第9章 ベリスティアの攻防Ⅴ ~ ルミナリスとルルリアの意地と
ルルリアは跳躍し、ルミナリスと子供たちの前に着地した。
「十数えるまで息を止めて! この空気を吸うと、体が動かなくなるから!」
彼女の声は澄んでいた。戦場でさえも、恐怖を感じさせない。
ルミナリスは、周囲を防御結界で覆いながら、ルルリアの動きを解析していた。
魔力反応の変化、呼吸、筋肉の収縮角度――すべてが理に適っている。
本文より
「――させないよっ!」
ルルリアは鋭く叫び、帝国精鋭兵たちの刃の雨の中に飛び込んだ。
体をわずかにひねる。刃がかすめ、風が頬を切る。
その瞬間にはもう、兵士の背後に回っていた。
「痛いから覚悟してネッ」
突き出した拳の合間からはみ出している金属の棒が、鎧の継ぎ目を正確に叩き、兵の身体がくの字に折れる。
ルルリアは間髪入れず、腰の薬帯から瓶を抜き、足首のスナップで投擲した。
瓶が床に砕ける音と同時に、白い霧が花のように広がる。
薬剤は空気に触れた瞬間に反応し、わずか三呼吸で周囲を満たした。
帝国兵たちは呻く間もなく崩れ落ち、鎧が鈍い音を立てて転がる。
ルルリアは跳躍し、ルミナリスと子供たちの前に着地した。
「十数えるまで息を止めて! この空気を吸うと、体が動かなくなるから!」
彼女の声は澄んでいた。戦場でさえも、恐怖を感じさせない。
ルミナリスは、周囲を防御結界で覆いながら、ルルリアの動きを解析していた。
魔力反応の変化、呼吸、筋肉の収縮角度――すべてが理に適っている。
理論上、帝国の第一級戦闘術師と互角以上。
ルリリアの所属していた『ゴルデンオスト商会』の、末端の構成員まで徹底的な戦闘技術訓練を施しており、実質的な私兵国家と変わらない。
ルミナリスは商会の危険度を黄色の領域に設定した。
物陰に隠れるエルとノエル。
その前に立つライルは、幼い肩を震わせながらも守ろうと歯を食いしばっていたが、安どの息を大きく吐いて慌てて口を抑えた。
ルルリアの勇姿は、子供たち—— 特に女の子のノエルに大きく響いた。
「リミナお姉ちゃん。あたしも、ルルお姉ちゃんみたいになれる?」
ルミナリスは一瞬だけ応答回路を迷わせた。
戦場の最中に、そんな問いが投げられること自体が、未知だった。
そして、掌の中の小さな手の温もりが、微かに回路を震わせた。
「そうですね。きっとなれると思います。ただ、そのためには、まず“大きくなる”ことです。しっかり食べて、眠って、泣いて、笑って。誰かを思い助けられるようになった時、貴女はきっと、ルルリアさんのようになれます」
ノエルは目を輝かせ、
「うんっ!」
と頷き、ルミナリスの胸に飛び込んだ。
エルも負けじと続く。
「ぼ、僕も……!」
ルミナリスの腕が自然に二人を優しく抱きしめていた。
ただ、そう“したい”と思っただけの行動であった。
「二人とも、大きく、強くなってください。私との〝約束″です」
そう言葉を紡いでから、思考領域の演算機能が急激に高まっていることに、ルミナリスは
気づいた。
少しばかり〝調子が良い″が最適な表現だろうか?
ライルはそんなルミナリスの優しい横顔を見つめ、頬をわずかに赤らめて視線を逸らした。
ルルリアはその様子に一瞬だけ微笑み、すぐに周囲を見渡す。
「ルミナリス、まだ来るわ。こっちは私が抑える。子供たちをお願い」
「はい。任せてください。傷一つ負わせません」
魔力探査による警戒領域を拡張。空間波形異常、検出係数を制定。
ルミナリスの瞳が淡く光を放つ。
結界の表面がきらめき、霧の粒子を払いのけた。
髪が風に流れ揺れる中、ルミナリスの表情は凛としていた。
戦場の只中にあって、誰かを護るという、その単純で、確かな想いとともに。
読んで頂いてありがとうございます。
次回 子供たちを逃がす為の行動を計画するルミナリスを描きます。
少しでも楽しんでくれたならうれしいです。




