第10章 魂と機械の境界Ⅸ ~ 魂の残響
オルクスはそういうと座り込み、すさまじい魔力をその身に帯び始めた。
魔力波が辺りの景色を蜃気楼のように歪めていく。
オルクスの躰から立ち上る人の身を遥かに超えた魔力波が、剣の内側に吸い込まれるように、細く小さくなって、ついにはその姿を認識することが難しくなるくらい気配が失われていく。
ゼイロスは間近でその本気を見て、ため息交じりに呟いた。
「ああ……認めるしかない。英雄という化け物たちを……」
~本文より
リミナ・マキナ【アリア】が起動したその時、屍王ロドは大きく吼えた。
何かが魂に触れた怒りのような絶叫だ。
巨躯がわずかに傾ぎ、次の瞬間、迷いなく帝国軍司令所の方角へと向き直る。
屍王ロドのリミナ・マキナが強く青い輝きを放ち、呼応するように大気が震える。
空気が重い。
息を吸うだけで肺が軋む。
「仕掛けるのは様子見じゃ。良いか?獣人兵」
オルクスはアシュラムの構えを解くと、ゼイロスに視線は向けず、言葉のみ投げかけた。
「…………」
ゼイロスは言葉を返せなかった。
体毛の全てを逆立て、震える自分の右手を左手で抑え込んでいた。
「何じゃ? 儂との戦いを楽しみにしているどう猛さは何処へ行った?」
からかうような口調ではあるが、オルクスも屍王ロドから視線を外せなかった。
オルクスは消耗している自身の力と技の限りを尽くし、どのように戦えばよいか、考えを張り巡らせていた。
その時だった。
「うぬ、しもうたっ」
屍王の歩みが進む先の森の茂みに、狼獣人種の子供たちが立ち尽くしているのが見えた。
恐怖のあまり、逃げるどころか瞬きすら忘れて、巨大な屍の王を見上げている。
オルクスは戦場であるのに、周りを見渡すことを忘れた己の愚かさを呪いながら、
「アシュラムっ」
と魔剣を呼び覚ました。
雷霆の速さで子供たちを助けようと構えたその時に、屍王ロドは子供たちを認めると避けるように進路を変えた。
付き従う屍の兵たちも、子供たちに見向きもせず、そのまま進軍を続けていく。
「そうか—— 死してもなお、おぬしの矜持は生きておるのか」
オルクスは目を細めた。
ならば——なおのこと早々に送ってやらねばなるまい。
戦士として、王としての誇りが傷つかぬように。
アシュラムの唸りを握りつぶし、振り返ってゼイロスを見た。
その赤眼からは恐怖の色は消え、意思を讃えた光が宿っている。
「いけるか? 獣人兵よ」
「ああ」
言葉少なに答える。
「もう大丈夫だ。剣猫族の誇りにかけて……閣下を葬送する」
「ふむ。少しはましな顔になったの。生き残ったなら、名をもう一度聞いてやろう。じゃが、その前に敵を知らねばならん。儂が良いというまでこのままじゃ」
オルクスはそういうと座り込み、すさまじい魔力をその身に帯び始めた。
魔力波が辺りの景色を蜃気楼のように歪めていく。
オルクスの躰から立ち上る人の身を遥かに超えた魔力波が、剣の内側に吸い込まれるように、細く小さくなって、ついにはその姿を認識することが難しくなるくらい気配が失われていく。
ゼイロスは間近でその本気を見て、ため息交じりに呟いた。
「ああ……認めるしかない。英雄という化け物たちを……」
大きく一息吐いて気持ちと躰を整えた。
「だが、俺には……俺達には俺たちの戦い方がある」
アルーザの声が遠く吹き飛ばされた方向から耳に届き、脳内ではヴァルタの声が響いてくる。近くの影の中ではセリオが様子を窺っている。
切れる手札はまだ手元にあるのだ。
「ベルセクオール魔眼部隊に告げる——」
赤眼が真っすぐに屍王ロドの姿をとらえていた。
「ロド・グリム閣下の最後の命令を遂行する。総員、全力をもって——」
眼をそらすことなく、ゼイロスは言葉を続けた。
「王を葬る」
次回、イザベラがついに動き出します。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
少しでも面白く読んでもらえたなら、書き手として嬉しく思います。
また、ぜひご一読ください。




