第10章 魂と機械の境界Ⅶ ~ 屍王と英雄、そして二人の戦士
「これは凄まじいのう。ロド殿の力を使う怪物誕生じゃな。おい帝国獣人兵、味方が蹂躙されておるがそのままで良いのか?」
オルクスは隣で様子を見ているゼイロスに、少しばかりあてこすって話しかけた。
ゼイロスはその様子を眺めながら、
「帝国兵ではあるが、あいつらは仲間じゃない。ロド閣下を葬送するため、お試しで戦ってもらうのに丁度いい。まずは様子見でいきたい。それと……俺の名前はゼイロスだ。英雄殿」
~本文より
それは悲鳴とも咆哮ともつかぬ声を上げ、港町ベリスティアへ——。
正確には、帝国軍司令所のある一点へと、迷いなく進んでいた。
「うぐうぉおおー」
かつて王狼ロド・グリムであった屍王が、その巨体を引きずるたびに、森が砕け、土が裂け、死者たちが行軍し列を成す。
何が屍王をつき動かしているのか、誰にも分からない。
本能か、魔導機械に残された指令の残滓か——あるいは、王として最後に遺した意思なのかもしれない。
夜明け前の柔らかな薄暮の中、静寂に満ちているはずの森は、悲鳴と爆発音、砲声と破壊音に塗り潰されていた。
そしてその中心を歩くのは、帝国が生み出した最悪の暴走した兵器、リミナ・マキナを背負う屍王だった。
帝国兵だったものたちが、帝国兵を打ち倒して、進軍していく。
近くにいたイザベラ直属の精鋭部隊が、即応し迎撃態勢を構築。屍王の異形にも脅えず、勇猛果敢に攻撃を加えた結果だ。
リミナ・マキナに人が挑む。それがどのような結果を生むか分からないまま——。
教科書のような攻撃布陣で、前衛に魔導機兵、中衛以降に帝国重砲兵、左翼右翼に帝国重騎機動兵を配置し、中遠距離からの砲撃と、うち漏らした敵を強力な重騎機動兵の接近戦で叩く、殲滅の布陣であった。
王国兵相手の通常戦闘なら文句のつけようもないが、今回は『アラクノイド・ナノス』極小の魔導機械の群体が相手であった。
砲撃によって吹き飛び、拡散した小型の蜘蛛型魔動機『アラクノイド・ナノス』は、魂の揺れを感じて帝国兵士たちに殺到、兵たちを飲み込み、屍王は、魔導機兵相手に苦戦することなく、次々と破壊していた。
「これは凄まじいのう。ロド殿の力を使う怪物誕生じゃな。おい帝国獣人兵、味方が蹂躙されておるがそのままで良いのか?」
オルクスは隣で様子を見ているゼイロスに、少しばかりあてこすって話しかけた。
ゼイロスはその様子を眺めながら、
「帝国兵ではあるが、あいつらは仲間じゃない。ロド閣下を葬送するため、お試しで戦ってもらうのに丁度いい。まずは様子見でいきたい。それと……俺の名前はゼイロスだ。英雄殿」
と普通の声色で語り掛けた。
つい、先ほどまであふれていた激情の姿は何処にもない。
(ヴァルタ……どうだ? 英雄殿を抑制できるか?)
