3 気配
目が覚めた瞬間、まず喉の渇きが来た。
次に腹。最後に、空気の重さ。
……昨日より湿ってる。
森は同じに見えるのに、皮膚の上に薄い膜が貼り付く感覚がある。嫌な濡れ方だ。雨じゃない。
立ち上がる。身体が軽いとは言えない。
それでも、昨日より“動ける”。理由は分かっている。
俺は鑑定眼を開いた。
自分
HP 10/10
攻 1 防 1 敏 2
魔物生成 Lv2
創生容量(C) 6/6
魔物複写 Lv1
複写枠:1/1
鑑定眼 Lv1
帯域(B) 余裕:低
数字が出るだけで、判断が速くなる。
体感じゃ誤魔化せるが、数字は誤魔化せない。
昨日の狩りでクリエイトが上がった。
創生容量が増えた。――つまり、できることが増える。
でも、本体は弱いまま。
結局、俺が強くなるんじゃない。使う手が増えるだけだ。
まず水。
沢へ向かう途中、地面の違和感に気づいた。
落ち葉の上に、細い線。何本か。規則的に。
蔓? 違う。繊維がほどけた跡だ。
縄……に見える。
俺は立ち止まり、指先で拾い上げる。
乾いていて、少しだけ油の匂いがする。
……動物じゃない。
森に“誰か”がいる可能性。
可能性だけで十分だ。俺は不要なリスクを増やしたくない。
人間がいるなら、なおさらだ。
個体としてどうこうじゃない。集団がある。集団の強さは、俺の今の弱さと噛み合わない。
だから――今は、目立たない。
狩りも静かに、短く、確実に。
沢に着き、口をつけた。
冷たい。生き返る感覚がある。
水を飲みながら、鑑定眼。
対象:流水
飲用可(中)
危険度:低 誤差:低
よし。
俺は水場を離れる。長居はしない。
匂いと足跡は残る。残せば寄る。
狩りは、単独の小魔だけ。
創生容量(C)を意識する。
出し過ぎれば帯域が詰まる。詰まれば判断が鈍る。鈍れば死ぬ。
俺は影から、牙狐を一体だけ作った。
小さい。鋭い。だが重くない。
――周囲。匂い。戻れ。
牙狐が走る。
繋がっている感覚が頭の後ろに貼り付く。これが帯域の負荷か。
数十秒で戻ってきた。
近い。単独。弱い。
俺は獲物の位置へ回り込み、倒木の影に伏せた。
見えたのは、背中が低い四足。牙は短い。
対象:岩鼠狼(小魔)
HP 6/6
攻 3 防 1 敏 5
危険度:低 誤差:低
敏捷5。
俺より速い。正面から追えば逃げられる。
だから、追わない。
牙狐に意図。
――右。回れ。
俺は左から石を投げた。
大きな音はいらない。視線をずらすだけ。
岩鼠狼が反射で左を向く。
その瞬間、右から牙狐が体当たりした。
倒れる。
起き上がろうとする。そこへ俺が短い槍を“置く”。
刺さった。浅いが十分。
岩鼠狼の動きが止まり、痙攣して終わった。
《討伐:経験値 +2》
《魔物生成 熟練 +2》
《鑑定眼 熟練 +1》
小さい。だが、積むしかない。
俺は死体を引きずって草の陰へ移し、匂いを散らすために土を被せた。
食べる分だけ切り取り、残りは置かない。置けば呼ぶ。
歩きながら、森の“圧”をまた感じた。
さっきより、少しだけ湿っている。
霧が出ているわけじゃないのに、空気が皮膚を撫でる。
嫌な気配。
俺は目線を上げた。
木々の向こう、遠くの方が白っぽい。境目みたいに。
……近づく必要はない。
今は弱い。
弱さ=死。
強くなるには効率。効率には安全。安全には循環。
循環を回す。
狩る。休む。戻す。
それだけだ。
俺は次の獲物を探しながら、さっき拾った縄の繊維を指で擦った。




