第8章 禍根Ⅵ ~ 異形のモノ
神々はのたまふ。
様々な姿を纏い、言葉をあやつり惑いの境地にいざなふ邪なる存在あり。
その身は呪詛のそのものにして、運命を歪めるもの。
神々に敵し、魂を蝕む呪いの声を発する。そのもの自らを〝悪魔″と称す。
~本文より
不意にグランに強い耳鳴りがおこり、訝しんでいるとその脳裏に、昔読んだ古文書の一節が過った。
神々はのたまふ。
様々な姿を纏い、言葉をあやつり惑いの境地にいざなふ邪なる存在あり。
その身は呪詛のそのものにして、運命を歪めるもの。
神々に敵し、魂を蝕む呪いの声を発する。そのもの自らを〝悪魔″と称す。
ヴァリエラがちらりとこちらに振り返る。その目は金色の虹彩に染まるとほんの一瞬だけ、“裂け目”のような揺らぎが走った——。
「ねえ、グラン卿。……あなたは、随分と勘が鋭く、目端が利くお方とお見受けいたしました。余り余計なものを見すぎますと、望まぬ運命に変わる瞬間に立ち会う事にもなりましょう。そのお覚悟、おありでして?」
グランの胸に、ぞくりとした寒気が走った。こちらをすべて見通している。
あれは矢張り、人間ではない。魔人なんかよりもっと良くない存在だ。
戦場で何くれにつけ自分を導いてきた勘が強く囁き、確信へと変わった。
イザベラ……我が愛しのミゼア………お前の光を曇らそうという存在は、どんなものでも排除する。安心しろ。
グランはへそに力を入れ覚悟を決めた。
音も立てずに溢れ出る毒は、その元を絶たない限り、静かに流れ続ける。手に負えなくなる前に断たなければ……。
強い決意と共に自慢の魔導機構を組み込んだ剣に手をかけ、ヴァリエラへと足を向けた。
ヴァリエラはその殺意をうなじで受け止めながら、妖艶な笑みを浮かべている。
腰の剣に手をかけたまま、必殺の間合いにヴァリエラの全てをおさめたグランは、殺意を込めたまま低く告げた。
「最後にもう一度尋ねる。ミゼア—— イザベラ様から離れろ…・・・二度と顔を見せなければ、何もしない」
「あら、お優しい事……最後の警告かしら? 困りましたわね? イザベラ様」
ヴァリエラはグランに振り向かず、そっとイザベラの肩に触れる。
イザベラは急にヴァリエラを庇うように、グランの前に立った。
「私が傍に居て欲しいと言っているのです。余計な真似を——」
きつい眼差しのきつい言葉を気にすることもなく、グランは真っ直ぐに愛情にあふれた目線で、イザベラの片手を恭しくとった。
「ミゼア……俺はお前の剣で盾だ。約束したろう? お前の敵は退けるしお前を守る—— この命がある限り……だから、お前は真面目な人が腹一杯食える、良い国づくりをする。これがあの日の約束だ、ミゼア…… 他人の為に理想を掲げ、己の全てを捧げる強く心優しき娘よ。負けるなっ、自分を取り戻せっ」
ヴァリエラはグランの言葉を耳にし、あからさまな侮蔑の笑みと共に言葉を発した。
「イザベラ様……惑わされてはなりません。お美しいお体に刻み込まれた痛みは……拭い取らなければ、痛いままですわ」
イザベラはヴァリエラの言葉に従うかのように、グランの言葉に動じることなく、手を振り払った。
「何を—— しているっ、私はイザベラ・カリスだっ」
その声は、震え、裂け、泣いていた。
睨みつけられたグランは、委縮するでも怒るでもなく、ただただ真っ直ぐな愛情でイザベラを見ていた。
どんなに辛くても泣き言を言わず、まじめな皆が良く暮らせるために、貧民街をなくすために、自分の全てを捧げて帝国のシュマルハモトとなった少女の心根を、片時も忘れたことはない。
その瞳の色がイザベラの視線に交わった時、怒りの表情が、すぐさま悲しい顔へと変わった。
「……私は……私は……おじさん……お願い——やくそく……」
途端に苦しそうな表情へと変貌した。
「ああ、俺は何時でもお前の味方だよ。ミゼア」
次回、イザベラを救うべく、顕現するモノに立ち向かうグランを描きます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
丁寧に書いてまいります。




