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機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき
第11章 星が堕ちる日

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第11章 星が堕ちる日Ⅱ ~  英雄オルクスと戦士ゼイロスの意地

(注意すべき敵を……存在を探し出せ)


 意識をさらに深く沈める。

 風が消え、鼓動が遠のく。

 世界は一枚の水面となり、魔力の歪みだけが波紋を描いた。

 ——そこに、異質な歌があった。

 大きな衝撃と共に、魂の奥底を叩かれたかのような、不快な感触。


(……これは)


~本文より

 ふぅーと一息深く息を吐くと剣を握りしめ、オルクスは瞑想し、自分の中の意識を研ぎ澄ませていた。

 オルクスの魂は剣と共にあり、意識の境界が曖昧になる。


 屍王ロドが放つ剣呑な雰囲気の原因を探っていた。


(注意すべき敵を……存在を探し出せ)


 意識をさらに深く沈める。

 風が消え、鼓動が遠のく。

 世界は一枚の水面となり、魔力の歪みだけが波紋を描いた。

 ——そこに、異質な歌があった。

 大きな衝撃と共に、魂の奥底を叩かれたかのような、不快な感触。


(……これは)


 屍王ロドから立つ荒れ狂う嵐のような暴威ではない。

 もっと粘つき、もっと静かで、もっと悪質な——調べにのったような何か。


 そう、これは……歌だ。歌に似ている。


 だが旋律はなく、何かを思うものでもない。

 魂を軋ませ、全てを奪い取ろうとする恐るべき旋律だ。


 オルクスの眉間に、わずかな皺が刻まれた。

 かつての大災厄、黒の樹魔女が全ての存在を滅ぼそうとしたときの、あの時の感覚が甦って、魂を急き立てる。


 敵を見つけて倒せ。

 己の中の何かが声高に叫ぶ。


(何者じゃ……何をしようとしている……)


 これは呪いが形を為した意思だ。

 破滅を望む、明確な意思。


 魔剣アシュラムが、低く唸った。

 嫌がっている。

 この剣が、ここまで露骨に拒絶を示すのは初めてだった。


「……なるほどの」


 瞑想を解き、ゆっくりと瞼を開く。

 緑の瞳が、夜明けの森を射抜いた。


「大いにまずいのう」


 隣に立つゼイロスが、守護剣聖のただならぬ雰囲気を感じ取った。


「何を感じた、英雄殿」


 オルクスは言葉少なに答えた。


「災厄じゃ。ロド殿と似たまた違う災厄じゃ」


 ふうと一息つくと、空を見上げた。


「踏ん張り時じゃの」


 その言葉と同時に—— 帝国軍司令所の方角から、空を裂くような赤い光柱が立ち上った。


 大気が震え、遅れて、世界そのものが軋むような重低音が響いた。

 少し遅れて、遠くで歌っているような声が聞こえた気がした瞬間、オルクスは奥歯をかみしめ、ゼイロスは躰の中からごっそりと気力のような何かを持っていかれたような、急激な体力の消耗を覚えた。


「……なんだ、あれは? ヴァルタっ! わかる限りで報告しろ」


 ゼイロスはのど輪を鳴らし、ヴァルタへ言葉を投げた。

 ヴァルタが呻きながら即答した。


「……あれ……は魂を……削る、いや、吸い取る……も……も……」


 低くくぐもった苦鳴が、聞こえてくる。


「ヴァルタっ、抗えっ。お前の力を、拡げた意識を収縮しろっ」


 ゼイロスの言葉も空しく、音声が途絶し、ヴァルタの生存信号が突如途絶えた。


「——ヴァルタ……俺たちは使い捨て部隊……許せとは言わん」


 ゼイロスの赤眼が、かすかに揺れた。

 戦士は、仲間が散る瞬間を何度も見てきた。

 それでも—— 喉の奥で、低く唸る。


「……魔人種なのに、惜しい奴だった……」


 ゼイロスは影に向かって視線を投げると、


「セリオは、影移動のままで、声の届かない範囲まで後退しろ。これは命令だっ」


 と反論を許さず命じた。

 しばらく影の中に、セリオの気配はあったが、やがて消えた。

 遠くで吼えるアルーザの声が聞こえる。頼もしい戦力はまだ健在のようだ。

 一瞬、ためらいがよぎるが直ぐに切り替える。


「アルーザ、やれるか?」


 のど輪越しに尋ねると、


「ふんっ、当然だ。俺の力がなければ、戦えないだろ?」


 相も変わらずの不敵な声が返ってきた。


「ああ……強敵相手だ。全力で暴れろ」


「言われるまでもないわっ」


 途切れた通信に苦笑すると、ゼイロスは、己の魔力を自慢の剣爪に集中する。

 恐怖はない。

 ただ、失い続ける戦場に、終止符を打ちたいだけだ。

 己の矜持に全てをかけて、戦いに臨む。


 オルクスが横目で見る。


「さて。お主の部下のでかいのは、ロド殿であったものにぶつけて時間を稼げ」


 剣を構えて、一歩踏み出した。


「儂は赤い光を斬る。あれは世界にあってはならんものじゃ」


 そう告げるその背中は、英雄たるものの姿で、圧倒的だった。


「……俺はロド閣下を送る」


 ゼイロスは真っ直ぐにオルクスへ伝えた。


「今度こそ、無様は晒さないさ」


 オルクスは、わずかに笑った。


「そうか。生き残ったなら、今度こそお主の名を魂に刻もう」


 守護剣聖は空に咲き乱れた赤い光へ。

 剣猫族の戦士は、青い光が蠢くかつての王へ。

 意地と誇りと生命をかけて、星が堕ちる戦いが始まる。


 二人は、堕ちゆく星の下、それぞれの災厄へと歩み出した。


次回、ルミナリスとルルリアが赤い光へ立ち向かいます。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

少しでも面白く読んでもらえたなら、大変うれしく思います。

感想などありましたら頂けると励みになります。

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