第9章 ベリスティアの攻防Ⅸ ~ ベルセクオール 魔眼部隊の戦い
自慢の力は普段振うことは許されていない。
だからこそ、制限なしで振えることが楽しくてしょうがないのだ。
(……さぁ、お人形たち—— “踊って”ください)
ヴァルタの声が、静かに戦場へ“霧”を撒いた。
一帯の魔力波形が歪む。
~本文より
ゼイロスは、メルケスの複眼全てに干渉し、情報処理を混乱させるべく、魔力の流れを阻害していた。
(隊長。敵方の索敵阻害、解除しました。通信網に干渉可能です)
魔人メンタリス族のヴァルタは、魔法によらない精神波で、感情や思考に直接影響を与えられる。その範囲は魔獣や魔蟲にまで広範囲に及ぶ。
通信網のエーテルにすら意識を載せて飛ばせる、敵に回ればある意味もっとも厄介な相手であった。
「ああ、皇帝陛下のお許しがある。制限なしだ……」
魔人種であるが普段おとなしく、どちらかというとおどおどしているヴァルタが、妖しく微笑んだ。
気の弱そうな中性的な見た目ではあるが、やはり魔人種である。
自慢の力は普段振うことは許されていない。
だからこそ、制限なしで振えることが楽しくてしょうがないのだ。
(……さぁ、お人形たち—— “踊って”ください)
ヴァルタの声が、静かに戦場へ“霧”を撒いた。
一帯の魔力波形が歪む。
前進しようとした指揮車の周りに従う、蜘蛛魔人部隊の足が、一斉に止まった。
「敵が……多数展開中? 敵影は何処だ?」
「裏切り者がすぐ隣にいるだと、即時排除する」
「多数被弾……撤退準備を開始、了解」
「なっ……何これっ? 視界と脚部制御が……制御できない!」
メルケスが驚きの声を上げる。
ゼイロスは冷徹な殺気を放ったまま、指示を出した。
「ヴァルタ、“もっと派手に”だ」
(了解。〈幻惑領界〉……さあ、頼もしい兵士達よ……目の前の敵を討て)
森が揺らぎ、煙のように広がる幻影領域が敵陣を覆った。
狼の機械兵が、猪の強化兵が、蜘蛛機兵が、次々に混乱し、同士討ちを起こし始める。
銃声、悲鳴、魔力炸裂。
魔眼部隊は四名で、ヴァラル旅団をくぎ付けにしていた。
しかし、メルケスは損害にも動じず、軽やかな声を上げた。
「……素晴らしい。流石はベルセクオールの強者部隊の本気ね……準英雄級ってところかしら」
蜘蛛魔人の軽やかな笑い声が、凄惨な戦場に怪しい色を添えた。
「こちらの実力もお見せしないと—— フェアではないですものね。ゆっくりと味わってね。リミナ・マキナ—— 始動」
メルケスの指揮車が防御膜に覆われるとともに、奇妙な魔力波があたりを覆った。
途端にゼイロスの体毛が逆毛立つ。
アルーザが破壊の力を、セリオが暗殺の力を、ヴァルタが傀儡操演の力を、縦横無尽に振るい、この戦場は完全支配したはずであった。
しかし、獣の本能が恐怖を告げている。
そして残念なことに、この勘は外れたことがなかった。
遠く離れた帝国のさらに外れにある巨大研究拠点—— 『知恵の方舟』の奥深く、帝国十二星将の一人、金の異端者と別名のあるニル=エルヴァ・アセティールは、散らかった設計図を押しのけ、点滅しているリミナ・マキナ起動通知を見て、ふっと微笑んだ。
いつも不機嫌な顔をしたエルフの魔導科学者にしては、随分と上機嫌であった。
「あれはまあまあだけど、停止機能がうまく働かないんだったけ。試験品だし、あとで改良するとして、結果、被害—— じゃなかった戦果とその過程の記録も貰おう。赤の宰相に伝えないとなぁ」
端正ながら、やや青ざめた顔色にゆがんだ笑いが浮かんでいた。
「さて、兵器として正しく運用できるか? それともただの殺戮機械となるか—— お楽しみだな。性能が違うやつをそれぞれ作ってみたし、面白い結果がでるといいなぁ。レヴィにもれても、イザベラが何とかするだろうし……」
ぶつぶつと独りつぶやきながら、巨大な魔導機械が立ち並ぶ迷宮の中に姿を消した。
次回、追い込まれているルミナリスたちを描きます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
しっかりと書いていきます。




