表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朱鷺の夢  作者: 藤原建武
止風域、蓮華座に見る夢
8/8

END

 窓ガラスに映る、自分の姿。それは「佑月カンナ」だろうか。

 カンナは笑っていない。どんなことがあっても泣かないのに。

 洋子は泣けない。なぜか涙が出なかった。

 心の中にぽっかりと、穴が空いているような感覚がした。

 感情を殺すのには慣れていた。どんな感情も、すぐに消せる。

 しかし今、心を占めているのは無感ではなく、色濃い感情が、他を押しやっているのだ。

 背中で、ひっきりなしに携帯電話が鳴っていた。洋子は振り返りさえしない。

 心の中の無風地帯。その周りでは、嵐のような感情が吹き荒れている。

 何を祈ってここに来たのだろう。いつから間違えてしまったのか。今からやり直しはきくだろうか。

 心は穏やかだ。鼓動さえも静か。もう動揺はない。思考が明晰だからだ。

 この世界に一人だけ。

 鷹はつがいが死ぬと、あとを追うという。決して次の雌を探さない。一生つがいでいる。人間なんかよりも、よっぽど情が深いのだ。

 最後のトキは、自ら命を絶った。

 自殺をするのは人間だけだと思っていた。

 だけど、孤独という苦しみから逃れようとして、必死にもがいた結果が、死だったとするのなら。自殺をするのが人間だけなのは、それは仕方を知っているからだ。悲しみや苦しみから逃れる手段、鳥は激情のうちに知るというのなら、そこに本質があるのかもしれない。

 自ら死を選ぶということは、苦しみから逃れる、結果にすぎない。

 ガラスに映る、洋子が笑った。

「ごめんね、ありがとう」

 最後のトキは、扉の向こうに亡霊を見たのかもしれない。自分の形によく似た。それは絶望に、よく似た色をしていた。

 亡霊の姿が消える。高層の、強い風が吹いていた。

 暗い夜の中に、きらびやかな地上の星々。祈りをこめた。

 今度は、綺麗な花になりたい。



 飼い殺された雛鳥の、淡い夢。

 光を知らない盲目。それでも幸福は知っている。

 蓮の花に願う。

 朱鷺の夢。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