4 スキルレベル
腹が鳴った。
音にしては小さかったが、この森じゃ十分うるさい気がして、反射で呼吸を止めた。
……静かだ。俺以外は何も反応しない。
空腹は厄介だ。
判断が遅れる。慎重さが削れる。削れた分だけ死に近づく。
だから、俺はもう「食えるかどうか分からない木の実」を片っ端から試すのをやめた。
鑑定眼があるとはいえ、誤差がある。腹を壊すのは自殺だ。
必要なのは、確実性。
狩りだ。
だが狩りにも優先順位がある。
獲物を狩っても、その場で食えば匂いが残る。血の匂いは呼ぶ。
火を焚けば光と煙で呼ぶ。
つまり――食事は「食える」だけじゃ足りない。「食って生き残れる」必要がある。
まずは獲物を選ぶ。
斥候を出す余裕はある。だが創生容量(C)は潤沢じゃない。
鼠を出すなら短時間、一体だけ。情報を抱え込みすぎれば帯域が焼ける。
自分
HP 10/10
攻 2 防 2 敏 3
創生容量(C) 5/7
帯域(B) 余裕:低
帯域が低いなら、不確定な戦闘は事故る。
事故は死に繋がる。
――先に確定する。
俺は槍を作らない。先に鼠だ。
戦闘の直前に槍を作ればいい。今は情報。
鼠型を一体、生成した。影が滲み、足元に小さな黒い個体が現れる。
対象:鼠型(生成)
HP 4/4
攻 1 防 1 敏 6
特性:夜目
危険度:低 誤差:低
所属:生成 生成補正:+0
命令は短く。
――近くを見ろ。敵の数だけ。戻れ。
鼠が走り出す。
頭の中に粗い情報が流れ込む。音、匂い、輪郭。
右:単独。小型。
左:複数。距離近い。
前:気配薄い。
右の単独。これだ。
鼠を戻し、即座に消す。頭が軽くなる。
この切り替えが遅れると判断が鈍る。俺はそれを許せない。
次に槍。
短槍を生成する。腹の奥の熱が削られる感覚。
自分
創生容量(C) 4/7
……失敗したら次がない。だから失敗しない。
俺は風下から回り込み、音を殺して距離を詰めた。
獲物は黒い狸に似た魔物だった。目が小さく、動きが忙しい。地面を掘り返し、何かを探っている。
対象:狸型小魔
HP 11/11
攻 4 防 2 敏 4
特性:嗅覚
危険度:中 誤差:低
敏捷は俺より上。
問題は嗅覚。風向きが変われば一発でバレる。
なら、長く待たない。
“待ち伏せ”じゃなく、“先手”。
俺は地形を選ぶ。倒木と岩の隙間。動線が狭い場所。
狭ければ回避幅が減る。逃げ道も限定できる。
距離を詰める。
五歩。四歩。三歩。
風が僅かに揺れた。
――バレる。
俺は迷わず踏み込んだ。
短槍を低く突き出す。
狸型が横に跳ねる。速い。だが狭い。跳べる幅が足りない。
槍先が肩口を掠めた。血が出る。
魔物が甲高い声を上げ、逃げようとする。
逃げる個体を追うのは危険だ。追えば音が出る。別の何かを呼ぶ。
だから追わない。逃げ道を潰す。
俺は一歩、進路に入った。相手の体重移動を読んで角度を奪う。
二撃目。今度は深く刺す。
刺さった。
魔物が暴れる。柄を叩く。
俺は引かない。引けば抜ける。抜ければ噛まれる。
押し込む。体重を乗せる。
相手の動きが鈍る。足が滑る。
数秒の抵抗のあと、狸型は震え、やがて動かなくなった。
表示が浮かぶ。
《討伐:経験値 +2》
《魔物生成 熟練 +2》
《経験値:4》
……伸びが違う。
危険度は同じ“中”。
でもHPが高い。特性もある。評価軸が複数あるか、個体差がある。
今は理由を詰めなくていい。
事実だけ拾う。――強い獲物ほど伸びる可能性が高い。
問題は次だ。
食うか。捨てるか。
空腹は深い。だが、その場で食えば死ぬ確率が上がる。
匂いも、音も、時間も増える。
だから折衷にする。
俺は腹を裂かない。内臓は危険だ。毒や寄生もあり得る。
鑑定眼で肉を見ても、誤差がある。信じ切れない。
必要なのは、最低限。
俺は腿の肉だけを薄く切り取った。匂いが出にくいよう、血を土に擦り付けて落とす。
そして死体は、その場に置かない。寝床から離れた方へ引きずる。
匂いの筋を散らす。
完全じゃない。だが俺が“一直線に追跡される”確率は下がる。
食べるのは、さらに離れた場所だ。
沢の近く、風の抜ける岩陰に移動し、切り取った肉を口に入れる。
生だ。気持ち悪い。だが火は使わない。使えば目立つ。
噛む。ゆっくり。
身体の反応を見ながら、必要な分だけ。
……吐き気はある。
でも、腹の底の焦りが薄れる。視界が少しだけクリアになる。
生き残るための摂取。
それ以上でも、それ以下でもない。
俺は残りを捨てた。持ち運ぶ量を増やすと匂いが増える。
効率が上がるようで、死の確率が上がる。割に合わない。
岩の隙間の寝床へ戻る。
今日は成功した。
成功した日に欲張ると死ぬ。ここで止める。
鑑定眼でスキル表示を開いた。
《魔物生成 Lv1》
《熟練:5/5》
……満ちてる。
腹の奥が熱を持った。
次の瞬間、その熱が内側を押し広げる。胸の奥まで空間が増えたみたいな感覚。痛みはない。けれど、確実に“器”が変わった。
《魔物生成 Lv2》
反射で、自分を鑑定する。
自分
HP 10/10
攻 2 防 2 敏 3
創生容量(C) 4/9
帯域(B) 余裕:低
最大が増えてる。
数が増える余地ができた。
……なら、やることは一つ。
狩れる相手だけを狩る。
死なない範囲で積む。
それだけが、ここで生きる方法だ。
俺は目を閉じた。
眠りが浅くてもいい。休息で創生容量(C)が戻るなら、それで回る。




