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魔物転生——最弱ですが魔物生成で効率的に生き延びます  作者: 小麦
転生

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11/15

11 追手

逃げ切るだけじゃ終わらない。

追えなくしないと、終わらない。


相手は森に慣れている。

足跡の読み方も、匂いの追い方も、俺より“仕事”だ。


だから勝ち方を変える。


勝つ=倒す、じゃない。

勝つ=追う手を失わせる、だ。


俺は走りながら地形を探した。

平地は不利。数が効く。弓が効く。網が効く。


必要なのは、隊列が崩れる場所。

足が取られる場所。

見通しが切れる場所。


沢の音が近い。


水音は味方になる。

匂いも、足音も、会話も薄める。


俺は沢へ突っ込むんじゃなく、沢を横切る方向へ切った。

ここに沿って走れば追われる。横切れば、追跡の線が切れる。


担架が揺れる。

リシアは声を出さない。呼吸だけが薄く布を震わせる。


……生きろ。


俺は自分の残量を確認した。


自分

創生容量(C) 10/18

帯域(B) 余裕:中(消耗)


まだ使える。

ただし長くは繋げない。帯域が詰まれば判断が鈍る。


短時間。分断。脱出。


それだけ。


俺は鼠を三体生成した。

小さい。弱い。だが“音”は作れる。


――右。派手に走れ。落ち葉を散らせ。

――左。枝を折れ。

――後ろ。水辺を走れ。匂いを残せ。


鼠が散る。

森が騒ぐ。


すぐに追手の声が乱れた。


「動いた!」

「どっちだ!」

「……分かれてるぞ!」


割れた。


割れたなら、個体の強さが露になる。

人間は集団が強い。集団が割れれば弱い。


俺は沢を越え、苔の多い斜面へ入った。

滑る。足場が悪い。隊列が崩れる。


担架は引きずらない。引きずれば擦過音で位置が割れる。

だから担ぐ。


肩に痛みが走る。腕が痺れる。

だが速度は落とさない。


斜面の途中、倒木の影に担架を滑り込ませた。

弓の線を切る。視線の線も切る。


リシアの目が半開きになった。焦点は合っていない。

それでも、俺の声は聞こえている。


俺は短く言った。


「動くな。息だけ」


リシアは頷けない。

代わりに唇を噛んで、音を殺す。


足音が近い。二つ。

早い。割れた中でも、こっちは慣れてる。


俺は影から、縄を数本。杭を二本。板を一枚。

武器じゃない。殺すためじゃない。


追えなくするためだ。


縄を苔の上に置く。

根に絡ませ、踏めば足首が取られる角度にする。


杭は斜面の下側に斜めに打つ。

踏めば膝が折れる高さ。


板は倒木の影――担架の前に伏せる。

盾じゃない。線を切るための板だ。


来た。


先に出たのは刃物の男。革鎧、短剣。

視線が一瞬、倒木の影を探す。囮を探している。


俺を見つけた瞬間、口角が上がった。


「……いたぞ」


次の瞬間、男が踏み込む。

そして足が取られた。


縄が跳ね、足首が絡まる。

苔で滑り、転ぶ。短剣が地面を叩く。


「っ……!」


男が立ち上がろうとする。だが苔が味方しない。

転んだ人間は、森では遅い。


少し遅れて弓の男。

斜面の下から矢を番える。狙いは俺じゃない。倒木の影。


リシア。


俺は板を少しだけ起こした。

矢の線を切る。


矢が板に刺さり、乾いた音がした。


弓の男が舌打ちして位置を変える。

その一歩が、杭を踏んだ。


足が滑り、膝が折れる。

弓が落ちる。


「くそっ……!」


ここだ。


俺は牙狐を一体だけ生成した。

短時間で終わらせる。帯域を重くしない。


――弓の男。顔。怖がらせろ。噛むな。


牙狐が跳び、視界へ飛び込む。

弓の男が反射で腕を上げ、さらに体勢を崩す。


刃物の男は縄をほどこうとする。

だが指が濡れた苔で滑り、うまくいかない。


俺は距離を取ったまま、影で縄をもう一本作った。

刃物の男の手首に絡ませ、短剣を拾わせない。


殺さない。

脚も折らない。

でも追えない。


弓の男にも縄を投げ、根に絡ませた。

立ち上がっても、数歩で転ぶ。


俺は牙狐を戻す。

これ以上繋げれば、俺の判断が鈍る。


刃物の男が呻きながら叫ぶ。


「……化けもんが……!」


弓の男が唾を吐く。


「囮はどこだ! 返せ!」


返せ。

この場に正義はない。取引と回収だけだ。


俺は槍を作らない。

刺せば終わる距離だが、刺せば“終わらない”未来が来る。


俺は淡々と言った。


「追うな」


言葉は脅しじゃない。条件提示だ。

追えば、次はもっと重い手で止める。


二人は歯を食いしばった。

でも、追える状態じゃない。ここで無理に追えばさらに怪我をする。


俺は倒木の影へ戻り、担架を掴んだ。


リシアは震えている。

恐怖と寒さ。どちらでもいい。生きているなら。


俺は走り出す。


背後で怒号が聞こえた。


「戻れ! 網を持ってこい!」

「次は火だ、逃げ道を焼け!」


……学ぶ。


追えなくしても、相手は諦めない。

次は捕獲の手が増える。手段が増える。数も増える。


つまり、これからは――

追いかけっこじゃなくなる。


俺は走りながら、自分に言い聞かせた。


人間は集団で強い。

今正面から戦うのは悪手。

俺はまだ弱い。

弱さ=死。


そして、担架の上の重さを、もう一度だけ意識から外した。


今は――生き残る。

生き残って、次に備える。

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