第11章 星が堕ちる日Ⅳ ~ 対決、アシュラムとアリア
そこは——死の庭だった。
草木は白く枯れ、虫も鳥も、まるで蝋人形のように倒れている。
生命が消え、魂だけが抜かれているのだ。
「……趣味が悪いのう」
アシュラムが拒絶に震えた。
空気に混じる“歌”を拒絶して身悶えしている
~本文より
びょう、と風を裂く音が耳元でなる。
オルクスは地を蹴るたび、空気そのものを踏み台にしていた。
赤い光柱の根元へ——迷いなく、一直線に。
急がねばならぬ。あれはあってはならぬ“災厄”だ。
赤い光は、すでに屍王ロドの方角へ進軍している。
遭遇させてはならない。
近づけば近づくほど、歌が濃くなる。
悲鳴のような歌声のような、魂を撫で、削り、剥がし取る旋律だ。
「刻まれし力名は疾風、勇名は迅雷——アニハバラク」
雷を纏い、森を貫き、雷霆の速さで飛び込んだ先。
そこは——死の庭だった。
草木は白く枯れ、虫も鳥も、まるで蝋人形のように倒れている。
生命が消え、魂だけが抜かれているのだ。
「……趣味が悪いのう」
アシュラムが拒絶に震えた。
空気に混じる“歌”を拒絶して身悶えしている。
オルクスの指先が白くなり、剣を握る感触が、ほんの僅かに薄くなる。
「……むう」
膝が沈み、肺が軋む。心臓の鼓動が、半拍遅れ、命を削り取られているのがわかる。
「ならば——」
空間すら断つ斬撃、雷霆の一閃を放った。
雷が渦巻き、空気が弾け爆発した。
斬撃は間違いなく通り、思った通りの威力を発揮した。
だが、赤い光は裂けないまま、歌も途切れない。
「……剣の届く位相におらぬか」
アシュラムが手の中で唸る。
この剣がここまで露骨に嫌悪を示すのは、随分と久しぶりだ。
「落ち着け」
オルクスは低く言った。
「アシュラムよ。しっかり働かぬと、儂の魂が横取りされるぞ」
アシュラムが応え、エーテルを取り込むと青白く輝き始めた。
空気が震え、重々しい響きが辺りに広がった。
それは歌のようであり、嘆きの声のようでもある、魂に染み入る調べだ。
赤い光が掻き消え、歌が乱れて、光の中心が、見えた。
宙に浮かび微笑みを浮かべる美しい女性だ。
オルクスよりも、二回りは大きい妖艶な肢体に、蜘蛛の機械を鎧のように纏せ、赤い結晶が胸で脈打っている。
「お初にお目にかかりますわ。守護剣聖オルクス殿」
優しい声色でかけられたその一音で、背後の枯れ木が崩れた。
「わたくしは、帝国十二星将、イザベラ・カリスにして、皇帝陛下の兵器——リミナ・マキナ【アリア】です」
イザベラ【アリア】は名乗りを上げて、優雅に地に降り立つ。
「おとぎ話の英雄様。少し、お話よろしいかしら?」
「話は嫌いではないがの。内容次第じゃ」
切っ先を鋭く据えて、剣を構える。
「命を削る挨拶は気に食わん」
イザベラ【アリア】は、くすりと笑う。
「削っているのではありません」
赤い光が波打ち周囲に魔法陣が展開していく。
「陛下に仇為すものか、そうでないのか? 残すものを選別し再定義しているのですわ」
妖艶に微笑みながら言葉を続ける。
「今はまだ十分に機能制御できておりませんが、ベリスティアの生命、その全てを実験体として消費すれば、実証作業も終わります。生命の数など誰も数えませんわ。魂は貴重な資源。無駄にできません。それに、オルクス様が退治したおとぎ話の災厄の黒樹魔女に比べれば、些細なものでしょう?」
魔剣アシュラムが唸りながら、展開する魔法陣を次々に打ち消していく。
その様子に、オルクスは理解した。
これは生命を奪う力ではなく魂を奪う魔法だ。
「帝国はアリシノーズを……人間種を無条件で保護すると皇帝は言っておったはずじゃが? 矛盾しておらんかの?」
怒気と剣気を総身にまとわせながら、オルクスは思いのほか静かに告げた。
相容れない滅ぼすべき敵であると認識した故であった。
声をかけながら、付け入る隙を探す、古兵ならではのやり方だ。
「あら。陛下のお言葉をご存じだとは……。陛下はお優しいお方……代わりにわたくしが血で手を汚すのです。全ては皇帝陛下の御為ですもの……矛盾など些細なもの」
古来より、エルフ族には語り継がれている禁忌がある。
魂の在り処に触れるな。
天の軍勢の扉が開き、地底の門から這い出るものを呼び込む。
決して触れてはならない、と。
オルクスの緑の瞳が燃えた。
「それがお主の中身か……」
胸に脈打つ赤い結晶に、魂の欠片を感じる。
あからさますぎるが、全てを砕く一撃を加えれば、いかなる仕掛けがあろうとも関係はない。
リミナ・マキナ【アリア】により、巨体となっているイザベラを見上げながら、オルクスは、一歩鋭く踏み込んでアシュラムに魔力を流す。
「先ほどの話じゃがな。黒の樹魔女ネメリアは泣いておったぞ。魂を奪っても、お前のように笑ってなぞおらん」
大上段に剣を構え、その名を叫ぶ。
「アシュラムっ」
剣を中心に静寂が広がり、赤い光の魔法陣が一瞬にして断たれて、歌が途切れた。
同時にイザベラ【アリア】の肩と腹が裂けた。
しかし、傷からは血の一滴も流さず、蜘蛛型の『アラクノイド・ナノス』が集結し、傷口を瞬く間に修復した。
「面妖な機械じゃな。いや、魂食いの化け物かの」
イザベラ【アリア】は笑顔のまま、穏やかに言った。
「……やはり厄介ね……陛下にお褒め戴くためにも、消えて頂戴。英雄さん……」
赤い光が膨張し、新たなる魔法陣が構築され、オルクスを取り囲んだ。
オルクスは魔剣を一閃し、魔法陣を全て断ち切ったが、
「うぬっ」
と一言呻くと、一瞬眼が白濁し、膝をついた。
躰が自分のものではない感覚だ。魂を剝がされかけている。
魔剣が唸り、エーテルを噴き上げ、オルクスは鋭い緑の眼を取り戻し、再び構えをとったが、手が震えている。
アシュラムはアリアを、アリアはアシュラムを、互いに否定していた。
魔剣と呪い歌。
魂を巡る二つの理が、衝突する。
次回、屍の王に魔眼部隊の生き残りが戦いを挑みます。
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