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機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき
第8章 禍根

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第8章 禍根Ⅷ ~ 帝国第四等民 ヴァルド

要所要所で監視中の魔導機兵達は、ヴァルドを気にも留めず、ヴァルドもまたそのまま当然であるというように獣人兵にのみ気を付けながら、通路を進み医局を探した。

 途中、巡回監視中の魔導機兵の背中に金属板を張り付けて、


「医局は何処だ? そこにある共振針と静止式血環固定盤 というやつを手に入れたい」


 とあろうことか質問をしていた。

 張り付けられた金属板が淡く明滅すると起動し、魔導機兵の瞳が一度だけ強く発光し、ヴァルドは直立したままその反応を見つめていた。

 魔導機兵の音声機構が作動する。無機質な声が、空気を震わせた。


~本文より

 海岸線を少し進んだ入江の先、海を見下ろせる高台に帝国の第七兵舎はあった。重要施設ではなく、兵器の類もない為警戒は然程厳重ではないとはいえ、魔導機兵がそこかしこに配置され周辺を見渡している。


 ヴァルドはその様子を見ながら表情すら変えず、黒い外套とフードを目深にかぶると、入り口に向けて黒い金属製の球状のものを投げ、一呼吸おいてから姿を隠そうともせず、建物の中へと向かった。


 要所要所で監視中の魔導機兵達は、ヴァルドを気にも留めず、ヴァルドもまたそのまま当然であるというように獣人兵にのみ気を付けながら、通路を進み医局を探した。

 途中、巡回監視中の魔導機兵の背中に金属板を張り付けて、


「医局は何処だ? そこにある共振針と静止式血環固定盤 というやつを手に入れたい」


 とあろうことか質問をしていた。

 張り付けられた金属板が淡く明滅すると起動し、魔導機兵の瞳が一度だけ強く発光し、ヴァルドは直立したままその反応を見つめていた。

 魔導機兵の音声機構が作動する。無機質な声が、空気を震わせた。


「確認:医療処置指令認証。照合一致。共振針および静止式血環固定盤は、北側倉庫第二医局格納庫に保管中。階級認証により立ち入り制限は解除されました」


 ヴァルドは軽く頷くと、背を向けて通路を歩き出した。歩みは静かだが一分の無駄もない。


 魔導機兵の機構機能を欺くための金属板は、“彼”しか知らない古代制御符式の応用によるもので、それを一部再設計し、こうして帝国内部で人知れず動くための鍵にしていた。


 北側通路の扉を越えた瞬間、警戒用の魔導結界が軋む音を発する。瞬時にヴァルドは片手を上げ、警戒用の魔導機は沈黙したまま誰に気付かれることもなく、扉は音もなく開いた。


 ——第二医局格納庫。


 中は薄暗く、長机に整然と並べられた古びた医療器具と、石造りの棚に積み上げられた木箱や布包があった。医務官など誰の姿もない。人間種の兵士が一人、簡易な寝椅子の上で鼾をかいているだけだった。


 (共振針……それと、静止式血環固定盤)


 無駄な動きなく、ヴァルドは棚を巡り、必要な器具だけを手に取り、革袋に収めていく。

 しばらくして扉の向こう、巡回の獣人兵の足音が近づいてくる。ヴァルドは袋を背に回し、再びフードを深くかぶると、目を逸らさず、獣人の兵士とすれ違った。


「てめぇ、そこで何してやがる……」


 と低く唸る声に、ヴァルドは何一つ臆せず応えた。


「医療処置の為の器具移送の命令だ。魔導機兵の認証は済んでいる。文句があるなら第一兵舎の部隊長に言え」


 言葉に力はない。だが声には奇妙な“納得させる重み”があった。


 獣人兵は数秒間、警戒の唸り声を喉で転がしてから、鼻を鳴らした。


「……チッ。くだらねえ命令ばっかしやがって」


 ヴァルドは視線すら送らず、そのまま通路を進んで、施設の裏手に進み、海岸に通じる崖の上から、躊躇うことなく身を投じると夜の潮風の中に消えた。



 リシュタ家の隠れ家である地下の小さな空間は、重い静寂に沈んでいた。

 部屋の中心、古びた寝台の上で、命の火が今まさに揺らいでいた。ライル・フェル=リシュタの胸が、浅く、断続的に上下している。血色は悪く、額に滲む汗が冷たい。


 ルミナリスは、長机の上に薬品とヴァルドが持ち込んだ器具を並べ、魔導術式を展開していた。淡い青白い光が、彼女の指先から放たれる。正確無比な微細な魔力の流れを感じる。深い海底に潜るような息苦しい集中が、周囲に緊張を強いる重みを生んでいた。


