第11章 星が堕ちる日Ⅵ ~ アルーザとゼイロス
「……っは……はは……」
アルーザは膝をつきながらも、笑っていた。
右腕は炭化し、右わき腹が吹き飛び、再生が追いついていない。
アルーザでなければ生きていないだろう。
「悪くねぇ……久しぶりに痛みを思い出した」
~本文より
白煙がゆっくりと晴れていく。
半円状に抉れた森の、地面は溶け、空気が焦げた匂いを帯びている。
そんな中、木陰からよろめき倒れる大きな影——アルーザが姿を見せた。
「……アルーザ!」
ゼイロスが叫ぶ。
「……っは……はは……」
アルーザは膝をつきながらも、笑っていた。
右腕は炭化し、右わき腹が吹き飛び、再生が追いついていない。
アルーザでなければ生きていないだろう。
「悪くねぇ……久しぶりに痛みを思い出した」
その言葉に、ゼイロスはわずかに安堵する。
だが、生体機能を維持することができず、躰の一部が灰となり解け始めていた。
指先が崩れ、腕ごと消え去っていく。
「アルーザ……お前……」
「なあ、隊長さんよ。俺の中に魔導結晶連続体の球体がある。わかるな?」
「何だ。お前にしては珍しい。頭がようやく回るようになったのか?」
アルーザは笑った。
「ああ、頭の霧がやっと晴れたと思ったら、このざまだ。寄りにも寄ってだ」
真顔に戻るとゼイロスを見つめた。
「バケモノは二匹。でも元王狼様はここで無理して始末しなくても、いいと思うぜ」
アルーザはそう告げると立ち上がろうとして、倒れた。
灰が風に舞い、もう起き上がる力もない。
ゼイロスは少しばかり、悲しそうな眼の光を浮かべる。
「そう思った根拠は何だ?」
「俺だよ。今ここでお前と話せるのは、手加減してくれたからだ」
「何だと?」
「そして元王狼様はもう一個のやばい奴をやるつもりだろ。伝説の守護剣聖もあっちに行って、力の揺らぎみてぇなもんを感じたぞ。死んでも王狼さまだ。赤い花を空に咲かせる化け物は許せねえんだろうさ」
アルーザの躰がさらに解けて、下半身がなくなり、上半身も灰となり、風に舞い始めた。
「王狼と赤い花の化け物同士を戦わせて、お前は王狼を送りやすくなるし、うっかりすると守護剣聖の首までおまけについてくるぞ。いいことづくめじゃねえか」
もはや起き上がることもできず、大地に横たわり空を見上げている。
「自分の戦い方を忘れるな—— お前の言葉だ……返すぜ……」
頭と顔も風に解けて、灰の舞う中、魔導機械の残骸が散らばっている。
その中に、拳大の魔導連続結晶体が薄く光を放っていた。
ゼイロスが拾い上げると、脈打つように熱を帯びている。
「そうか。こんなになっても、まだやる気なんだな。流石だよ」
光る結晶体を手に、ゼイロスは立ちあがった。
もうそこにはいない魔眼部隊員に指示を出す。
「さあ、俺たちの戦いを見せてやろう」
握りしめている魔導連続結晶体が、答えるかのように光を放つ。
ゼイロスは拳大の輝く結晶体を腰に布で縛り付けると走りだし、近くに展開していた魔導機兵に自慢の剣爪を振るい、二つまとめて駆動部分を破壊し、動きを封じた。
「王よ。露払いは買って出る。強敵相手に思う存分戦ってくれ」
ゼイロスの動きなど気にすることなく、屍王ロドは、赤い光柱の方角へ向けて踏み出していた。
青銀の焔が、唸り、その背に、神獣の暴威が渦を巻く。
口を開けると、空に咲く赤い花に向かって、青白い光が一直線に飛んでいく。
視界が白い光に覆われ、やや遅れて、辺りの木々の枝葉をへし折るほどの振動をまき散らして、轟音が響いた。
赤い花は砕け散った。
屍王ロドは屍者の軍勢を引き連れて、赤い光の花の根本にいる、もう一つのリミナ・マキナ【アリア】に向かって、先ほどまでの緩慢な動きから、俊敏な動きに代わっていた。
屍者の軍勢は、額や肩、あるいは背中から青い炎を噴き上げている。
「くそっ、神獣様の力が伝染してやがる。頼むから襲ってくるなよ」
ゼイロスは赤眼でその源を見切りながら、後に続いた。
「最後には、全て美味しいところを頂く。そうするさ……なあ」
腰に揺れる結晶体へと目線を送るわけでもなく、一言語り掛け、ゼイロスは屍者の軍団に続き駆け出した。
次回、精霊王の護符 オルクスの戦いです。
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しっかりと書いていきますので、またお目にかかれるようお願いします。




