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機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき
第9章 ベリスディアの攻防

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第9章 ベリスティアの攻防Ⅲ ~ 王狼と守護剣聖 ファートゥム・ペギーシャ 宿命②

高らかな雄たけびが空気を震わせ森の中に木霊した。

 機械化されている獣人兵部隊は感情を制禦されているにも関わらず、その雄たけびに本能的にすくみ、動きを止めた。


「神獣ルーン、その力をこの身に顕現せよ」


 声と同時に巨大な光の戦鎚が闇を切り裂き、オルクスが隠れる岩陰へ空気すら粉砕するかのように突き進んでいく。

雷霆の速さのその一撃に対しオルクスは天を仰ぎ時間の狭間の緩やかな流れの中、魔剣アシュラムに詠った。


「刻まれし力名は疾風、勇名は剛断—— フェルス・フォルティス!」


~本文より

 重ねて、アシュラムが紫電を帯びた。

 放たれた斬閃は、離れた位置の敵兵三人をまとめて貫き、爆裂の焔が夜の森を染め上げる。

 オルクスが舞うたびに火花が散り、鉄が唸り、踏みしめるたびに大地が震えた。


 老いたりとはいえ、剣聖の名を冠する大英雄。

 その一太刀一太刀には、神話の領域に至る冴えが宿っていた。

 夜の森に、斬撃の轟音と咆哮が木霊する。

 ——その時である。


 うぉおおーおん。うぉおんおおーん。


 高らかな雄たけびが空気を震わせ森の中に木霊した。

 機械化されている獣人兵部隊は感情を制禦されているにも関わらず、その雄たけびに本能的にすくみ、動きを止めた。


「神獣ルーン、その力をこの身に顕現せよ」


 声と同時に巨大な光の戦鎚が闇を切り裂き、オルクスが隠れる岩陰へ空気すら粉砕するかのように突き進んでいく。

雷霆の速さのその一撃に対しオルクスは天を仰ぎ時間の狭間の緩やかな流れの中、魔剣アシュラムに詠った。


「刻まれし力名は疾風、勇名は剛断—— フェルス・フォルティス!」


 詠唱と共に剣が解き放たれる。旋風を巻き上げ、大地をも斬り裂く巨人族の威力が込められた剣閃が光の戦鎚に真っすぐ振り下ろされた。

 轟音と閃光があたりを覆いつくし、地響きであたりが揺れる。空気が爆ぜ、森の巨木が根こそぎ吹き飛ぶ。

 天と地がひっくり返るかのような力の衝突が、森の奥深くに奔る。

 火花と雷光が交錯し、瞬間、夜が白昼に変わった。

 辺りにいた獣人兵たちは僅かな残骸を残すのみとなり、他の獣人兵たちは硬直したように動けず、視線を一点に集中させていた。

 その中心にはにらみ合う二人の英雄、守護剣聖オルクス・フルミニスと獣人族の王狼にしてベルセクオール総司令ロド・グリムの姿があった。


「本気で灰に変えるつもりで挑んだのですが……やはり、これくらいでは倒せませんか……流石はオルクス殿……」


「久方ぶりじゃ。相も変らぬ技の冴えよの……息災のようじゃな。王狼ロド殿」


 爆炎の残光が二人の輪郭を焼き、緊張と殺気のない静かな対峙が、かえって戦慄を誘いながら、二人の姿を夜の闇から浮かび上がらせていた。

 響いてくる轟音を耳にしながら、ゼイロスは、ロド・グリムからの依頼に従い、魔眼部隊を率いて周辺の機械化部隊の動きを抑えるべく、機械化部隊グランネティア兵団の頭脳である蜘蛛の魔人と会談していた。

