第11章 星が堕ちる日Ⅷ ~ 交差する三つの理、赤と青、そして銀
それはまるで—— 赤い光でできた巨大な蜘蛛の巣のようであった。
歌が強くなり、大気が震え、魂が軋む。
「第二位相に移行。目標、周辺の魂魄生命体及び暴走魔導機械」
赤い結晶が、ドクンと鼓動する。
悲鳴のような調べのような歌が強くなり、濃くなり、森が軋んで、樹々がいきなり崩れ落ちる。
イザベラは、優雅に告げた。
「【アリア】—— 歌姫よ、歌い上げなさい。滅びの歌を」
~本文より
「これは……まだ試作段階ですが、出し惜しみはしませんわ」
森の樹々をなぎ倒し、青い光が一直線に向かってきている様子を、イザベラは捉えていた。
「脅威はまとめて排除ね。陛下、わたくしの忠誠は永遠に陛下の御許に」
イザベラ【アリア】は、ゆっくりと両腕を広げた。
背後で、赤い構造体が完全な形を取る。
巨大な輪が浮かび上がり、そこから無数の光糸が伸びる。
それはまるで—— 赤い光でできた巨大な蜘蛛の巣のようであった。
歌が強くなり、大気が震え、魂が軋む。
「第二位相に移行。目標、周辺の魂魄生命体及び暴走魔導機械」
赤い結晶が、ドクンと鼓動する。
悲鳴のような調べのような歌が強くなり、濃くなり、森が軋んで、樹々がいきなり崩れ落ちる。
イザベラは、優雅に告げた。
「【アリア】—— 歌姫よ、歌い上げなさい。滅びの歌を」
赤い歌が、再び世界を満たした。
その瞬間、銀の光が閃いた。
流星のように戦場へ落ちた光が弾け、結界が展開される。
無数の赤い針が、その結界に突き刺さり、弾け飛んだ。
「オルクス様っ、お気を付けください」
「ルミナ嬢、すまぬ」
銀の光が揺れ、ルミナリスの顔がはっきりと現れた。
アルゲントルム人特有の、透き通るような白い肌。
蒼銀に輝く長い髪が、夜の風を受けて静かに、月光を編み込んだように柔らかく輝き、たなびいている。
そして——理知の光を讃えた、海より澄み、空より深い蒼の瞳。
細く整った鼻筋に繊細な薄い唇。
ただ美しいだけではなく、その姿は、見る者の心を静かに射抜く。
イザベラの瞳が、わずかに歪んだ
「……ああ」
そして、ゆっくりと赤い瞳が愉悦に歪み、イザベラはにっこりと嬉しそうに笑った。
「貴女がルミナリスちゃんね。随分と変わったこと」
美しい。
ルミナリスを見たその瞬間、胸の奥で、赤い結晶が脈打った。
……気に入らない。
戦場に在って、その瞳には、絶望も、狂気も、歪みも、汚れもない。
まるで——涙に満ちる夜の星のようだ。
イザベラは歪んだ笑顔で語り掛けた。
「ルミナリスちゃん。貴女は何処までもわたくしを傷つけるのね」
言葉が終わるより早く、アラクノイド・ナノスが、赤い波となって地面を走り、空中を跳ね、ルミナリスへ殺到する。
「魂ごと滅びなさいな」
「させるかっ! 吹き飛べっ! 蟲ども!」
ルルリアが叫び、雷を纏った鋼球を打ち出す。
轟音と共に放たれた雷球がナノスの群れを貫き、機械の破片が四方へ飛び散った。
「気持ち悪いんだよっ」
アシュラムが閃き、ルルリアが打ち漏らしたナノスを、剣光が粉々に切り裂いた。
「そこは同意見じゃが」
オルクスが苦笑する。
「嫁入り前じゃろ? 物言いは気をつけよ」
ルミナリスが真っすぐに、ルルリアが強い決意で、オルクスが強い剣気をにじませながら、イザベラ【アリア】に視線を集中する。
「数がそろえばわたくしに勝てるとでも思って? 愚かだわ」
冷たく見下ろし、言葉を吐き捨てるイザベラに、オルクスは余裕の笑みを返した。
「ああ、思っとるよ。お主自身が既に焦っておる。ほれ」
オルクスがそう言うと。悲鳴のような歌声を切り裂いて、すさまじい獣の咆哮が轟き、大地が沈み、森が割れた。
屍となっても誇りを失わない獣王ロドが、その背に屍者の軍勢が引き連れながら、イザベラ【アリア】に怒りの咆哮を再び上げる。
青銀の焔が迸り、イザベラ【アリア】に直撃するかに見えたが、赤いナノスが魔法陣を展開し、難を逃れていた。
青銀の焔が、さらにロドの全身から噴き上がった。
神獣ルーンの激しい怒りが、唸りを上げ、大地がそれに応え、震えている。
ロドの瞳は、イザベラ【アリア】だけをとらえていた。
「これほどの存在を気づかぬとは、故障でもしたか? 帝国の兵器よ。お主はロドの魂をいじくり神獣を歪に目覚めさせたのじゃ。神々すらてこずる神獣相手に、どうするのかの?」
オルクスはイザベラを挑発しつつ、一呼吸の間を稼ぐ。
肌はひりつき、背筋に走る戦慄はいまだ止まらない。
挑発とは裏腹に、手は汗で濡れている。
オルクスはアシュラムを強く握り直した。
尋常ならざる相手であり、全力を出すだけでは足りない。
勝機を見出すために、オルクスは自分の全てを前面に出していた。
次回、この戦いの終わりを描きます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
少しでも面白く読んでもらえるよう、描いていきます。
また、お目にかかれることを願いつつ。




