第12章 爪牙の誓いⅢ~ 猛る獣人
ノビリスは一歩近づくと、短剣のような爪を一本むき出しにした。
そして、おもむろにゼイロスの右肩へ深々と突き刺した。
「痴れ者の獣人兵め。なぜ陛下と呼んだ。帝国において陛下はレヴィ・ハジェル陛下ただお一人だ」
ゼイロスは苦痛などものともせず、真っすぐにノビリスを見上げた。
~本文より
「よくもおめおめとその顔を出せたものだ。ゼイロス……」
ゼイロスは、左右を大地熊獣人兵に挟まれ、手錠と首枷、足枷をかけられ、能力を阻害する封印式が刻まれた鎖で縛りあげられていた。
臨時の総司令となったノビリスの前に、囚人として据えられている。
ノビリスの迫力は以前にもまして、強く激しくなっている。
金色の瞳。金色の体毛。
何より、その身から発せられる魔力波の圧力。
仮に捕らわれの身でなくても、刃向かうどころか逃げ出すことも不可能だろう。
覚醒の引き金は、まぎれもなく王の死だ。
「言い訳はしない。俺は閣下いや陛下と共に在った。そして、陛下の死とその死が汚され踏みにじられることすら、止められなかった」
「黙れっ」
脇に控えていた大地熊獣人兵が、その頬を殴りつけた。
乾いた音と共に、ゼイロスの血が床に飛び散る。
ゼイロスは痛がることはなく、怒るわけでもなくただ真っすぐにノビリスを見つめた。
もう一人の大地熊獣人兵が、ゼイロスを押さえつけ跪かせる。
「貴様は、赤の宰相殺害の重要参考人だ。閣下の許可なく喋るな」
以前のように怒気を身体中から噴き上げているノビリスではあったが、不思議と今、恐れはなかった。
共に崇敬していた王狼ロドの死を悼む、同胞だからかもしれない。
「お前は今、陛下と言った。なぜだ? お前は帝国獣人兵だろう?」
ノビリスは一歩近づくと、短剣のような爪を一本むき出しにした。
そして、おもむろにゼイロスの右肩へ深々と突き刺した。
「痴れ者の獣人兵め。なぜ陛下と呼んだ。帝国において陛下はレヴィ・ハジェル陛下ただお一人だ」
ゼイロスは苦痛などものともせず、真っすぐにノビリスを見上げた。
「副官、いや今は閣下だったな。貴女こそが、そんなこと露ほども思っていないだろ?」
ノビリスは爪をねじ込み、さらなる苦痛をゼイロスに与えた。
「貴様に何がわかるというのだ? 役立たずの猫族がっ」
ゼイロスは苦痛に顔を歪めながらも、視線は一切落としていない。
「ああ、俺は役立たずだ。陛下を死なせてしまった。死んでもなおその死を汚されるのを止められなかった。だからこそ、今ここにいる」
澱みのない眼で、ゼイロスはノビリスに伝えた。
「ロド陛下は、最後の最後まで誇り高き王だった。それを伝えたかった。そして何より、王を誰よりも慕っていた貴女の手で、裁いてほしかったからだ」
「貴様風情が、私の気持ちを推し量るなぁっ」
ノビリスが爪の全てをひけらかし、激しく振り下ろした。
手錠と首枷が断ち切られ、封印の鎖が弾け飛ぶ。
「貴様は許さない。簡単に死ぬことすら許さない。お前の命はロド様のものだ」
ノビリスは踵を返し、背中越しに獣人兵に伝えた。
「足枷も解いてやれ」
「はっ」
大地熊獣人兵は爪を振るって足枷を破壊して解いた。
ノビリスは背中を向けたまま、ゼイロスに命を下した。
「貴様に帝国の首輪がないのは、死んだことにしているからだ。信号は偽装している」
「……そうか。そういうことか……」
「仇は討つ。必ずだ。そして、獣人種の真なる誇りを取り戻す戦いを始める。我らなりの陰に潜む戦いを。ロド様のお望みの通りになるように。お前はそのための手駒だ。分かったか?」
「ああ……陛下の為になら何でもする」
ゼイロスは血の滴る肩を抑えながら、ノビリスの背中に語り掛けた。
「一つだけ条件がある。俺の命は貴女に、閣下に捧げる。そのかわり、幽霊猫族のセリオって奴がいる。奴は巻き込まないでやってくれ。魔眼部隊の報奨金の全てを奴に渡して……田舎で暮らせるように取り計らってくれ。頼む」
ノビリスは背中を向けたまま、返事を返した。
「貴様の言葉など聞く必要もないが、ロド様ならそうしただろう。最初で最後の願い、聞いてやる。これから貴様は、息をするにも私の許可をとれ。いいな?」
ゼイロスは片膝をついて、臣下の礼をとった。
「はっ、この命いかようにでも。閣下の命に従います」
次回、策謀が獣人と帝国を巻き込んで大きなうねりとなります。
ここまで読んでいただき有難うございます。
お目に書かれて嬉しい限りです。
いろいろと頑張りますので、また是非ご一読ください。




