表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物転生——最弱ですが魔物生成で効率的に生き延びます  作者: 小麦
転生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/15

10 人間

担架は軽い。

軽いのに、腕が重い。


荷物が増えたからじゃない。

選択肢が減ったからだ。


リシアは息をしている。だが浅い。

歩けない。喋れない。たまに指が布を掴み直すだけ。


――生きたい、って意思だけは残ってる。


だから運ぶ。

運ぶと決めた以上、次に考えるのは「どう生き残るか」だ。


裂牙熊を倒した場所から離れる。

血は呼ぶ。魔物も、人間も。


俺は風下を維持しつつ、根の上を渡った。

柔らかい地面は踏まない。足跡が残る。

落ち葉の厚い場所は避ける。音が出る。


それでも、背後で乾いた擦過音がした。


金属が葉を踏む音。

獣じゃない。人間だ。


……来たか。


俺は止まらない。止まれば包まれる。

走らない。走れば音が増える。

歩幅だけを詰め、呼吸を殺す。


耳を澄ませる。


複数。

足の揃い方が雑だ。軍じゃない。

だが慣れている。森に慣れている。


声が聞こえた。


「……熊の血、まだ新しいぞ」


別の声。


「派手にやったな。――囮は?」


囮。


リシアのことだ。

やっぱり、あいつらは“救う”気なんてない。


俺は歯を食いしばった。

怒りは判断を遅らせる。だから捨てる。捨てて、次。


まず、匂いと足跡を散らす。


沢は避ける。匂いが集まる。待ち伏せにも向く。

代わりに、風の通る尾根へ上がる。匂いを散らす。


担架の紐が掌に食い込み、皮が擦れる。

痛い。だが痛みは情報だ。まだ動ける。


背後の声が近づく。


「足跡、運んでるな」

「生きてりゃ上出来だ。回収して帰るぞ。縄と杭は全部持ってけ」


回収。

道具の回収。証拠の回収。――人の回収。


リシアは物だ。


俺の中で、合理が暴れる。


ここで捨てれば、生存率は上がる。


……捨てない。


捨てないなら、やることは一つ。

追う価値を下げるか、追える状況を壊す。


俺は地形を選んだ。

倒木が多い斜面。見通しが悪い。隊列が崩れる。


だが、相手も学習している。


前方に影が立った。


背の低い男。革の鎧。手に短弓。

こいつ、回り込んで待っていた。


目が合った瞬間、男の顔が変わる。

驚きじゃない。理解だ。


「……は?」


次に来たのは嫌悪。


「人、じゃねえ……?」


俺は鑑定眼を開きたい衝動を抑えた。

今やると情報に溺れる。まず距離。


男が弓を上げた。狙いは俺じゃない。担架。

リシア。


最悪。


俺は短槍を作らない。作る一瞬で終わる。

代わりに、影で薄い“板”を生成して担架に被せた。


矢が板に当たり、甲高い音を立てて逸れた。


男が舌打ちし、次の矢を番える。


「それ、返せ」


声が軽い。人の命に重さがない声。


「こっちは金払って“借りて”んだよ。囮役は高ぇんだ」


借りてる。

背後に取引がある。組織がある。


この場で殺すのは簡単だ。

でも殺せば、集団が“確定”で俺を潰しに来る。

今の俺はそれを受けられない。


だから、折る。


俺は牙狐を一体だけ生成した。

短時間で終わらせる。帯域を重くしない。


――脚。噛むな。体当たり。


牙狐が跳び、男の膝へ体重をぶつけた。

男が体勢を崩し、矢が地面に刺さる。


俺はその隙に担架を木の陰へ滑り込ませた。

視線を切る。狙いを失わせる。


男が怒鳴る。


「出てこい!」


背後から足音が増える。

仲間が来る。囲まれる。――時間がない。


俺は影で縄を作り、地面を這わせた。

根に絡ませ、男の足首を取る。


男が転ぶ。


「くそっ……!」


俺は槍を作らない。

代わりに、落ち葉を蹴り上げて視界を潰し、牙狐を“顔”へ跳ばせた。


――怖がらせろ。噛むな。


牙狐が視界に飛び込み、男が反射で腕を上げる。

弓が落ちる。


その瞬間、俺は男の背後に回らず、距離を取ったまま言った。


「追うな」


男が唾を吐いた。


「化けもんが……!」


その言葉を無視する。

反応した瞬間、心が動く。心が動けば判断が遅れる。


足音が迫る。三人以上。

今ここで戦えば長引く。長引けば終わる。


俺は牙狐を消し、担架を掴んだ。


走る。

今だけは走る。音より距離が優先だ。


枝が割れ、怒号が飛ぶ。


「こっちだ!」

「囮を持ってかれたぞ!」

「逃がすな、回収だ!」


回収が目的なら、諦めない。

つまり――追跡は続く。


俺は走りながら、自分の残量を見る。


自分

創生容量(C) 10/18

帯域(B) 余裕:中(消耗)


半分。


まだ戦える。

でも守る対象がいる。守りながら戦うのは単純に難易度が跳ねる。


担架の上で、リシアの唇が震えた。

薄い声が漏れる。


「……また……つれて……いかれる……?」


俺は答えなかった。

答えるより、行動で示す方が早い。


追手の声がさらに近づく。


次は――逃げ切るだけじゃ足りない。

追えなくする必要がある。


そしてそれは、いずれ――

人間と真正面から噛み合うってことでもあった。

ここまで読んで頂きありがとうございます!

毎日1話以上は投稿できるよう頑張るのでブックマーク、評価、感想等お願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