第11章 星が堕ちる日Ⅶ ~ 精霊王の護符
宙に浮かぶリミナ・マキナ【アリア】が、眉を寄せた。
「……干渉? 屍の獣ね。やってくれる」
歌の波形が崩れている。
遠方より放たれた青白い閃光が、構築中の魔法陣を打ち消した。
イザベラ【アリア】の赤い結晶が、強く脈動する。
「屍の獣王……まだ残滓が動いているのね」
その瞬間。
魔法陣を構築しようとしていた右腕を、オルクスが斬り飛ばした。
~本文より
赤い歌が、乱れていた。
閃光ののち轟音が響き、空を染めていた赤い光が、途切れ、空気ごと揺らぎ、砕け散った。魔法陣も掻き消え、再構築され始める。
宙に浮かぶリミナ・マキナ【アリア】が、眉を寄せた。
「……干渉? 屍の獣ね。やってくれる」
歌の波形が崩れている。
遠方より放たれた青白い閃光が、構築中の魔法陣を打ち消した。
イザベラ【アリア】の赤い結晶が、強く脈動する。
「屍の獣王……まだ残滓が動いているのね」
その瞬間、魔法陣を構築しようとしていた右腕を、オルクスが斬り飛ばした。
切り飛ばされた腕は、小さな蟲たち『アラクノイド・ナノス』に分離するとすぐさま腕の形状に再結合した。
オルクスはその様子を見逃さず、すぐさま詠唱をかけ追い打ちをかける。
「刻まれし力名は斬影、勇名は夢幻、ミラージュ・アストラ」
詠唱と同時にオルクスの姿が揺らめき、もう一人のオルクスが同時に姿を顕した。
オルクスたちはそれぞれ違う詠唱を、それぞれの魔剣に対して行った。
「刻まれし力名は咆哮、勇名は轟雷、ライギン・アモクト」
「刻まれし力名は疾風。勇名は業焔、ヴェントゥフラメ」
雷光が渦巻き、いくつもの雷球となり、紅蓮の炎が吹き上がり炎の風となる。
二人同時に剣を投げつけた。
オルクスの姿は重なり一人になると、手のひらを重ね合わせた。
火焔と雷球が絡み合い、ひとつの奔流となる。
焔と雷が吼え、空間そのものを焼き壊しながら、イザベラ【アリア】を呑み込んだ。
イザベラ【アリア】が全体に強く赤く輝き、焔雷が一瞬にして消し去られる。
「こんなもので、わたくしをどうこう出来るとでも? 愚かにもほどがある」
イザベラは優雅な笑みを浮かべたまま、オルクスを冷たく見下ろしていた。
吐き捨てるイザベラ【アリア】に、オルクスは不敵に笑う。
「そうでもなさそうじゃぞ。魂食いの化け物よ」
イザベラ【アリア】の胸にある、被膜に覆われた魔導結晶体に、微かな亀裂が走った。
その奥から、別の光が滲む。
「……なるほど」
傷を見て、イザベラ【アリア】が、妖しく恐ろしく微笑む。
「これが英雄の理の力ね。流石だわ。前言を撤回するわね……でも」
赤い結晶が、さらに強く輝き、放たれた光が、収束する。
調べのような、悲鳴のような歌が重なり、さらに強くなっていく。
魂を削る歌が強まり、アシュラムがオルクスの手の中で唸り、歌を打ち消して宿主を守っていた。
「あなたもでしょうけど、わたくしも本気を出していないの」
そして、イザベラ【アリア】の背中が裂けた。
そこから、機構でもない。赤い光そのものが、翼のように広がる。
ナノスが渦を巻き、骨格のような構造を組み上げていく。
「今のわたくしは、英雄種を討滅するために作られた、様々な攻撃に耐えうるよう設計された至高の兵器。何処までも孤高で美しい陛下の御為なら、どれだけ屍を積上げ、この手がいくら血に塗れようと、それは栄誉」
陶酔したイザベラの肢体は、その中心で静かに浮かんでいた。
赤い結晶が、完全に露出する。
その奥で、もう一つの黒い光が脈打っていた。
(そうだ……辺りの生命なぞ、皆、絶やしてしまえばいい……)
ただれた甘い香りと共に、男の囁き声が黒い霧となって、イザベラ【アリア】の耳の中に吹き込まれた。
イザベラは微笑んだ。
「滅びなさい。英雄」
だが、その笑みは先ほどまでと違い、どこか意思が遠いように見える。
オルクスの瞳が細まった。
イザベラ【アリア】から、ただならない鬼気を総身で感じ取っていた。
黒の樹魔女ネメリアの時にも感じた、濃厚な呪われた死の気配だ。
「……ほう。まだ奥があるか」
オルクスは、イザベラの放つ鬼気に躰ごと吞み込まれた。
途端に心に暗い影が差す。
剣の呪いから解かれ、人として死ぬために今まで長き間、戦い続けてきた。
アシュラムは赤い光の歌に対抗するため、自分の魂を食うことはできないだろうし、アリアもまた、アシュラムの力で自分の魂を奪うまでには至らないだろう。
死ぬるには、今、まさに絶好の機会じゃ。
強敵と戦い、戦士として死ねる。
本懐は今ぞ。
(オルクス、私のオルクス。愛しい貴方……忘れてはだめ)
オルクスが首から下げている精霊王の護符から優しい風が吹き起り、オルクスを包んでいた鬼気を吹き流す。
何じゃ。何を忘れたと——
そうか、誓いか。誓いを果たしておらぬ。
ロドを送ると誓った。その遺志をロアンに伝えると誓った。
何より——ネメリアと同じ思いをするものの涙くらいは拭ってやろうと、そのために剣を振るうと、儂は儂の魂とネメリアに誓った。
アシュラムを握りながら、首から下げている護符の存在を感じていた。
気を込めて、精霊王の護符に語り掛ける。
「すまぬ。助かった。もう大丈夫じゃ」
オルクスの総身から強い剣気が発せられ、その剣気にアシュラムが反応し強く唸る。
「喝っ」
爆散した剣気が、辺りに漂っていた鬼気と、イザベラ【アリア】の周りに漂う黒い霧を吹き飛ばした。
「あら、何かわからないけど、跳ね除けましたのね。流石は守護剣聖様」
そう笑うイザベラの瞳には人間の温度が、わずかに戻っていた。
次回、戦いが激化し、全員で厄災に挑みます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
コツコツと書いていきます。
また、お目にかかれるように頑張ります。




