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機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき
第7章 暁の楔

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第7章 暁の楔(クネウス・アウローラエ)Ⅶ ~追憶

『『星降る指先の印』ヴァリエル・ノータを辿り、迷いの霧を越え、神の花と王樹の導きを受け、凍てつく金冠を頂きなさい。そして、精霊の祝福を得たとき……“道”は開かれます。お進みなさい、ルミナリス。貴女の“道”を——“想い”の先を——』


 風が吹き、光が解け、亡霊の巫女は“使命を果たした”と微笑みながら、ゆっくりとその姿を光の泡と変え、消えてゆく。


 その様子を見つめながら、ルミナリスは立ち尽くしていた。

~本文より

 今宵は、空に砕けた鏡のような無数の月の欠片が浮かび、星の涙がこぼれるように、淡い光が雲間の上に散っている。

 神々と巨人と神龍の三つ巴の大いなる存在の争いによって引き起こされた、天の嘆き——『涙の満ちる夜』と言われる所以だ。そのひとつひとつが、遥かな空でいまもなお泣き続ける“天”の名残なのだと、古くから語り継がれている。


 海辺に立ち、海神の洞窟へと向かう二人の肩に、静かに夜の光が降り注ぐ。波音が彩を添え、その美しさに物悲しさを混ぜていた。

 ルミナリスはもちろんだが、ルルリアもいつもより静かで、多くを語らない。


 足元に寄せる波に光が揺れ、銀の砂に溶けていく。


「きれいすぎて、泣きたくなる」


 その呟きに、ルミナリスはゆるやかに振り返る。

 そして、どこか懐かしげな、けれど曖昧な違和感を覚えた。遠い記憶の底に、似たような光景がある。だが照合再現は不能。


「ええ、そのような気がします」


 答えながら、思考領域に乱れが生じ、適切な表現の解答を得られないという現象を確認する。

 胸がざわつく——人間の感情を表す言葉が適切解であることを認識はしている。何かが、呼びかけているような気がする。けれど、それはまだ記憶領域にまで届かない。


 そして、ふたりは“海神の洞窟”へと足を踏み入れた。


 波間から現れたその洞窟は、ただ静謐であった。神秘的な荘厳さではなく、ひたすらに静かな海食による洞穴。足元を気にしながら奥へと進むふたりの前に、白銀の光がふわりと揺れた。


 柔らかな光の先——そこに、ひとりの女が立っていた。


 白い衣。銀の髪。透けるような姿は、この世のものではない。けれど、どこか優しさと慈しみを帯びた眼差しは、確かに生の名残を宿していた。


 ルミナリスは瞬時に分析し、その女性の状態を把握した。


「貴女は魂魄とエーテルの集合体……一般的にいうところの“亡霊”ですね。どうしてここに?」


「私は、生命の女神シレンシオ様にお仕えしておりました巫女でございます。かつて己の犯した罪により、罰として“涙の満ちる夜”にのみ、こうして姿を現し、運命を織り成す者に言の葉を託すよう申し付かっております。慰みに此処を訪れた者達に、預言を与え、災禍を避ける手伝いもさせて頂いておりました。私の真なる姿を見分けた貴女様こそ、託宣を伝えるべきお方。それがどのようなものなのかは分かりませんが——お伝えしなければならない言の葉を紡ぎます。お言葉の主様は、偉大なるシレンシオ様の巫女であられるレアリア・ヴァナ=リルシア様です」


 その声は風のように柔らかく、しかし確かに耳と心を打つ。


『あなたが私を覚えていなくても、私はあなたを忘れませんから安心してください。私は王都が陥ちる前に、すでに私の命運を視ております。あなたが気に病む必要はありません。私が選び取り進んだ道なのですから。そしてこれからの未来の先に、あなたが選ぶ“道”への助言を、ここに伝えましょう』


 巫女の亡霊は、そっと片手を波間にかざす。すると波紋が広がり、鏡のような澄んだ水面に幻想のように光景が浮かび上がる。


 深き霧の先、神の器とされる美しき花、巨人の杖と謂われる聳え立つ巨大樹、巨竜の封印といわれる剣峰の先にある永久氷壁。

 そして、最後に煌く蝶たちが輪となって舞い、光の精霊が微笑む光景。


『そこに、アルゲントルムの隠れ里があります。忘れられた血脈、失われた契り、あばかれる辛き真実、そして——希望が、残されています』


 巫女の霊は、そっと目を伏せ、言葉を重ねた。


『『星降る指先の印』ヴァリエル・ノータを辿り、迷いの霧を越え、神の花と王樹の導きを受け、凍てつく金冠を頂きなさい。そして、精霊の祝福を得たとき……“道”は開かれます。お進みなさい、ルミナリス。貴女の“道”を——“想い”の先を——』


 風が吹き、光が解け、亡霊の巫女は“使命を果たした”と微笑みながら、ゆっくりとその姿を光の泡と変え、消えてゆく。


 その様子を見つめながら、ルミナリスは立ち尽くしていた。

 胸の奥がざわついている。


 魔導信号を制御する管理領域から、幾つもの警告が立ち上る。

 ——記憶領域と思考領域に、エーテル以外による不明な干渉波を検知。防御機能を発動。干渉排除実行……排除失敗。干渉波増大中。身体機能一時停止を推奨……。


(大丈夫……。害はない……受け入れて……)


 また、体の中からあの不思議な声がする。

 ルミナリスは声に従い、警告を停止し、魔力干渉への抵抗を止め、受け入れた。


次回、ルミナリスは戦闘の記憶を取り戻します。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

とても嬉しいです。

少しでも楽しめて貰えたなら、幸いです。

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