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機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき
第8章 禍根

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第8章 禍根Ⅻ ~ 神獣の血脈

マルッカはニヤリと笑った。


「女に褒められるのも悪かぁ無いね。で、ルルリアさんはこんな姿を思い浮かべているのかい?」


 言葉と同時に、その体が膨れ上がる。

 二回りも大きくなり、背に黒い背びれが伸び、顔は裂け、大口に鋭い牙が並び、倉庫の空気が一瞬にして海の深淵のように冷え込む。


~本文より

「……あれは……ただの娘の顔か?」


「いや……剣も振るわず、兵から秘密を吐かせた……魔法使いだな……」


 力ではなく“理を支配する美”が、そこにはあった。海の荒くれ者でさえ、言葉を語らず、目を逸らせない。

 ルルリアは周りの男たちの様子を見ながら、笑みを浮かべてぽつりと呟く。


「うちのルミィは……優しくて……凄く綺麗なんだよ……そしてちょっと怖い」


 静けさが周囲の音をすっかりと包み込み、風すら止んだような気がした。


「思った通りだな。流石はアルゲントルム人。魔法が上手いじゃねえか」


 年かさの髭混じりの大男は手を叩きながら、一歩、二歩とルミナリスに近づいた。

 その眼差しは荒くれ者のものではなく、長い年月を生き延びてきた者だけが持つ、記憶と確信の重さを帯びていた。


「太陽の乙女、ソラデア・アルクス。王国の誇りにして、救国の英雄と謳われた天才大魔法使い……お前は、あのソラデアとよく似た顔をしている。他人の空似じゃねえだろ?」


 ざわめきが起こり、酒に焼けた頬の男たちの目が、畏れと驚きに大きく開かれる。

 ルルリアは思わずルミナリスの横顔を振り返り、息を呑んだ。


 年かさの男はさらに続けた。

 その指先が、ルミナリスが手にしていた杖を指す。欠け、砕け、輝きを失った古き杖。


「それは……栄光の星の杖『アストラ・ルーメ』……王国の至宝にして、星を掲げたあの乙女の証そのものだ。壊れていても見間違えるはずもない」


 ルミナリスは思わぬところで出てきたソラデアの名前に、ほんの少し希望をもった。

 自分に課せられた使命への助けになるかもしれない。


「助けを求めている身の上ですが—— 聞かせてください。ソラデア様をご存じなのですか?」


「ああ。良く知っているとも。俺の名はジェルヴィス・グレイ、皆が言う 海獣の顎 の生き残り—— ドレッドフィン隊副隊長だ。何度か大魔法使いとは戦場を共にしている。此処にいる奴らは皆そのことを知っているさ。お前さんそっくりの顔だったよ」


 その一言で空気は重くなり、倉庫は静まり返った。荒くれ者たちの荒い息すら止まったように思える。


「だからこそ簡単に手は貸せない。お前さんはソラデアに繋がり、消えたアルゲントルム人に繋がる……帝国が喉から手が出るほど欲しい情報に繋がる一番の厄介ものだ……」


 ざわめきが起こり、荒事と潮風に晒されてきた男たちの目が、畏れと驚きに大きく開かれる。

 ルミナリスは頭上に高く杖を掲げ、高らかな声で告げた。


「ソラデア様は……私に使命を託し、王都防衛戦の折、託宣の巫女様とともに果てられました。あのお方は—— 今、星の静謐の彼方で巫女様と安んじられておられます。自分だけのことであれば私一人でも何とでもできますが—— 今助けたい対象はリシュタ家の子供たちです。あの子供たちと対魔導機兵の遺産を守るには、私たちでは大いに力不足です。オルクス様から何かお聞き及びではないでしょうか?」


 年かさの大男ジェルヴィスは、息を大きくはくと、真っ直ぐな鋭い視線でルミナリスを見つめた。


「何で、俺たちが伝説の守護剣聖様とあっていると思うんだ?」


 ルミナリスは杖を三回ついて、意見を述べた。


「まず、オルクス様をあなた方が認識できていない、という事は想定できません。帝国の追及をかわすために、耳と目が町中に張り巡らされているはずです。あなた方がオルクス様を見逃すはずも無いし、オルクス様もまた同じです。きっと何か私たちのことをお話しされているはずです」