ゼイロスは思念でヴァルタに語り掛けた。
いつもなら直ぐに返事が脳内に響く。その筈が、何の回答もない。
ヴァルタの沈黙と引き換えに、オルクスがゼイロスのほうへ殺気を含んだ目線を投げた。
「取り敢えずの共闘じゃ。悪戯には目を瞑って、メンタリスの魔人は殺さずにおいておこう。だが、忍耐にも限界がある。ガイルのことも忘れてはおらぬぞ。そのことは理解しておくことじゃ。陰に潜む童っぱも覚えておけよ」
「どうやった……」
ゼイロスの背筋にたちまち怖気が走った。
黒牙隊をあっさりと壊滅させ、今どのようにしたかもわからないまま、ヴァルタを黙らせ、陰に潜ませて感知不能なはずの幽霊猫族のセリオを言葉一つで封じて見せた。
おとぎ話の英雄、守護剣聖オルクス・フルミニス。
やはり尋常の相手ではない。
ゼイロスは知らず知らずのうちに、毛を逆立てながら剣猫族らしい獰猛な笑顔を浮かべていた。
オルクスはその顔を見て、
「やっぱりか……やりにくいのう」
と小さくため息交じりにつぶやいた。
ルミナリスとルルリアは魔導機兵が居なくなった瞬間に、すぐさま南の森へと移動を開始した。
「ねえ、ルミィ、魔導機兵がどっかに行ったってことは、何かやばいことがあったか、あるかどっちかだよね?」
「はい。そう思います。何らかの軍事的脅威であるかと。そして魔導機兵は南の森方向、これから私たちが向かわねばならない方向へ進軍しています」
「ちょっとだけ、待って」
ルルリアは立ち止まり、持ち物を探り始めた。
いくつかの小瓶と中くらいの薬瓶、そして調合前の粉末薬の包みがいくつか。
ざっとそれらを見てルルリアはルミナリスを見つめた。
「材料不足ね。このままじゃ、役に立たない。なにか武器がないと」
「調合の魔法薬は時間がかかりすぎます。何がよろしいでしょうか?」
ルミナリスはそう言いながら、ルリリアの視界範囲や各種運動能力、状況分析など今までのルルリアの能力値に適性の高い攻撃方法を考察した。
「そうね……魔法はうまく使えないし、格闘と、特に投げるのは短剣も含めて何とかなるけど……」
破壊された魔導機兵や放置された帝国兵の武器を、百眼で分析しながら、仕様をルルリア用に設計。組み合わせで最適なものを走査決定する。
該当二十六件。
装填無し、格闘戦汎用可能で、長く使えそうな武器となるものに焦点を絞る。
「何とかできそうです。間に合わせですが、考えてみましょう」
「なんとかって? できるの?」
「はい。魔法武具の制作は、武具の性質と発動を組み込む上で、魔法の式を編むことと酷似しています。私は、大魔法は使えませんが、理論と実践、手先の器用さには自信があります」
ルミナリスはそう言うと、杖を持ち、百眼で選定していたものに、魔法で今見つけたかのように淡い光をまとわせた。
選定したのは、空挺魔導機兵の雷撃を放つための魔導球と、銃口が破損し放棄されている雷霆銃の二つ。
ルミナリスは魔法を使い自分のもとへ引き寄せ、魔導球を取り出し、雷霆銃の魔法晶石の魔装部分を破壊し、魔導機兵の手甲を剥いで組み合わせる。
組み合わせや接合には、魔法と間に合わせで作った魔導結晶を先端に結わえた棒を用い、ためらうことなく次々に組み立てていく。
迷いなく見る見るうちに組み立てていくルミナリスの技能に、ルルリアは目を丸くした。
「馬鹿なことを言うけどさ……魔法みたい……ルミィが実は魔導工匠だって言ってもあたし、驚かないよ」
「記憶にはありませんが、体に馴染んだ作業です。もしかしたらそうなのかもしれません。ちなみに王国では聖刻機技師と言います。些細なことですが覚えておいてください。魔導工匠という言葉は帝国よりの国々で使われる言葉ですので、要らぬ勘違いから敵対行為を生み出す可能性があります」
そう言いながら、組み立てを終わり、銀の鈍色に輝く籠手に手甲部分に魔導球を組み込んだ武器が完成した。
魔導武具を自分の右手にはめて起動を確認する。
「機能は問題なさそうです。周囲の魔力波エーテルを取り込み、中距離では雷撃、近くでは雷撃をまとった鋼球を自在に操れます」
ルミナリスは目を丸くしたままのルルリアに近づき、右手に武器を装着すると、
「同調開始」
小さくつぶやいた。
籠手のような武器が、ルルリアの体内魔力波の波形と心臓の鼓動を感じ取り、ルルリアの右手に合う形状に変化していく。
「えっ、凄い! ルミィ……こんなのゴルデンオストでも見たことない」
「ルルリアさん以外使えないように処置してあります。武器の名前を付けて読んでください。声が起動の鍵になります」
「……何か恥ずかしいかな。名前つけて呼ぶの。起動とかそんなんじゃダメ?」
「はい。ほかの者に使用させないためにも、短くていいので名前を付けて下さい」
ルルリアの頭の中に、シレンシオの天啓の花が閃いていた。
「花が良いわ。嵐の中に咲く花—— テンペスト・フロリス、『テンフラウ』」
魔導球と籠手に小さく魔力波が走り、ルルリアの右手に魔力波による刻印が宿る。
「あ、なんだかあたしに馴染んだような感じがする」
「はい。認証成功です。直感的に使えますので、試しながら行きましょう。まずはオルクス様との合流の為、先に急ぎたいです」
左手に籠手をしているルミナリス。右手に籠手をしているルルリア。
二人は初めから対の戦士のように連れ立って、オルクスのいる新たなる戦場へと向かった。
次回、イザベラの覚悟が周りを揺るがすことに成ります。
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シッカリと、描いていきますので、また目を通してください。




