表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき
第8章 禍根

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/114

第8章 禍根Ⅺ ~ 海獣の顎、王国海戦部隊 ドレッドフィン

若者が、倉庫の隅に控えていた仲間に樽を運ばせてきた。

 乱暴に放り出された樽の中からくぐもった悲鳴が聞こえ、縄で縛られた帝国巡察兵が一人、口を布で塞がれたまま転がりでできた。まだ若い帝国兵で、恐怖に怯えた瞳をしている。


「こいつをどうするか……見せてもらう。帝国兵をどう扱うかで、お前らが何者か分かる」


 倉庫の奥で再び炎がぱちりと爆ぜ、赤い光が揺れた。

 海の男たちは一様に無言のまま、しかし期待と殺気の入り混じった眼差しでルミナリス、ルルリアを見つめていた。

~本文より

 魔導ランプと松明の炎に影が揺らぎながら見せつけた光景は、壁際にびっしりと並べられた研ぎ澄まされた槍と剣、磨き上げられた魔導銃や切っ先が光を放っている銛などの沢山の武器、魔導紋様を刻まれている盾や鎧、不思議な色合いの鎖帷子が並べられ、今すぐにでも戦闘に出向きそうな準備が為されている。


 かつて王国の海軍随一と周辺国家を恐れさせた海獣の顎で間違いない。


 そこには十数人の男たちがいた。誰もが荒波に削られたような面構えで、瞳だけが異様に鋭く光っている。

 その中の一人がルミナリスを見据え、低く告げた。


「……お前たち、ただの逃亡者じゃないな。赤の宰相の網を掻い潜って来た……理由を聞こうか」


 ルルリアが前に出ようとした時、ルミナリスが視線で制すると、自ら一歩前に進み、抑揚のない声で応じた。


「私たちは敵対するために来たのではありません。——救うべき人たちがいます。帝国にとっては見逃せない重犯罪者であり、王国にとっては重要人物です。ただ、その人たちは戦う力も逃げる術ももたない人たちなのです。何とか逃がしてあげたい—— その為の、力を借してくださいませんか?」


 倉庫の奥で炎がぱちりと爆ぜ、男たちの顔を赤く照らす。

 静寂ののち、彼らの中に笑みが浮かんだ。

 だがそれは陽気さとは無縁の、獲物を前にした者達の見せる笑みだった。


 二人を見定めていた頭に日よけの布を巻きつけた若い男が何やら、中央に位置する男に耳打ちする。耳打ちされた年かさの髭に白髪の混じった大男が、並の者なら意気消沈してしまうような迫力と共に歩み出てきた。眼つきや足運びには当然の如く隙なぞ無い。

 ルミナリスもルルリアも気圧されることなど無く、真っ直ぐに見つめていた。


「面白ぇ。肝が据わっている嬢ちゃん方だな……だがここは、ただの寄り合いじゃねえ。帝国に牙を剥く者の会合だ」


 そう言うと、大男は後ろに立つ若い男に目で合図を送った。若者は頷くと奥へと消え、大男はそのまま言葉を続けた。


「お前らの証を見せてくれ。ここにいる者は、昔も今も変わらず、命を懸けて帝国とたたかう男たちばかりだ。俺たちの信用は安くはない。それなりの覚悟を示せ」


 沈黙が落ちた。

 ルミナリスは静かに更に一歩踏み出し、海の男たちの視線を正面から受け止めた。

 ルルリアは相手の一挙手一投足を見逃さず、すぐさま反撃に出られるよう体の力を抜いた。

 静かな緊張感の中、ルミナリスの穏やかな声が響く。


「証とは何でしょうか?」


 若者が、倉庫の隅に控えていた仲間に樽を運ばせてきた。

 乱暴に放り出された樽の中からくぐもった悲鳴が聞こえ、縄で縛られた帝国巡察兵が一人、口を布で塞がれたまま転がりでできた。まだ若い帝国兵で、恐怖に怯えた瞳をしている。


「こいつをどうするか……見せてもらう。帝国兵をどう扱うかで、お前らが何者か分かる」


 倉庫の奥で再び炎がぱちりと爆ぜ、赤い光が揺れた。

 海の男たちは一様に無言のまま、しかし期待と殺気の入り混じった眼差しでルミナリス、ルルリアを見つめていた。


「私がやります」


 ルミナリスは囚われた帝国兵へと躊躇うことなく近づき、耳元で囁いた。


「大丈夫です。貴方の身を傷つけることはしません。落ち着いて下さい」


 優しく額に手を当てて、魔力波を振動させて直接脳へと送り込む。

 荒くれの海の男たちは、腕を組み、壁にもたれ、ある者は煙草の葉を噛みながら、ルミナリスを値踏みするように見つめていた。


 巡察兵は縛られたまま、歯を食いしばり沈黙を守る。汗が滴り、瞳はなおも頑なに閉ざされていた。


 ルミナリスは進み出て、杖の石突きを軽く石床に打ち付けた。

 ——トン、トン、トントントン、トン、トン。

 倉庫の空気がわずかに震え、囁きのような声が響く。


「疾く伝えよ、真の言の葉、『ヴェリタス・カントゥス』」


 淡い光が兵の頭を包み、重苦しい沈黙を揺さぶる。

 声音は軽く優しく、しかし鋭く、巡察兵の頭の中に入り込む。


「沈黙を強いる帝国の枷を解き放ち、詞を尽くしてください。貴方が知る帝国の真実を皇帝も宰相も聞かぬこの場で—— 帝国がこの地で為そうとしている事柄を、貴方の声で、示してください」


 兵の瞼が震え、喉から押し殺した呻きが漏れる。やがて堰を切ったように、声が迸った。


「赤の宰相……イザベラ様は……鎮圧ではなく……リシュタ家の遺産を探している……リシュタ家の者たちは—— 奴らの血統は……皇帝の禁忌にふれて……いる……徹底して破壊し……根絶せよ……とのご命令だ……秘密がわからなければ……街中を—— 海沿いを—— 徹底的に焼き払う—— 海獣の顎の生き残りも……ついでにいぶりだす——」


 その言葉を吐ききると、兵はがくりと首を垂れ、昏倒した。


「おい聞いたか? 海獣の顎をいぶりだすってよ」

「ひょろひょろの小僧が……よくもまあ」

「めんどくせえ。しめるか?」


 ルミナリスは杖を下ろし、言葉を聞いて荒ぶる周りの海の男たち一人一人に視線を向けて、はっきりと告げた。


「命は奪わないで下さい。情報を奪った以上、無駄な血は不要です」


 その顔は光に照らされ、輪郭はエーテルの燐光を纏い、硬質な美しさを帯び、凛とした瞳は知性と威厳に満ちていた。


次回、海獣の顎の頭が現れます。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

少しでも楽しんでくれたならうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