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機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき


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第1章 魔導機兵ルミナリスⅥ ~張り巡らされた謀略

お嬢様を守るために—— ただその為だけに私は存在するのです。

魔導機兵ルミナリスは、迷うことなく判断した。

 最初に違和感を覚えたのは、帝国軍による周辺戦力の「過剰な」展開だった。


 都市アヴァイヴァからは、目視も索敵も届かぬ高空。

 そこに、移動空中要塞『緑天の舞塔エーテルドミナシオン』が密かに配備されている。その情報を、私は入手した。


 私のように将官機能を持つ魔導機兵が、貴族令嬢付きの侍女を務めている状況など、誰も想定していなかったのだろう。

 特秘情報ではあったが、私には閲覧制限がない。傍らにいた第一位憲機兵から、その機密を引き出すのは容易だった。


『緑天の舞塔:エーテルドミナシオン』は、帝国が誇る決戦兵器・空中城塞である。


 魔導機械技術の進化は、時に偶然から革新を生む。

 通信魔導機の研究中に発見された『魔力波における妨害干渉波の混合による破壊的現象』――

 それは、魔力波の共振が引き起こす、爆発的な破壊現象だった。


 当初は遠距離高速通信技術として開発が進められていた。

 だが、防御魔法陣や諜報妨害魔法との干渉が激しい共振を生み、やがて壊滅的な破壊波へと変質することが確認される。


 帝国科学技術院の特殊研究施設が、事故により丸ごと消滅した事例は、その威力を如実に物語っていた。

 この現象は『マアベラト』と命名され、やがて研究の末に、大精霊すら貫く兵器として応用されることになる。


 その象徴こそが、『緑天の舞塔』である。

 膨大な予算と高度な魔導技術を投じて建造された空中要塞は、未だ実戦投入こそされていないものの、実験では大精霊や神獣をも含めた、あらゆる存在を消滅させる破壊力が記録されていた。


 その要塞が、極秘裏に展開されている。


 赤の宰相の御前に並ぶ参加者の情報を整理し、私は一つの結論へと至った。

 これは、神聖王国連合の指導層の弱体化と、戦争を名目に汚職を重ねてきた帝国貴族の粛清を同時に図る策略である。


 そして、その罪のすべてを神聖王国側の不手際へと帰し、大規模侵攻の正当性を得ようとしている。


 空中要塞『緑天の舞塔』の出撃命令を下せるのは、皇帝、もしくは帝国中枢・十二星将のみ。

『赤の宰相』イザベラ・カリスは、その十二星将の一角にして皇帝の寵臣。

 この計画の全容が彼女の掌中にあると仮定しても、何一つ不自然ではない。


 私は、傍らにいた第一位憲機兵に命じた。


「現在展開中の空中要塞の武装詳細を、直ちに報告せよ」


 返答は、冷たかった。


「当該情報は皇帝令三〇三号の下、秘匿指定。閲覧は許可されません」


 皇帝令三〇三号――特別軍事作戦における超法規的指令。

 必要とあらば、あらゆる妨害を排除しうる命令だ。


 このままでは、お嬢様ヴェリットの退避手段さえも奪われる。

 私は即座に決断した。

 倫理管制機能が警告を鳴らすのを無視し、第一位憲機兵の腕を取ると、

 魔導片結晶に向けて、出力限界を超えた魔力波を叩き込んだ。


 中枢機能を強制停止させる。

 続けて記憶領域を一部上書きし、偵察用の超小型魔導機『蟲』の制御権を奪取。

 緊急走査を開始する。


 再展開された偵察群『蟲』が映し出したのは、見事と言うほかない退路の完全遮断だった。


 これは、外敵を拒む防衛ではない。

 内部の逃亡者を封じるための包囲網だ。


 もはや、一刻の猶予もない。


 私は密かに工作を進め、ヴェリットお嬢様を、この地獄から退避させねばならなかった。

 最も確実な方法は、〝赤の宰相〟イザベラ・カリスと共に退避し、自然な形で同行すること。


 彼女は皇帝の代行者としてここに在る。その行動に、誰も異を唱えられない。

 しかも、彼女自身が囮としてこの場に姿を現した可能性が高い。

 皇帝の信頼厚い彼女の参加は、帝国が和平に本気であるという印象を世界に与える布石になる。


 つまり、宰相イザベラの退避計画は、すでに緻密に用意されているはずだ。

 偶然を装ってその退避行動に巻き込まれることができれば、お嬢様の命は救われる。


 だが、イザベラの知略は並大抵ではない。

 小さな違和感すら、即座に看破するだろう。


 ならばこちらも、偶然を「演出」せねばならない。

 彼女の前で、自然に助けを乞うしかない状況を。


 その結論に至った私は、忌むべき決断を下した。


 ヴェリットお嬢様に、一時的な「毒」を盛る。

 もちろん、命を奪うものではない。

 護衛としてはあるまじき行為だが、他に選択肢はなかった。


『白亜の精霊宮』は、あらゆる毒物を感知し、魔法防衛術式によって中和・無効化する。

 だが、体質に基づく食材の組み合わせによる“体内での有毒化”までは防げない。


 私はお嬢様の体質を、誰よりもよく理解している。


 ピリ辛香辛料リューゲントウィードを使った淡白な魚料理。

 蜂蜜たっぷりの焼き菓子。

 口当たりのよい蒼花茶。


 この三つを短時間で摂取すれば、お嬢様の身体は、確実に強い拒絶反応を示す。


 中和薬を用いれば、すぐに回復が見込める上に、魔法による具体的特定は困難。

 常備薬も、私の手元にある。


 私は、この隠密作戦の遂行に必要な手順を綿密に立案した。

 全行動の達成確率と所要時間を数値化し、最短での実行計画を確立する。


 イザベラ・カリスは怜悧で冷徹だが、冷酷ではない。

 私が帯同できるなら最善。そうでなくとも、お嬢様を逃がすためなら、私が囮となる覚悟はできていた。


 煌びやかに着飾った人々が笑い交わす中、

 私は警備兵の武装を観察しつつ、運ばれてくる料理の内容を確認していた。


 そのとき、ヴェリットお嬢様が私に気づき、穏やかな笑みを向けてくださる。


 ——必ずお守りいたします。何を犠牲にしようとも。


 私はその微笑みに誓いを新たにし、行動基準を最終決定した。


第1章 魔導機兵ルミナリス 物語が次回から大きく動き始めます。

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