 銀狼族の王狼であるロドの一戦を汚すわけにはいかないのだ。その為、何が何でも協力を取り付ける必要がある。


「……ということだ。皇帝陛下の勅命も頂戴しているし、伝説の敵を倒したという栄誉も譲る。ロド閣下の戦いに干渉するな。それが陛下の御意向だ」


 赤眼にほんのりとした殺気を載せて、己の戦闘衝動を抑えつつ、グランネティア兵団の核でもあるヴァラル旅団団長メルケスと対話を試みていた。


「あら、随分とご親切にしてくださるのね。ありがたいわ」


 メルケスは女の声で柔らかく笑う。

 だがその笑いは、頬ではなく胸郭の奥から響く奇妙な音――まるで、蜘蛛が獲物を包みながら鳴らす音のようだった。何を見据えているのかわからない。

 上半身はかろうじて人型だが、腕が四本あり、下半身は蜘蛛の姿に糸のような魔導機械が別の魔導機械につながっている。


「いいでしょう。赤の宰相イザベラ様へは何とでも報告できますから。ただし、包囲陣形は固持しますし、あなた方ベルセクオールの総司令がしくじった場合は、すぐさま攻撃再開としますので、そこは理解してくださいね?」


 要請ではなく、まぎれもない宣告だ。

 ベルセクオール部隊の被害など顧みない殲滅作戦を展開すると宣告しているのだ。

 声の抑揚は明るくはっきりしている分、その存在の雰囲気からくる違和感に、ゼイロスは内からあふれる怖気と殺意を抑えるのに必死だった。


 魔人種の化け物が……。


 蟲の魔人の祖はその昔悪魔が戯れに蟲と融合したことから始まるといわれている。一方獣人は精霊を祖とする者たちが殆どで、魂自体が相容れないのだとまことしやかに伝わっていた。

 そして、理屈抜きで殺気を抑え込めないゼイロスもその通りだと確信している。


「感謝する。メルケス団長……」


 ゼイロスは声を振り絞り挨拶を交わすとその場を後にした。


(隊長……思考が赤に染まっています。干渉しましょうか?)


 頭の中にヴァルタの声が直接響く。


(いいや、問題はない。大丈夫だ)


 頭の中でそう答えて、ゼイロスは一息吐くと、喉輪で待機しているベルセクオール部隊魔眼部隊に、


「各自、現状のまま警戒態勢を維持だ。グランネティアの蟲には話がついた。アルーザ、もしもの時は指示を出すので、その時まで戦力は温存しておいてくれ。ヴァルタ、頼んだぞ」


 と魔眼部隊に聞こえるように指示を出した。


 ベルセクオール総司令のロド・グリム自らの出陣だというのに、供を依頼されたのはゼイロスのみであった。

 これもロドならではの矜持なのだが、副官のノビリスに知られたら、なぜベルセクオール全軍をもって対応しなかったのか? なぜ自分に相談しなかったのか? などなど、最悪八つ裂きにされるくらいには追い詰められるだろう。

 王国の残党狩りの時の黒牙隊の壊滅の要因は、かの英雄であると確信している。

 そして、その英雄と相対して、負ければ己の過ち、勝てば己の正義に過ちは無い—— そう自分の判断を運命に裁定してもらうために、ロドはエルフの大英雄に挑んでいるのだ。


 帝国の内部から獣人族の未来を勝ちとるべく、守るべき獣人たちから裏切り者の汚名をどれだけ投げつけられても反論すらせず、ひたすらに直向きに、自分のすべてをかけて臨むその姿にゼイロスは心服していた。

 剣猫族の生き残りのために帝国の実験生体兵器となった自分を許せずにいたゼイロスは、ロドの生きざまに、自分自身が戦い生き残ることの意味を見出すことができたのだ。


 ゼイロスは空を見上げた。

 雲の切れ間から、稲妻が一筋、天を貫く。

 その光は、まるで神が戦場に視線を落とすようだった。


「……さて。英雄譚の結末を、誰が語ることになるか——」


 その呟きは、誰の耳にも届かず、ただ夜の風に消えた。


次回、宿命の闘いが大地を覆います。


ここまで読んでいただきとても嬉しく思います。

ありがとうございます。

少しは面白く読んで頂いたでしょうか?

しっかりと書いていきます。

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