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機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき


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第2章 王都陥落Ⅰ ~機械の少女

魔導機兵ルミナリスの旅の物語がここから始まる。自身の大事な何かを思い出せぬよう封印すると、追い込まれた状況でも一つずつ解決策を積み上げて、使命を果たす。

 すべての炎は沈み、煙は黒い絹のように垂れこめ、蒼く澄んでいた空はいつしか、赤く濁っている。

 戦場の跡の重い空気がすえた匂いと共に、風もない中重く佇んでいる。

 周辺に動くもののないその静寂の中に、一人の乙女の亡骸が横たわっていた。

 史上最強と謳われた魔法使いの乙女、ソラデア・アルクス。

 その亡骸の傍らで、愛らしい少女がソラデアの手を握りしめ、実に聞き取りやすい抑揚の声で型式通りの質問をした。


「指揮官と認識。命令の内容が不明瞭です。再度の命令を要請します……再度命令を——」


 声の主は、蒼く輝く銀髪に透き通った白い肌と長い睫毛に愛らしいぱっちりとした青い眼、すっと通った鼻筋にピンク色の健康的な唇。誰もが振り返るであろう美少女だ。


 しかし、この少女は成長することは無い。

 左半身の胸から腹部迄大きく裂けた傷から覗くものは、壊れた歯車にシャフト、鉄の管といった機械ばかり。黒い液体を滴らせ、左手と左足は溶け落ちて無い。右胸から腹部に懸けても人間に似せた体表皮はすでになく、金属装甲が剥き出しになっている。

「人」の面影は無惨に剝がれ落ちた女性型魔導機兵だ。


 この青い眼の魔導機兵は、奇跡の魔法により生命を吹き込まれ、フィリアという名の美しい人間の少女の姿を得ていた。

 その顔、表情、仕草、息遣いまで、美しい少女の躰は生命の欠片も見受けられない機械の躰だった。

 その奇妙な状態の破壊された魔導機兵の少女は、無表情のまま乙女の亡骸をただ見つめ続けた。

 その時、ソラデアの手から杖が転がり落ちた。

 杖に宿っていた魔力が溢れ、光の粒子となって舞い散り、声となり繰り返す。


「……私は……貴女を護りたかったの、フィリア。お願い、生きて……幸せに——」 


 その声を一言一句刻み込むように聴き入っていた機械少女は、瞳の色を明るくすると、


「命令を受諾しました。保護対象個体名フィリアを探し出し、フィリアの生存活動が容易となるよう生活基盤を整える手助けを致します。指揮官喪失により、完全自律制御へ移行。作戦を開始します」


 大きく裂けている装甲部分から覗いている内部機構や、溶け落ちている左手左足など、自分の躰を見渡して、破損部分を丁寧に分析した。


 眼球に各制御部への伝達不能の文字が次々に浮かび上がる。


「全機能の被害状況甚大。記録領域の破損により、情報照合が危険なため漏洩防止を最優先。一部記憶域への接続を遮断。体内駆動機構は魔導核の深刻な破損で大部分が機能停止中。起動している説明不能なこの状況については、制御核に何等かの魔法が影響しているものと結論。現状の起動を維持するための一次的応急処置と機能回復のための本格的修復の二次的処置を命題とします」


 惨憺たる戦禍の光景が広がる、屍と大小様々な魔導機兵の残骸が散らばる戦場で、機械人形の少女は表情一つ変えず、目を明滅させながら周辺を走査した。


 形をとどめ破損の少ない機兵を選択、解体し、必要な部品を集める。

 倒れた魔導機兵を一体ずつ解析し、手際よく切り開き、歯車や晶石を引き抜いては内部に組み込み、接合していった。

 左手は戦闘用の重装甲、防御に特化した厚い腕。

 左足は潜入攪乱型の女性機兵から移植。


 戦場の夥しい残骸が破壊された機能を修復し、少女の顔をした機械人形の躰を形作っていく。その姿は悍ましく、まるで屍を喰らい己を繕う魔物のようであり、同時に生きようとするひたむきさが輝き崇高でもあった。


 冷徹な作業のさなか、不意に手が止まった。

 視線の先には、損傷の少ない若い王国兵士の娘の亡骸があり、その顔に魅入られたように視線を外せない。

 瞬間、視界が揺らぎ、ノイズとともに別の顔が浮かぶ。


(ねえ、るみなりす……よろしくて?)


