第11章 星が堕ちる日Ⅴ ~ 歪な神獣
「……おい、嘘だろ」
アルーザが息を呑んだ。
砕けたはずのナノスの残骸が、地面を這い、再結合を始めていた。
屍王ロドの足元へ吸い寄せられ、青銀の光に触れた瞬間、青い炎を上げて再結合する。
壊しても壊しても、群れは戻る。
~本文より
「アルーザっ」
ゼイロスは叫んでいた。
屍王ロドに挑んだが、刃は届かない。
歩みを止めることすらできず、アルーザは魔導砲を撃った。
だが、即座に小型の蜘蛛型魔動機『アラクノイド・ナノス』の群体による反撃を受け、その波に飲み込まれてしまっていた。
「うおっぉぉおっー」
アルーザは負けじと咆哮し、自らの躰に火焔を走らせ、『アラクノイド・ナノス』を破壊して振り切り、大きく飛び下がった。
身体中いたるところが焼け焦げてはいるが、超速再生があるおかげで深刻なダメージは受けていない。
アルーザはすぐさま反撃を行った。
腕を組み大きく口を開けると、高域の音波攻撃をはなった。
高域の音波が森の空気を震わせ、見えない刃となって機械群の中枢を叩き潰す。
耳では聞こえないはずの高域の衝撃が、目に見える波紋となって広がり、群がる『アラクノイド・ナノス』の動きを一瞬止めた。
青く灯っていた機体の光が、ぱちり、ぱちりと消えていく。
「今だっ!」
ゼイロスの赤眼が鋭く光る。
アルーザは吼えた。
「消し飛べぇぇぇっ!」
踏み込みと同時に、大地が陥没した。
巨体が爆発的に加速し、両腕を振り抜くと、炎を纏った拳が空気を焼き切り、衝撃波が扇状に広がった。
凍り付いたナノス群が粉砕され、砕けた機体が雨のように降り注ぐ。
だが、屍王ロドは、止まらない。
ナノス群がまとめて破壊され、躰に穴が大きく開いているが、その穴を青い焔が埋めているのだ。
青銀の焔が、その身から激しく燃え上がり始めた。
神獣ルーンの力が、歪に、異様に、増幅されている。
「……おい、嘘だろ」
アルーザが息を呑んだ。
砕けたはずのナノスの残骸が、地面を這い、再結合を始めていた。
屍王ロドの足元へ吸い寄せられ、青銀の光に触れた瞬間、青い炎を上げて再結合する。
壊しても壊しても、群れは戻る。
むしろ、数が増えている。
「ゼイロスっ、こいつ……!」
「わかっている」
ゼイロスは低く応じた。
屍王ロドは、もはや単なる操られた亡骸ではない。
ナノスを媒介に、神獣の力と兵器の機構が歪に融合している。
これは――
「歪な神獣、か」
ゼイロスの口元が歪む。
獣人の王が兵器と冷酷に混ざり合い、機械でも呪いでもない何物にも当てはまらない存在。
神獣の力と誇り高き王の残滓が付き動かす、破壊の力そのものだ。
屍王ロドの足が止まり、ゆっくりと、その獣眼がゼイロスをにらみ、アルーザを捉えた。
青銀の奥に、かすかに——怒りと悲しみ、そして、拒絶が浮かんでいる。
己の進軍を阻むもの、守ることを邪魔する者たちへの——それは、王としての拒絶だった。
「……来るぞ!」
ゼイロスが叫んだ瞬間、屍王が踏み込んだ。
空気が爆ぜ、地面が裂ける。
アルーザが腕を交差し受け止めるが、衝撃だけで樹々をなぎ倒す力で、吹き飛ばされた。
「ぐっ……ははっ、いいな、これ!」
口から血を流しながら笑う。
「やっと、神獣らしくなってきやがった!」
だがゼイロスは笑っていない。
屍王ロドの背後で、青銀の焔が渦を巻いている。
破壊を確実にするための収束だ。
「アルーザ、離れろ!」
「は?」
屍王ロドの胸元が、深く脈動した。
神獣ルーンの欠片が、強制的に兵器構造へと流し込まれる。
青銀の焔が、一直線に圧縮され――放たれた。
音はなく、視界が真っ白に弾ける。
一直線の閃光が森を穿ち、アルーザのいた空間を消し飛ばす。
爆音は、遅れてやってきた。
轟音と共に、森が半円状に抉られ、巨大な溝が生まれる。
アルーザの姿はどこにも見えない。
ゼイロスは歯を食いしばった。
ここで退けば、王を二度も見殺しにしたことになる。
変わり果てた姿で、死してもなお失うことの無いその誇りに、憧憬と覚悟を決めた眼差しで見上げると、一歩踏み込んだ。
——王を、二度と辱めぬために。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
しっかりと書いていきますので、また是非ご一読ください。




