鈴木薫は、近距離恋愛に少しだけ登場する、月ちゃんの親友です。
この物語は『ピースが足りない』の物語の続編な為に、この物語だけではこの四人の関係が判り辛いかもしれません。
でも、素直にラブラブ夫婦とその娘と仲良しの友人が出かけている所と思って頂けたら大丈夫です。
ショッピングモールの中を桃色のクマだかネコだかよく分からない着ぐるみがフヨフヨと歩いている。目は離れていてどこか虚ろに見える顔、洋なしのように膨らんだ身体は安普請なのか、使い込んだためか、フォルム全体に張りがない。そこから生えた短すぎる手足がさらに微妙なものにしている。造形的にどうかと思うのだが子供のツボには填るらしく、すでに四・五人の子供に囲まれていた。3歳になる娘も目を輝かせてその謎の生物に向かって走っていく。何故か一緒にいた鈴木薫も同じように嬉しそうに娘の後を追いかける。
今日は妻の香織と娘と友人である薫と四人で先月出来たばかりのショッピングモールに来ていた。彼女の就職祝いをかねてレストランで食事する事にしたからだ。元々は妻の親友だった彼女だが、気が付けば俺達夫婦にとって最も近い他人となっていた。いや、家族の一人となっていた。
二人の本当の妹であるかのように妻と笑い合い、娘とじゃれあう。娘はもう一人のママと思っているようで懐いている。そして彼女がふざけて俺達の事を「お兄ちゃん、お姉ちゃん」と呼ぶ事でまた不思議な関係になっている。何とも照れくさく、くすぐったくなるような気持ちになるが嫌ではなかった。
香織は無邪気な娘と薫の様子を微笑ましそうにクスクス笑いながら見ている。俺もあまりにも自然に子供の集団にいる薫に苦笑しつつ、娘を見守る為に近付いく。
出遅れた為に、背後から迫るしかなかった娘は遠慮がちにそのドデーンとしたマスコットのお尻をポンポンと叩く。しかしそこに神経があるわけもなくマスコットは娘に気付いてくれずに前にいる子供にだけ愛想を振りまいている。
「ルーちゃん、駄目だよ! こういった子らはね神経鈍感だから、めり込ませて中身まで掴むくらいつよ~く握りしめないと!!」
薫は、マスコットに振り向いてもらえず寂しそうな娘にそんな事を力説しているのに、俺は苦笑するしかない。
「中身?」
娘はキョトンとした顔で、薫を見上げる。
「そ、ギュウっとめり込むまで手を突っ込んで中の肉を握るの!!」
その会話をマスコットと近くにいた補助員が聞いていたようだ。補助員がマスコットに慌てて声かける
「ほら、ぷらネコちゃん、後ろにもお友達が!!」
マスコットらしくない、機敏さで『ぷらネコちゃん』は振りかえり。娘に愛想良く挨拶してくる。嬉しそうに『ぷらネコちゃん』と遊ぶ娘を鈴木薫がスマフォで撮影し無事楽しい交流が終わったようだ。
満足気な顔で戻ってくる娘と薫。二十以上歳が離れている筈なのに、なんで同じように無邪気な笑みを浮かべているのだろうか? と俺は思う。
「薫さん、変な事娘に教えないでくれ……」
そう注意する俺に、何処が? という感じで薫は顔を傾ける。
「だって、アイツら表皮に神経ないんだもの! そうでもしなきゃ気付かないって!」
『ヒョウヒって何?』と聞く娘に、香織は苦笑しながらしゃがみ娘の頭を優しく撫でる。
「あのね、ルーちゃん、そんなギュウっとしたら痛くて可哀想でしょ? 大声で『コンニチハー』って挨拶したらいいから」
優しく言い聞かせる香織の言葉に『分かった!』と良い子に返事する娘をみて少しホッとする。
「元気なのは良いけれど、乱暴者にはしたくないのだろ?」
そっと、薫にコッソリそう話しかけると、此方も納得したように頷きニカリと笑う。
「分かった!」
見た目はクールビューティーなのに、薫の中味は大ざっぱで能天気。女の子としてどうかと思う所か多い。お淑やかな妻といるから余計にそう感じるのかもしれない。
「ルーちゃん、アッチでお菓子配ってるよ、出遅れたら大変! ブーンと行くよ!」
薫は娘を器用に片手抱き上げて、そちらに走っていく。
「タイヘン、タイヘン、ブ~ン!」
娘はキャッキャと笑っいながら、いつもより高い視野で動いていく景色を楽しんでいるようだ。薫は、妻と違って娘とアクティブに遊ぶので彼女と合った後は、高い高いや抱っこといった要求が娘から増えるのが少し困った所。俺がいるときはいいが、小柄で非力な妻にはかなり大変そうだ。
しかしこうして三歳児の娘と一緒に無邪気に遊んでいる姿を見ると、妙な錯覚を覚える。
「俺達って、娘二人もいたか? 知らない内にやんちゃな姉が増えてないか?」
香織がフフフフと笑う。
「今日は上の娘が立派に育ったお祝いの日と言うことね、感慨深い筈ね!」
香織は悪戯っぽくそんな事言ってくる。香織は優しいだけに、娘にも薫にも甘い。薫のその快活さは好ましい所ではあるが、社会人となればガザつさは直すべきだろう。この大きい娘にも、もう少し女性らしさというのを教えていかないとな、と俺は溜息をつく。そんな大きい娘がいるとなると、なんか凄く老けた気がした。
此方は『ピースが足りない』
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の主役三人のその後の物語です。最初から夫婦であった主人公賢治と香織の零距離というより、この夫婦と薫との距離が零距離になったという感じですね。