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機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき
第10章 魂と機械の境界

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第10章 魂と機械の境界Ⅵ ~重なる思い

 彼らは皆、笑っていた。

 だが、その存在はあまりにも希薄で、生者ではないことを、否応なく物語っていた。


~本文より

 私は……また守れない。


 ルミナリスは思考領域から溢れ出ている思いを抱えながら、全力でルルリアのもとへ駆け出していた。

 魔導機兵が、狙いを定めにくいルミナリスより先に、ルルリアを排除しようとするのは当然の帰結だ。

 魔導機兵達の射線は正確にルルリアの急所を複数個所射貫いてしまう。


「ルミィ―っ」


 ルルリアはルミナリスの追い詰められている状況に、我を忘れて声をかけていた。

 そこには、敵を引き付け、ルミナリスを逃がそうという、無意識的な自己犠牲が乗っている。自分は生きて帰れないことなど当然覚悟の上の行為だった。

 ルルリアは直感的にルミナリスの根幹を理解していた。ルミナリスの涙で。


 あの子はずっと怖かったんだ。

 自分よりもほかのだれかの命が失われることが……。怖い思いをどれだけしたのだろう? 

 何を経験すれば、あんな風に悲しみを押し込めなければならなくなるのだろう?

 なのに、あたしは……あの子のことを利用してた。

 命を二回も助けてもらった恩を、ここで返さなきゃ、あたしはクズだ。


 あたしは……何の助けにもならないけど……そばには居られる。


 空挺魔導機兵の銃口がルルリアに向けられ、複数の魔導弾が、眉間へ、心臓へ、腹部へと、正確無比な殺意が放たれた。


「ルルリアさんっ……」


 叫ぶルミナリスは、加速思考に切り替え、ゆるりとした時間の中で幾万と防御救出を試みて、すべて失敗していた。

 最大速度を出してはいるが、やはり間に合わない……。


「させねえよっ。仲間を守るのは海の流儀だっ」


 何処からか声がすると、海中から渦潮が竜巻のように吹き上がり、魔導弾丸を爆発させ、魔導機兵をいくつか叩き落として海の中へ引きこみバラバラにした。

 魔導機兵は脅威判定をすぐさま更新し、海の中へ攻撃を放っていたが、直ぐに動きを止め、あわただしく攻撃体勢を解除し、包囲網を解いて全軍撤収していく。


 魔導機兵に全軍招集の指示がでたのだ。

 赤の領域の指令であることを傍受したルミナリスは、予想外の出来事に安堵し、ルルリアに駆け寄った。


「ケガはないですね? 何故ここに来たのですか? 私に任せてと——」


「ルミィ—— ごめん……ごめんねぇ……あたし……あたし……」


 ルルリアはルミナリスに飛びつき涙を流した。

 ルミナリスはルルリアを抱きしめた後、真っすぐに質問した。


「リシュタ家の子供たちは?」


 その問いに応えるように、海が盛り上がる。

 波しぶきが、人の形を成していった。


「おお。マルッカ様と一緒に、海の大迷宮だ。安心しろや」


 髭面の大男——ジェルヴィス副団長の姿となった波が、そう答えた。

 続いて、ドレッドフィンの面々が次々と姿を現し、軽い調子で口を挟む。


「応、その通りだ」

「問題ねえ」


 彼らは皆、笑っていた。

 だが、その存在はあまりにも希薄で、生者ではないことを、否応なく物語っていた。


「……助けてくれて、ありがとう」


 ルルリアの声が震える。


 ルミナリスは胸の奥で歯車が軋む音を聞き、ルルリアは唇を噛みしめ、涙をこぼした。


「なんだ? 泣いてんのか?」


 波のジェルヴィスが笑う。


「シャンとしろ。二人ともよ」


「……おっちゃんたち、ありがとう。おかげで……まだ、文句言えるよ」


 ルルリアは涙を袖で拭い、精いっぱい明るく声を張った。


「へましてんじゃないよ。海獣の顎だって威張ってたくせにさ……死んじまうってあり得ないでしょ。助けられっぱなしで、借りも返せない……どうすりゃいいのよ、あたし」


 ジェルヴィスは、ゆらりと波を揺らしながら笑った。


「……知るかよ。好き勝手に、楽しく生きろや。小娘」


 笑いながらルミナリスの前に波を寄せ、声を落とす。


「嬢ちゃん……やべえ魔動機が動いてるらしい。オルクス様と合流して、さっさと逃げろ。それに釣られて、もっと厄介なのが来てるそうだ」


 海鳴りのような音が、遠くで響いた。


「……もう時間だ。俺たちは、潮に帰る」


 ジェルヴィスは笑って言う。


「最後の花火……悪くなかったろ?」


「……終わったら酒、飲もうって言ったよね」


 ルルリアは水筒を投げた。


「薬代わりの、度数きついやつ。持ってってよ」


 ジェルヴィスは、さらに大きく頷きながら笑った。

 ドレッドフィンの男たちが一列に並び、足並みを揃えて踏み鳴らす。


「俺たちは、やり切った。後悔はねえ。達者で暮らせよ――嬢ちゃんたち」


 大きな波音とともに、その姿は崩れ、消えた。

 残ったのは、静かな潮騒だけだった。


「……なんだよ。おっちゃん……ずるいよ」


 ルルリアが、泣きながら必死に笑う。


 ルミナリスは杖を両手で握り、目を閉じた。

 アルゲントルム人の祈りの姿で、静かに言葉を捧げる。


「皆様のおかげで、こうして生きています。魂が安らかな旅を終え、星の静謐の彼方で憩われますよう——」


 戦場には、崩れた残骸と、静かな波音だけが残った。

 ルミナリスはホンの少しだけ、祈りの言葉の意味を、その意義を理解したように感じていた。


 空が白み、太陽が顔を出し始める。

 ルミナリスとルルリアは、互いに視線を交わし、歩き出した。

 今度こそ、守れる存在になるために。


次回、イザベラが最悪の形で動きます。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

楽しんでくれたなら、とても嬉しく思います。

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