第11章 星が堕ちる日Ⅹ ~ 死してなお誇り高き王、その名をロド
ゼイロスは見上げてため息をついた。
「うっかりしなくても死ぬだろうな。自己犠牲は柄じゃないんだが、お前だけは生かしておけない」
王は、もう一人ではない。一人にはさせない。
「お供いたします。ロド陛下」
~本文より
辺りにいくつもの魔法陣が浮かび、その魔法陣から紫色の炎の花が、呪いの歌を歌いあげる。
オルクスはアシュラムの力で、歌の力を弱め、ルミナリスは地面に片手を付きながら、エーテルによる守りの風を生み出し、昏倒しているルルリア共々、すっぽりと包み込み、守っていた。
——警告。エーテルの噴出調整により、稼働時間がさらに削減。残り半刻で稼働停止。その時点で障壁は解除されます。生物の生存は赤の領域となります。
警報がルミナリスの頭の中で響く。
状況を演算領域で分析する。
問。私は……魔導機兵……。魂核反響兵器の影響ヲ遮断できないのはナゼか?
解。不明。全体駆動に影響大。稼働停止の前に行動不能に至る危険性、赤の領域。
問。魂核反響兵器への有効な防御法について
解。高濃度のエーテルヲ展開し、遮蔽膜を造成。出力担保は現状不能。
ルミナリスは、思考領域で方法を探した。
イザベラから皆を守る方法を。
何か——手はあるはず——
オルクスは、魂への攻撃を無効化すべく、アシュラムに語りかけていた。
(魔剣よ……宿主がこのままでは死ぬるぞ……何か力を貸さぬとじきに死ぬるぞ)
アシュラムは唸りを大きくすると、オルクスの精霊王の護符に働きかけた。
ルミナリスは、再度思考領域で考察した。
昏倒しているルルリアの表情がさらに険しく苦悶の表情にはっきりと変わった。
このままでは、生命活動を維持できない。
何か、何かがあるはず。どうにかしないと——
祈りに似た願いをルミナリスが思った、その時に体内で響くものがあった。
(……注意深く感じて……力を貸してくれるもの…・・・)
また、あの声がする。
躰の内側から響く、
柔らかく、優しく、どこか寂し気な女性の声……。
ルミナリスは、躰の奥から沸き起こる声に従い、周辺のエーテル波の微細な動きを含めて走査した。
すると、オルクスの胸元から旅の扉にも似た波動を感知した。
何かは不明だがどこかに通じている。
アシュラムもその胸元に働きかけている。
どの道打つ手はあまりない。
位相干渉、活性化魔力波照射開始。
一か八かの賭けではあるが、残り少ないエーテルを使って、異界の門が開きやすいように干渉した。
魔導機兵としての演算ではなく、ルミナリスの直感であった。
アシュラムとルミナリスの力が護符に重ねて干渉し、強い魔力波を生み出した。
オルクスの護符は、森の精霊王、生命を加護する護符だ。
その護符が異界の門を開き、一陣の風を呼び起こした。
森の大精霊、エヴェルディナが風の中に溶け込んでおり、その風はロドの頬をそっと撫でた。そして、オルクスの背後に回りオルクスを後ろから抱きしめると、空気に溶けて消えていった。
オルクスの眼が苦悶から戦う意思の光にかわり、躰から強い剣気をさらに放ち始め、再び剣を高々と掲げた。
「アシュラムっ」
そう告げた一瞬、轟音と閃光が世界を染めた。
その場にいたものが、全員、百眼を用いるルミナリスですら、知覚感知を一瞬マヒさせた。
光が止むと、歌が弱まっていた。
ロドが青い炎を噴き上げながら、刹那の隙をついて、イザベラ【アリア】の胸の赤い結晶に貫手で一撃を加えていたのだ。
表面を打ち砕き、貫手が深々と突き刺さっている。
歌は更に弱まったが、紫の焔が燃え移り、屍の獣王ロドの躰を焼き崩していく。
ロドは怯む様子もなくアリアに抱き着き、さらに深々と貫手を差し込んだ。
そして、離れた茂みの一角を振り返り、
「ぐぉおお」
と一声吼えた。まるで語り掛けるかのように。
「……最後のご命令承りました。閣下……いえ陛下」
赤い瞳を輝かせて、剣猫族の長身を音もたてず、ゼイロスが姿を現した。
右手には、アルーザの連続結晶体が握られている。
アルーザの連続結晶体は熱を帯び、光を放っていた。
今こそ使い時だと言わんばかりに。
ゼイロスは見上げてため息をついた。
「うっかりしなくても死ぬだろうな。自己犠牲は柄じゃないんだが、お前だけは生かしておけない」
王は、もう一人ではない。一人にはさせない。
「お供いたします。ロド陛下」
連続結晶体を片手に、迎撃するイザベラ【アリア】の攻撃を赤眼で見極め、素早く避けながら、ロドの傍まで駆け寄って、結晶体を叩きこむ。
「剣聖っ」
ゼイロスが叫ぶ。
「今こそ送る時だ。力を貸せっ」
「刻まれし力名は疾風、勇名は迅雷、アニハバラク」
オルクスはすぐさま雷を伴い、飛び上がるとゼイロスの持つ結晶体へ、雷霆の一撃を加える。
ルミナリスはすかさず杖を構え、オルクスとゼイロスをかばうよう防御結界を展開した。
高い金属音のような音が鋭く鳴り響き、鋭い光がイザベラ【アリア】を貫き、一瞬世界の全てが動きを止めた。
紫の焔は掻き消え、赤い光も薄まる。
鋭い光の先から、エーテルの光の玉が溢れ出し、空へ上り、樹々に、地に振り注ぐ。
魂が還っていく——
ルミナリスはそう感じていた。
屍の獣王ロドの躰は光に崩され、リミナ・マキナの機体がぽろぽろと崩れ落ちる。
その時、ロドは意思に溢れた眼差しでゼイロスをみた。
——すまぬな。後は頼む。
そう告げるかのように。
獣人種の未来、ただそれだけを信じつかみ取ろうとした、王狼ロド。
銀狼族の巨星はいまようやく眠りについた。
次回、この戦いの最期を描きます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
少しでも読んで頂けるよう頑張ります。
また是非お目にかかりたいと思います。




