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機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき
第10章 魂と機械の境界

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第10章 魂と機械の境界Ⅷ ~呪いの歌姫

 恐怖は無論、躊躇も何もない。

 金属の指が、操作盤の最奥に触れた。

 今、魔導結晶は、イザベラの魔力波形に応じて静かに解錠されていく。


「私は——誰かの命令で動く駒ではないわ。ましてや、囚われの身などあり得ないの」


~本文より

 イザベラの左眼の義眼が妖しく明滅していた。

 操作盤と連動し、イザベラの命令を魔導結晶へ書き込んでいく。

 イザベラの頭蓋の中で音声が響き渡る。


『リミナ・マキナ【アリア】起動します。女王機体をどうしますか?』


 イザベラは酷薄な笑みを浮かべると、鏡に映った自分を見ていた。左半分を覆う金属の仮面とそこに埋め込まれたつめたい義眼の顔を眺めながら、つぶやくように告げた。


「ここに—— 私のもとへ……私自身と接合し融合する。私自身を機動指令兵器とする」


 その言葉を合図に、操作盤の魔導結晶群が一斉に脈動を始めた。

 赤から蒼へ、蒼から紫へ—— 色相が歪み、通常の制御段階を明らかに逸脱している。


『警告。女王機体への直結は、人格保護領域の恒常的破損を伴います。倫理制御、感情緩衝、痛覚遮断……すべて無効化されます』


「問題などないわ」


 恐怖は無論、躊躇も何もない。

 金属の指が、操作盤の最奥に触れた。

 今、魔導結晶は、イザベラの魔力波形に応じて静かに解錠されていく。


「私は——誰かの命令で動く駒ではないわ。ましてや、囚われの身などあり得ないの」


 黒い小さな影が部屋の中を横切り、アリアの名を冠するリミナ・マキナの女王機体がイザベラの首のあたりに取り付いた。

 一瞬躰が揺れ、同時に延髄の近くから小さな血しぶきを上げたが、イザベラは小さく吐息を漏らしたのみで、その表情には苦悶を浮かべず、固い決意のまなざしがはっきりと浮かんでいた。


 機械の軋む音がすると、イザベラは軽いめまいを覚え、近くにあった椅子の背に手をついた。


 義眼が妖しく明滅し、世界が二重に重なる。

 自身の部屋に目の前に浮かび上がる、演算の数式と魔法陣。

 現実の世界と魔導演算空間が重なり溶け合い展開、融合していく。


「私はイザベラ・カリス。皇帝陛下の忠実なるしもべで在り、陛下の覇道を阻むすべてを排するもの……この身も魂も全てが陛下の御為にある」


『女王機体【リミナ・マキナ:アリア】――統合対象、イザベラ・カリス、統合率概算……肉体侵蝕と各種器官の変換開始』


 結晶石に魔導刻印が刻まれ、頭蓋の中で低く、女の声で魔導機械が応じた。


 イザベラの躰がほんのりと赤い光に包まれると、体が一回り大きくなり、仮面が剥がれ落ち、床に反響を生みながら転がっていく。


「……私が命令であり、私が兵器であり、私が——全ての答え」


 取り付いた女王機に呼ばれてアラクノイド・ナノスの中核機体が現れ、イザベラの躰を内からも外からも変えていく。


「私は取り戻すの……私の全てを—— 私の存在意義を…・・・アリア、応えなさい。私の思いを、その機能を使って、歌うのよ。私の為の歌を——」


 女王機が脈動しイザベラの魂座に触れると、悲鳴のような歌声のような音を上げる。

 中核機が義手を覆い、義足を覆い、魔導核で焼かれた左半身も、イザベラの全てを赤く光りながら覆いつくしていく。


「私の忠節を阻むものは誰であっても許さない……グラン……あなたでも」


 そう呟いて上げたその顔は、アラクノイド・ナノスに縁どられていたが、かつての美しさを取り戻していた。


「……ふふ……お帰りなさい……私」


 喉から零れた笑い声は、もはや震えてはいなかった。


「見なさい、グラン。これが、私の“忠誠”よ」


 胸元の皮膚が裂け、保護膜に覆われた魔導結晶が露出する。

 それは心臓の鼓動と完全に同期し、規則正しく光を放っていた。


『統合率完全統制確認。感情優先度を再定義します』


 次の瞬間、鏡の中で、女王機体の眼が、確かに笑った。

 監視付きの部屋の扉を、目を細めて見つめて、すぐさま、監視用の魔導機兵二体を扉ごと粉みじんに吹き飛ばし破壊した。


「閣下……これは……一体何を——」


 自分の近衛兵だった兵士に向けて、ためらいなどなく、イザベラ『アリア』は歌うような声を上げた。

 近衛兵の躰から魔力波に似た違う何か—— 生命の力をアリアは吸収し、その瞬間、近衛兵は白目をむいて笑みを浮かべたまま、絶命した。


「感謝なさい。貴方の生命は私の力の礎となるのよ」


 イザベラはこの時すでに、皇帝の為にならと全てを滅ぼす、呪いの歌姫となっていた。



次回、オルクスは屍の王となったロドを、ゼイロスは英雄の背中をみて、決意します。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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