「ああ、その通りさ。聞いているよ。筋の通った理の娘だってな。……英雄様の言った通りだ。なあ、皆、随分と肝の太いお嬢さんじゃねえか。肝の太さじゃ太陽の乙女以上だな」


「いえ、ソラデア様のような大魔法は私には扱えません。同じ戦力として捉えないで頂きたいのですが……」


 間髪入れないルミナリスの真っ直ぐな否定に、海の荒くれ男たちは声をあげて笑った。


「何だ—— 正直者のおねえちゃんだな」

「アルゲントルム人だからな。俺達みたいな考えなしと比べちゃなんねえ」


 皆が声を出して笑っているところに、


「もう十分だろ。ジェルヴィー」


 倉庫に響いた女性の厳しい声が、荒くれどもを一瞬で黙らせた。

 黒い肌に紅い瞳、均整の取れた体躯には一切体毛がなく、白い紋様が淡く浮かび上がる女戦士が歩み出る。

 背の高さも、大男であるジェルヴィスよりも頭二つ高く、ただの人であるはずもない。


「ルミナリスとルルリア、だね。あたしはマルッカ・バール。ドレッドフィン隊の頭だ」


 ルルリアが意外そうな顔で、マルッカに目をやった。


「海獣の顎の頭がこんなな美人なはずが——」


 マルッカはニヤリと笑った。


「女に褒められるのも悪かぁ無いね。で、ルルリアさんはこんな姿を思い浮かべているのかい?」


 言葉と同時に、その体が膨れ上がる。

 二回りも大きくなり、背に黒い背びれが伸び、顔は裂け、大口に鋭い牙が並び、倉庫の空気が一瞬にして海の深淵のように冷え込む。


「わかったかい。全部元の姿になればこの倉庫を潰しちまう」


 マルッカはそう告げて、再び元の人の姿に変じた。


「この姿の方が、アリシノーズと過ごすには便利が良いんだ」


 そう告げると、ルルリアに片目を瞑りキスを投げ、途端にきびきびとした表情に変わった。


「仲間には力は貸してやるさ。それが海の流儀だ。そうだろうお前らっ」


 あおるマルッカに海の荒くれ共は、雰囲気をがらりと変え、訓練の行き届いた兵士として足並みをそろえて、無言で足踏みを一つ高らかに鳴らす。

 マルッカは満足げに頷くと、ルミナリスを見ながら、からかうように語った。


「あとさ。ここを出た港の海底にはエテルナって隊員が常時詰めているから、ヴェロキリアみたいに退治しないでおくれよ。お嬢ちゃん?」


 背筋を伸ばし、海の兵士然とした統制がとれている男たちが、一瞬ざわめいた。

 その様子にマルッカは満足げに迫力のある笑みを浮かべると、言葉を続けた。


「いいかい? このアルゲントルムの美人のお嬢ちゃんは、水の中のヴェロキリアと相対して、生き延びるどころか斃しちまうようなお嬢ちゃんだ。見くびるとあんたらも喰われちまうよ。強いものには敬意を払えっ」


 ジェルヴィスを含めた男たちは再び無言で、足を一つ踏み鳴らす。

 マルッカは陽気な顔でルミナリスを見た。

 ルミナリスは小さく、


「感謝します」


 と伝えると続けて問いかけた。


「エテルナ様は龍族のお方ですか?」


「ああそうさ。海蛇竜族で西海龍王の加護持ちだよ? いい子だから海魔と間違えないように頼むよ」


 ルルリアは迫力のあるマルッカとルミナリスのやりとりの端々に、様々な意図が渦巻いているのを理解しており、


「流石は、海獣の顎の頭ね。それに堂々と対応するルミィも……二人とも、こわっ……」


 と呟いていた。


次回、ルミナリスと百戦錬磨の部隊との共同作戦がはじまります。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

少しは面白く読んで頂いているでしょうか?

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