「始めます。なるべく静かにしていてください。私の魔力波を外科処置の器具への魔力波干渉域に合わせる必要がありますので」


 ルルリアがうなずき、子どもたちを自分の腕の中に引き寄せ、 ノエルは涙を堪えながらその小さな指をぎゅっと握って、ルルリアに抱き着いた。

 エルもまた、震える膝を抱きながら、目を逸らすことなく、兄の姿を見つめていた。


「魔導術式、展開」


 ルミナリスは共振針を手に取ると、魔力の震動と同期させた。血管の脈動と魔力の波長を合わせ、弾丸片の位置を定め、慎重に挿入する。


「……心臓の上部静脈を越えました。次は、魔力血環を固定します……」


 帝国の兵器は魔法魔術を操るものの魔力を乱し破壊することに重点を置いたものが多く、魔導弾丸もその一つだ。僅かな破片でも体内にあれば、血流にそう魔力の流れを追い、血管を通って、魔力溜まりの中心である心臓や脳へと向かい破壊する。


 この少年は幸いだった。

 魔力が少なく破片の進みが遅かったこともあるが、元実験室の魔力の残滓と医療用魔法陣が刻まれたベッドが身体に潜り込んだ異物に干渉していたことが大きい。

 高精度の制御魔法陣が寝台の下に浮かび上がり、血管にかかる魔力の負荷を一時的に中和させる。

 表情一つ変えないルミナリスのこめかみに冷や汗が一滴だけ伝った。本人はそのことに気付いてはいないが、ルルリアもヴァルドという青年もあわせてその様子を見つめていた。

 難航しているのだろう。


「兄ちゃん……兄ちゃん……」


 ノエルが思わず声を洩らしそうになるのを、ルルリアがそっと頭をなでて落ち着かせる。

 ルルリアの眼差しは、エルとノエルに出会ったばかりとは思えないほどに優しく、そして揺らぐことなく、この小さなもの達の覚悟を全身で見守っていた。


 ヴァルドの視線は、ルミナリスの手先に宿る光の動きに囚われ、異様なまでの関心を注いでいた。

 手の動きと魔力操作。微に入り細を穿つその精密さ——それはまるで、何か別の存在が行っているような正確さだった。

 正確な時間を刻みながら制御された技術は、もはや「人の行為」ではない。


(……何者だ? )


 灰色の瞳が疑念により細められる。

 術式操作、医学的判断。すべてが、あまりにも整っている。

 人ではない何者か? 若く見えているだけの熟練の徒か? 

 ただ悪い存在ではないのだろう。

 ヴァルドがそう確信したその瞬間、ルミナリスの手が止まった。


「……全ての破片の摘出と魔力安定化、完了しました。生命機能、安定化中。多少の魔力障害は残るでしょうが、生命は助かります」


 ルミナリスがそう告げて、器具を静かに置き空間から魔導術式を解いた時、空気がふっと緩んだ。

 寝台の上のライルの胸が、先ほどよりも深く呼吸をしている。

 ノエルは思わず兄の顔に縋り、エルも小さな声で「お兄ちゃん」と何度も呼びかける。


 ルルリアは静かに背中をそっと押して、二人に頷くと自分の事のように笑顔を浮かべた。


「ルミナリス……ありがとう。本当にありがとう」


「私は何とか生きようとする命をつないだだけです。……これからが本番でしょう。過酷な現実に立ち向かう、強い意志で生き続けなければ、直ぐに失われてしまいますから。ルルリアさん。貴女は何故見ず知らずだった子供たちに、そんなに親身にできるのでしょうか?」


 ルミナリスは返答しながらもルルリアの言葉を思考領域で分析していた。

 あったばかりの相手なのに、なぜそこまで感情移入するのだろう?どうしてあんなに嬉しそうなのだろう? 性格人格に影響した過去の出来事の何かに重ねて自分を見出しているのだろうか?


 ルルリアが笑顔でウィンクしながら更に返してきた。


「とか何とか言っちゃってさ。あんたも大概嬉しそうだけど、ね」


 その言葉に、ヴァルドの眼差しがわずかに動く。

 ルミナリスは笑顔を浮かべており、その瞳には温かい意志を感じる。


「流石に考えすぎ……か。人もどきであるはずもないな」


 そう呟くと、外を見てくると一言告げ、食べ物と高価な薬の入った籠を置くと闇の中に足を向けた。

 ルミナリスはほんの少しだけ、何かの思いが波紋のように思考領域で揺れているのを、ただ静かに事実として受け止めつつ、ヴァルドの背中を見送った。


 ヴァルド…… 要注意個体として認識、黄色の領域に設定。


 魔導機兵には有り得ないはずの予感めいたものを感じながら、視線を子供たちへと戻した。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


少しでも楽しんでもらえたなら幸いです。

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