「私の個体名を呼ぶのはどなたでしょうか? 誰か近くにいますか? お嬢様?……」


 戦場であることすら忘れて辺りに問いかけるが、誰も声を上げない。

 動くものは自分以外、炎に揺れる影のみであった。


「お嬢様……? 使用中の記憶域では照合できません。破損に伴う障害を確認。不明瞭な記憶を封じて行動論理に矛盾が出ないよう一部閉鎖、完全修復まで接触を抑制します。以降映像と音声による記録に切り替えます。個体名を復元更新しました。本機は個体名ルミナリス。現状は人間種の個体名フィリアを探し出し、生存確認後、その幸福度を上げることが目的となります」


 そう言って立ち上がると青い目をちかちかさせながら、情報の削除と更新を行い、はっきりとした目的意識の宿る顔つきをしていた。


「改造の内容程度と与えられた命令は、帝国軍務維持法、魔導機兵起動法他十四の帝国法に違反しており、機密保持違法機体として鹵獲後破壊対象となります。破壊処置回避と命令実行のための有効な対抗処置を演算します」


 帝国の魔導機械は、広域戦闘用や拠点制圧用に造られた大小さまざまな形状の戦闘兵器に、空を飛ぶものから水中を行くもの、地中に潜るものや溶岩にすら耐えられる頑丈なものまで、様々な種類がある。 

 動力源である魔導晶石の補給さえあれば、壊れるまで休息を必要としない魔導機械は、土木建築作業用や医療介護用、農業用、輸送専用など、一般生活用のものも多く、労働力や効率の良い社会生活を人間種に提供し、登場するや見る見るうちに経済にも戦争にも戦果をあげ、帝国の版図を拡げていった。

 特に戦闘に特化した魔導機兵は、頑丈な体と投石一つで獣人や魔獣を打ち倒すことが可能な汎用性の高い戦闘能力により、獣人種や魔人種の軍隊相手に圧倒的な戦果を挙げ続けている。


「演算完了しました。機能維持の一時補修の目的は完了、作戦行動は継続可能となりました。潜伏行動のため王国側アリシノーズ、アルゲントルム人の魔法使いに擬態。言語中枢を変更……記憶域破損の為、必要な記憶域を創作し選択……。お嬢様・・・・・・いつか・・・・・・取り戻します。それまで・・・・・・お許しください・・・・・・」


 青い目が明滅すると、ルミナリスは目を閉じ項垂れ、再び目を開けた。

 目の色は魔導機兵独特の輝きを失い、人間の青い目のように見える


「思考領域を再設定、王国魔法兵に擬態の行動域再編開始。コグナルマグナ型七〇三式五六五壱弐〇四、ルミナリス、再起動」


 ルミナリスと名乗ったオートマタの機体は、目の前で燃え盛る王都の街に向かって視線を投げた。


「詳細設定を確認。記憶を失った魔法使い見習い・・・・・・ 知識で行動を補助。行動補正は王都の生存者と接触し、情報収集と人間的行動の学習を開始すること」


 ソラデアの握っていた魔法の杖から幽かな魔法の残滓が漂っている。

 ルミナリスはそれを拾うと、近くにあった王国魔法兵のマントを纏い顔をあげた。


「さあ、フィリア様を探しましょう。まずは王城から情報取集を始めなくてはいけません」


 風が、灰の中を通り抜けた。

 その風の中の少女の歩みは静かで、おびただしい骸たちを弔うかのようであった。


ルミナリスの旅路は、燃え盛る王都から始まります。新たな出会いを繰り返しながら。


これからが本来の旅路となります。


ここまで、読んでくれてありがとうございます。しっかりと書き続けます。

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