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機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき
第9章 ベリスディアの攻防

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第9章 ベリスティアの攻防Ⅳ ~ 暗躍 海獣の顎 ファートゥム・ペギーシャ 宿命③

 オルクスとロド・グリムの激突が放った衝撃は、もはや個の戦いという枠を遥かに超え、大きな衝撃音とともに森そのものを震わせ、夜空を切り裂く閃光が稲妻のように空に走った。

 その衝撃波は大いなる魔力波とともに、地を伝い、凪いでいた海に波を立て、魔導計測器に警報をそこここで鳴り響かせている。


「異常な魔力波を検出。南の森からです。この数値は赤の領域と断定—— 第一級対応案件に制定されます」


 観測分析官の発言にベリスティア海軍司令ヴァンソン提督は、苦虫を嚙み潰したように顔を歪めた。


~本文より

 帝国の軍艦や漁師の船であふれかえっているベリスティア港は神聖王国連合、戒厳令も出されているとあって、誰もが息を潜めているかのように静まり返っていた。

 魔導機兵や帝国兵の明かりが辺りをなめまわすように、不審な動きをする者がいないか警戒している。


 そんな最中であった。

 オルクスとロド・グリムの激突が放った衝撃は、もはや個の戦いという枠を遥かに超え、大きな衝撃音とともに森そのものを震わせ、夜空を切り裂く閃光が稲妻のように空に走った。

 その衝撃波は大いなる魔力波とともに、地を伝い、凪いでいた海に波を立て、魔導計測器に警報をそこここで鳴り響かせている。


「異常な魔力波を検出。南の森からです。この数値は赤の領域と断定—— 第一級対応案件に制定されます」


 観測分析官の発言にベリスティア海軍司令ヴァンソン提督は、苦虫を嚙み潰したように顔を歪めた。


「赤の領域だと? バカな、あの森は監視対象外だったはずだ……!陸戦部隊は何をしているっ!」


 副官が蒼白な顔で報告書を差し出す。


「南の森の異常波は、観測内容から英雄種の戦闘の余波であると特定されました。皇帝勅書も布告されており……ベルセクオール総司令の名前もございます」


「白の将軍の遠征を三度退けた、災厄の獣王グリムか……勝手なことを……」


 艦橋に一瞬の沈黙が落ちた。

 次の瞬間、提督は叫ぶ。


「イザベラ・カリス閣下がいらっしゃっているのだ。無様な姿は見せられん。機甲海兵隊を現地に出撃させろ。魔導機兵は哨戒任務を維持!アリシノーズと獣人兵は市街と南の森の警戒に再配置だ。各艦、支援砲撃の準備!」


 怒号とともに艦内が一斉に動き出した。

 警笛が鳴り、甲板を魔導機兵の脚音が震わせ、指令灯が紅く明滅する。

 ベリスティア港はまるで巨大な鉄の獣が息を吹き返したようにざわめき始めた。

 帝国の鉄の鼓動が夜の海に響き渡り、戒厳の港に再び戦の気配が満ちていく。


 その喧噪は、倉庫街の奥、海風の通わぬ地下にも届いていた。


 潮の匂いと鉄の臭気が混じる狭い酒場『青の碇亭』。

 その奥では、海賊にも見える荒くれ者たち、だが実際は訓練された精鋭海兵――ドレッドフィン隊が息を潜めていた。


 副長ジェルヴィスは、太い腕を組んでテーブルを叩きながらぼそりと呟いた。


「……何だか知らねぇが、足並みが乱れやがったな。さっきの魔力衝突のせいだろう。あれだけの揺れ、帝国の連中も上を下への大騒ぎってわけだ」


 床下の隠し板を外した隊員が、顔をしかめながら報告した。

 板の下には、帝国の紋章入りの時限式炸裂弾と、爆裂火炎の魔導符が張られた樽いっぱいの油。

 港一帯を火の海に変えかねないほどの量だ。


「副長……こんな危ないもんの上で火ぃ使ってたんですか? ドカンといったらどうするつもりだったんです?」


 ジェルヴィスは大きな顎髭を撫でて、ニヤリと笑った。


「そんときゃあ、間抜けの最後を飾る大花火だ。骨も残らんが……まぁ、見ごたえはあるだろ? 自分で見られないのが残念だがな」


 隊員たちは小さく笑い声を漏らす。

 だが笑いの奥には、静かな覚悟が漂っていた。


「準備完了。導火線の点火も、魔導符の同調も済んでます。あとは号令ひとつです」


「よし……」


 ジェルヴィスは低く息を吸い込み、顔を上げた。


「いいか、野郎ども。ここから俺たちは“撒き餌”になる。魔力波をでっけぇ魚の血みてぇにぶちまけて、帝国の連中を引き寄せる。そしたらこの店ごと帝国の基地もまとめてドカンだ。派手に騒ぎ立ててるうちに—— ルミナリスたちが港を抜ける。仲間を助け、務めを果たせ。お前たちは何だ?」


「我らは雄々しき海の牙、荒波すら切り裂くドレッドフィン」


「潮は流れて居るのかっ」


「潮の流れはこの身の中に。我らの誇りと共にある」


「強き背びれにかけて、誓えるかっ」


「ドレッドフィンの背びれにかけてっ!」


 十数名の海兵が声を揃え、床を一度だけ踏み鳴らした。

 それが合図となり、『青の碇亭』の灯がふっと消え、海風に乗るかのように、彼らは音もなく夜の海へと散っていく。


 最後に残ったジェルヴィスは、

 古びた鉄球――海神の印が刻まれた導雷符のついた“起動球”を手に取る。


「……頼んだぜ、ルミナリス嬢ちゃん。こっちは派手にやっとく」


 そう呟き、彼は鉄球を海へと放った。

 小さく波が立ち、鈍い青光が水面を走る。


 次の瞬間――

 港の海底で、魔導の紋章がゆっくりと光り始めた。

 潮の流れが変わり、海が脈打つように震える。


 帝国がまだ知らぬ“海の怒り”が、今、目を覚まそうとしていた。


次回 ルミナリスとルルリアの闘いを描きます。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

少しでも楽しんでくれたならうれしいです。

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